◆166・自由を謳歌するポニドラ
魔力注入をしたことで、ポニドラたちは十五センチほどの大きさになった。
昨日のポニバス様はニ十センチほどあったけれど、これくらいでいいだろう。
五体もいるのに、あんまり大きくてもね。
それにしても……、こんなおマヌケ顔な珍生物の中身が竜。
「………………」
まぁ、本人……本竜たちが喜んでいるので、人間は何も言うまいて……。
私だって、別にポニワが嫌いな訳ではない。
むしろ、この世界の魔植生物として出会っていたなら、『ナニコレ、おもしろい、かわいい!』と言っていたであろう。
だけど、ポニワは私が生み出してしまった魔植生物だ。
ファンタジー映画に出てくるような、ゴリッゴリのマンドラゴラを喚んだつもりが、出てきたのは《ぽぉ~》なハニワだったのだ。
ケ●シロウかと思って肩を叩いたら、振り返ったのはケ●シロウに擬態したメ●モンだった気分だ。
故に、ポニワに関しては、『かわいい』よりも『解せない』という感情の方が強く働くのである。
そんなポニワに世界の頂点的存在であろうお竜様たちが入り、ここに集結しているのかと思うと、複雑な気持ちになるだけだ。
「《リリアンヌ》」
「はい、何でしょう?」
「《飯が食いたいんだが?》」
そう言うポニドラたちに、アイテムボックスにストックしている私の料理を出そうかと思ったのだけど、『この宿の料理も中々にゃのだ』というナツメさんの言葉に、ポニドラたちが食い付いた。
まぁ、皇族が泊まるようなお宿なのだ。サービスも、料理のお味も満点なのである。
という訳で、起きなきゃ良かった……と思う寝起きを果たした私は、着替えて食堂に行くことにした。
ポニドラたちは、全員、私の『使い魔』という設定なのに、私の方が『使い魔』のようである。
「リリアンヌ、それは……」
「嫌デスワ、ロイド様。聞カナクテモ、察シテラッシャルデショウニ」
「………………」
部屋を出て、廊下で遭遇したのはロイド様と、ロイド様の側近二人。
そんなロイド様が見ているのは、私の肩やら頭やらに乗っている珍生物だ。
言わずもがな、ポニワに憑依中の竜族たち、ポニワドラゴンズである。
とりあえず、ロイド様には軽く説明をしておく。ここ、廊下だしね……。
「《お主がロンダンの皇子か》」
「ハイ……」
ロイド様に増えたポニドラたちを紹介すれば、『ポニバスショック、再び!』みたいな顔をされた。
まぁ、白竜であるポニバス様と同じような個体が増えているのを見た時に、『まさか』と思いつつも、きっと察していたとは思うんだけどね……。
とはいえ、本体ではないにしても、竜族が五体もここにいると分かれば、現実逃避したくもなるだろう。
しかも、見た目がハニワ。
この世界に『埴輪』があるのかどうかは知らないけれど、とりあえず、竜のイメージとは真逆と言っても過言ではないような見た目であることは間違いないだろう。
ロイド様の目が虚ろである。
「《あら、その指輪……》」
「この指輪は……」
「《擬きだな》」
「《しかし、『擬き』にしては出来がいいな》」
「擬き……? ですか……?」
「《人が『アーティファクト』と呼んでいるものを模した、『擬き』という意味だ》」
「…………いえ、これは『擬き』では……」
「人間は『アーティファクト』と『擬き』が見分けられにゃいのだ。故に、勝手にゃ思い込みで区別しているらしい」
「《そうなのか》」
「え……」
そういえば、ミルマン兄さんとアーティファクトの話をした時に、そんな話があったね。
『アーティファクト』は来訪者が作ったものだ。それ以外は『擬き』と呼ばれる。
しかし、それを知っている人間はいないらしい。
作った来訪者自身は知っていた可能性が高いけれど、わざわざそれを公表するような人がいたとも思えないしねぇ。
そんなことを考えている間にも、ロイド様とポニドラたちの話は進み……。
その結果、ロイド様に妖精が見えるのは、装着している指輪の効果で魔力量が上がった結果であったらしいことが分かった。
つまり、それは、指輪を外したら妖精が見えなくなるってこと?
