第5話 ユメルサへの協力者(5)
藤本は、内垣のパーソナリティ復帰に関連して、気になることを私たちの前で言い出した。
「これはあなたたちが入社する前のことだけど……。一昨年に教育委員会が小中学生のケータイ・スマホ使用を午後9時までに制限するというニュースがあったが……」
藤本が言い出したのは、私たちが入社する前のニュースのことである。さゆ子は地元出身なのでそのニュースは知っているが、そうでない私と加世はそのニュース自体初めて耳にするものである。
「その際に、内垣アナは『あさネット健康一番』の中で子供のスマホ使用を『百害あって一利なし』として教育委員会の方針を全面支持したのよ。それに、学力テスト低迷の原因がスマホにあるとも断じていたわ」
藤本は、小中学生のスマホ使用制限のニュースに対する内垣のコメントを私たちに言うと、続けてこう切り出した。
「すると、普段からスマホを使うことが多い若手や中堅のアナウンサーからは、『あれは言い過ぎではないか』とか『成績が悪いのはスマホのせいにするのか』『家族とスマホの使用について話し合うことは必要だが、午後9時以降は使用するなというのはやり過ぎ』と批判の声が次々と飛び出したの」
藤本が言い続けたのは、ラジオでの内垣の発言に対する若手や中堅アナウンサーからの批判の声である。一方で、内垣の発言に賛同するベテランアナウンサーの存在を藤本は口にしている。
「これに対して、アナウンス部の小崎雄吾部長は内垣アナの発言について賛成の立場を取ったわ。小崎部長は『RKNニュースロード』のキャスターを長年担当している報道の顔であり、小中学生の学力低下問題は以前から何度も取り上げていたことも背景にあるけど……」
藤本は話し続けるのを聞いて、私たちはアナウンス部の中で若手・中堅とベテランとの間でギクシャクしているのを理解することができた。しかし、問題はそれだけではなかった。
「ここだけの話だが、小崎部長は報道出身である社長をはじめとする上層部との関係が深いという噂が社内で流れているわ。それと、小崎部長の前任者があの内垣アナなの」
藤本による一連の発言は、現在のラジオ部門が抱える問題のみならず、ベテランアナ復帰を巡るアナウンス部内の軋轢や上層部とアナウンス部長との噂といった表には出ないオフレコといえる内容であった。私たちは、アナウンサーという華やかな仕事の裏側の部分を垣間見る気がした。




