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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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告白④ 疑わしい話

予想通り、両親や姉達からは今まで言われた事のなかった罵言を浴びせられ、お祖母様に至っては泣き出される反応を受けた。だからと言って、俺は今でもこの行動に出たことを後悔していない。

阿鼻叫喚の実家を飛び出し、大学前の下宿先のマンションから安い二階建てアパートを借りた。大学を辞めた後の事を具体的に決めていた訳ではなかったが、医学部時代の知り合いの伝でしばらくは小さな診療所の事務員として生計を立てながら水面下では常に思いがけない血縁者の事を気にしていた。しかし、黒霧会とは直接の交流がほぼ無い勤め先を選択したこともあり、そう容易く遥さんについての手掛かりは得られず、遂には興信所に依頼してみようかと思った矢先だった。

思いがけない所から欲しいものが舞い込んできた。診療所に時々出入りしていた医療機器メーカーの営業と飲みに行く機会があったのだ。俺は自分の素性を隠しながら話をするのに苦心したにも関わらず、酒の入った相手から自分の会社について話を持ち出してきた。

「…ここだけの話、今ウチの会社もピンチなんですよ。」

「なんでですか?全然そんな風には見えないですが。」

「実はね…朝霧さんだから言うんですけど、どうも社内から大きな契約の機密情報を外部に漏らしたのがいましてね…。」

「えっ…。情報漏洩ですか?」

「…はい。その実行犯は朝霧さんと同じくまだ20代の若い女の社員なんですが、ウワサによると彼女とその直属の上司がいわゆる…コレ(指切りげんまんの仕草)らしくて、情けない話女の方が主導権握ってて上司を良いように利用しているそうなんです。と、言うのもその女は名門の国立大学の薬学部を首席で出てて薬剤師の国家試験の勉強しながらウチで働いてて、大学教授の推薦での入社だけあって仕事上は申し分ない人材なんですが、ちょっと素性がアレでしてね……。」

「…!『アレ』って?」

「(声を潜めて)小耳に挟んだだけなので不確かなんですが、彼女はあの黒霧の新しい理事長の隠し子だと言うんです!」

あの時ほど冷静さを保つのに必死だったことはない。俺は相手のグラスが空になっていたことを良いことに酒を継ぎ足し、相手を喋らせた。狙い通りだった。その隠し子は一見清楚だが、素行が、特に男女関係がだらしないこと、これまで数多のカップルや夫婦間に荒波を立てて来たこと、もちろんそれがために訴えられたこともあったが、強力なバックがいるためか、どれも大したペナルティを受けなかったこと、その女は大手に勤めてるとは言えまだ社会人一年生にも関わらず都心の高級マンションに住み、豪華絢爛な暮らしをしていること、そしてこれもあくまで噂の一つだが、その生活費のほとんどは黒霧会の先代理事長の遺産や事業資金の横流しから得ているかもしれないことなど俺にとっては大きな収穫があった。あまりにも不味過ぎるものだったが。

本来の俺なら、いくら不確定とは言えそんな人物像を聞けば忌避したことだろう。近づきたくもないと思ったはずだ。あらゆる人の幸せを壊しておきながら、自分は素知らぬ顔をして高みの見物を決め込む。どこから見ても人間性の腐った女だ。そう思い込もうとする頭の建前とは裏腹に、無意識のうちにその(ひと)に興味を向ける自分がいた。はるか昔に出会った不思議な少女、居心地の悪い様子で庭に立つ成人したその人。特につい最近の後者において悪女の影は全くと言って良いほど感じられなかった。だからこそ騙されるのだと指摘されても。あの時の遥さんの表情は怒りと悲しみが一緒くたになっていたのだと思う。眉間に皺を寄せたからと言って、それが怒りとは限らない。むしろ泣き出してしまいそうにも見えた。

(…昨夜彼が言っていたのは本当に遥さんなのか?別の女性社員とごっちゃになっていたんじゃないのか?かなり酔っていたし。)

収穫とは書いたが、その時は半信半疑でいた俺の元にその話をしてくれた彼と遥さんが当時勤めていた大手医療機器メーカーのデータ改ざん問題のニュースが飛び込んできたのはその数日後の事だった。よりによってその問題の中心に黒霧会が関わっていたことやメーカー側の開発部長の妻が夫の部下の女性を切りつけたことが大々的に報じられていたが、話に聞いた不倫の事や切られた女性についてのニュースは全くと言って良いほどなかった。

俺は知りたいことが多過ぎて、寺西弁護士に会おうかとも考えていたが、やめておいた。

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