「殿下……!?」
「殿下、顔色が……」
さっきから、ロイド様の顔色が真っ白である。かわいそうに……。
ハインリヒさんとブラッドリーさんも心配そうだ。
「《そうねぇ? でも、ソレを外しても、そんなに変わらない気がするのだけど?》」
「しかし、これを外すのは……」
「《ふぅむ、しかし、その指輪……、もうすぐ壊れるのではないか?》」
「え゛!?」
――銀竜様!? とっくに彼のHPはゼロよ!
ロイド様の魂が、口から抜け出ていく幻影が見える。
息してますかぁ~?
「…………こ、国宝が、壊れる……?」
あ~、そういえば、本物のアーティファクトは国宝級って話だっけ?
それを教えてくれたミルマン兄さんは、自分の持っているアーティファクトこそ『擬き』だと思っていたけれど、実はそれが『本物』で……。
んで、『本物』だと思っていたロイド様のアーティファクトの方が、『擬き』だったと……。
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◆魔力増加器具
[効果] 三千の魔力増加
[効果時間] 装着総時間三十日
[製作者] サム・ダルトン
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魔力を三千UPか。
一時的とは言え、来訪者でなくても、そういう効果を齎すものが創れるってことだね。
そういうものが創れる技師とか、国が保護したりしていてもおかしくはなさそうだけど……。
ロイド様の様子を見るに、そうでもないのかな?
「《それより、早く飯を食いたんだが?》」
「《そうね……》」
「《うむ、これを楽しみに来たのだからな》」
――あっ……。
自由過ぎるポニドラたちにメンタルライフを削られるだけ削られ、放置されゆくロイド様。
憐れなり……。
ロイド様は抜け殻状態になりながらも、ポニドラたちの食事の手配をしてくれた。漢だね。
「増えてる……」
食堂に行くと、ルー兄や赤き竜の面々もいた。
そして、増えた珍生物に気が付いたらしい。
「リリィ、それ……」
「何か?」
増えたポニドラを指差しながら、私に何かを訴えようとするライ兄さんに笑顔を返す。
お竜様を指差すのはやめましょうね?
「だから……、そ、それっ……」
――言わないよ?
みんな、すでに白竜様であるポニバス様のことは知っているのだ。
だから、増えたポニドラたちの正体にも察しが付いているはずである。
しかし、宿の人たちもいるここで、ポニドラたちの正体を明言するつもりはないのだ。
みんな、私の『使い魔』って設定だしね。
それより、お竜様を『それ』呼ばわりするのもやめましょうね?
何も言わずにニコニコと笑顔を返していれば、ニックさんがライ兄さんを引きずるようにして、席へと強制連行していった。
――おさらばえ~。
そして、何とも言えない空気感のまま、朝食タイムが始まった――。
「食欲が……」
ロイド様!? 食べないと元気出ないよ?
今日、大公子様との話し合い、あるんだよね?
ほら、食べよう?
「緊張で……、胸がいっぱいですね……」
ミルマン兄さん?
ちょっと、お竜様が一匹から五匹になっただけだよ? 大丈夫。
料理、美味しいよ?
「《ほう、中々、美味ではないか? ――シュボッ》」
「《分かんねぇな。――シュボッ》」
「《分からないって言いながら、ずっと食べてるじゃない。――シュボッ》」
「《旨いなら、『旨い』と言えばいいだろう?――シュボッ》」
「《うるせぇ。――シュボッ》」
「《うむ、昨日食べたものも良かったが、これも良いな。――シュボッ》」
「………………」
――あ、ダメだ。絵ヅラがカオス。
ポニドラたちは、喋っても口は動かない。
料理を食べて(?)も、口は動かない。
それでも響く声と、虚空に消える料理……。
昨日のポニバス様で慣れたと思っていたけれど、全然だった。
しかも吸い込み方がレベルアップしてて、ちょっと刺激が強過ぎるでござる……。
「ファ……、ファンタジィ~……!」
「《む? リリアンヌ、また白目を剥いおるぞ?》」
そんなこんなでポニドラたちは、爽やかな朝をぶちk……切りs……、んんっ……。
爽やかな朝に、とても革新的な風景を齎したのであった――。




