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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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告白⑤ 避難した先に

あの事件は思いの外長期間に渡ってマスコミに取り沙汰されたため、俺は嗅ぎ付けられる前に適当な理由をつけてこの診療所から姿を消した。それと同時に瞳の留学が決まった。

これで少なくとも物理的には身体の自由が効くようになった。しばらくは京都へ()()()()を送ることにした。別荘ではない。まずはK町にあるホテルに長期滞在した。が、あの改ざん問題の騒ぎが下火になってきた頃、どこをどう探し当ててきたのか寺西弁護士が俺を訪問してきた。今から考えれば使い慣れたからと言って都心のホテルに食いついてしまったのがいけなかったのだろう。正直言って俺は物心ついた頃から彼女はあまり好きではない。

寺西弁護士がドアを開けるや否や腰を抜かすほど驚いた俺に構うことなく、彼女は口を開いた。

「これは秀一君、いや、もう大人やから『君』呼びはおかしいな。秀一さん、随分と探しましたで。」

「先生、なぜここがわかった?」

「そんなことより秀一さん、お父様たちが…。」

「戻らないからな!」

この言葉に噓はなかった。しかし、本当に言いたいこと・知りたいことは喉まで出かかっていたが、口に出来なかった。寺西は勧められてもいないのに、部屋のソファに掛けた。まるで自分の家であるかのように。

「まぁ、何をそんなにムキになってますのん?あんたは跡取りとして、医師の卵として決してあかんたれやなかったはずや。そりゃ将来についてお父様たちとやり合ったのは聞いてますけど、あんなん私にもようあった事ですわ。それは分かるけどいきなり大学まで辞めてしまうなんて。あれから大奥さ...お祖母様は食事も喉を通らんようになってしもてお気の毒に。」

俺はイライラしてきた。何の事前連絡もなくこっちのテリトリーに入って来ただけでも気に障っていたのもあるが、それに加えてあの日、病み上がりの俺が何をしたのか、どうして急に大学を辞めたのかも、こいつは既に知っているのではないか?ありえる話だ。知っていながらわざとしらばっくれてやれ親が悲しんでいるだの、今からでも医学部に入ってやり直せだのと陳腐な口上を並べる老弁護士にとうとう爆発してしまった。

「そんな話なんか聞きたくもねぇ!もっと他に隠してる事あるだろ!俺が何も知らないとでも思ってるのか!」

効果はなかった。わかっていた事だ。案の定寺西は眉一つ動かす事なく話題をすり替えて来た。

「そうでしょうとも。今黒霧会は...秀一さんもよう知ってのことと思いますけど窮地に立たされてますんや。黒霧会(うち)の病院があのアホの医療機器メーカーと関わりがあったばかりに火の粉を浴びさせられる羽目になりましてな。その意味でも秀一さんには東京に戻って来てもらいたいんですわ。これまでの事は私らの方で何とか始末つけますさかい、黒霧会が穢れを祓って雪辱を果たすために医師目指しながらでもお父様達を助けてもらえませんか?」

口ではさも同情を乞うかのような、悲壮感溢れる文言を垂れていながら表情は眉をひそめるでもなく真顔そのものだった。話の通り危機的状況にありながら顧問弁護士として諸問題の対応もそこそこに、なぜ東京からここまで来たのか皆目見当がつかなかった。

とうとう俺は寺西のしらばっくれた態度に我慢できず、話を遮ってやった。

「もういいよ。先生、そんなお涙頂戴の口上を述べにわざわざご足労くださってどうも。それはそうと朝霧家にもう一人身内がいるんだろう?俺とはあまり歳の変わらないその…叔母にあたる人が。もしかして今回の騒動にはその人が一枚噛んでんじゃないのか?」

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