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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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告白③ 多様な衝撃

遥さんが俺達一家に対して良く思ってない事が手に取るように分かった。俺は決して家政婦や庭師と同様にマイナスな感情で家の中から彼女を覗き見したわけではないし、後になって自分も外に出てフランクに話しかければ良かったかなと思ったくらいだ。ただその瞬間、率直に言ってまだ()()()()()()()()()()俺は「怖い」と「感じ悪い女」などの何ともガキっぽい感想しか思い浮かばなかった。


リビングでの3人の話し声が耳に入るまでは!!(濃い大文字で強調されている)


両親と寺西弁護士の会話が聞こえてきた。すぐに耳を傾けた。もっとも、その時は1階にいることすらご法度だったから、気配を消そうとしながら耳を傾けるのに必死だった。一語一句は覚えていないが、おおむねこんな内容だったと思う。


「…大丈夫や。あの娘は今のところ自分の出生のホンマの経緯を知りません。奥さんには不本意やろうけどもう少しあのままで泳がさしてください。」

「…今さらそんなこと!」

「しかし先生、本当に安心していいんですか?もっとも、あの子が生まれてしまってから我が家に『安心』なんてする暇なぞないのはわかっておるんですが。」

「秀臣さん、今まで何のためにこの私があの子にええ顔してきたと思たはるんですか?さっき話しましたけど確かに遥は勉学においては優秀です。物心ついた時から薬学にエラい興味持ってましたからな。そやけどアレはああ見えてモラルが大いに欠落した獣や。私の前ではネコ被っとるけど、ホンマのところヨソの人間なんざモルモットとしか思てへんのやなぁみたいな事が多々ありましたんや。まぁ、何と言うか因果なモンですわ。まるで亡き実の父親そのものですな。行きずりの看護師に手を出してしもたばっかりに…」

「やめてください!!秀一が居ると言ったでしょう!?」

父さんのあんなに取り乱した声は今まで聞いた事がない。同時に母さんは「あなたは私達とあの娘のどっちの味方なの!?」と相手を責め立てた。しかし呑気な事に俺はその時でさえ寺西弁護士が何を言ってるのか汲み取れなかった。

「そやけど今日は2階に()れと言うてるんでっしゃろ?それに秀一君も遥も立派な大人や。いつまでも誤魔化せられません。顧問弁護士として息子夫婦のあなた方が辛いのはよう分かりますが、いずれはあの二人にも明かさなならん日が来るでしょうな。どっちかから突き止められる前に。『城戸遥は、朝霧秀長が看護師を無理矢理犯して生まれたのだ』と。」

「…そんな事……二十四年前から重々承知ですよ!」

「ならよろしい。それにな、モノは使いようと言う事でどんな迷惑な存在でも有効活用してええように動かせる方法を考えましたんや。それは…」

続きを聞くことなく、無我夢中で二階へ駆けあがった。寝室のドアをすごい音立てて閉めた。


俺は生まれた家こそ裕福で、母親よりシッターにたくさん世話されてきたと言う自覚もある。幼稚園から高校まではずっとエスカレーター進学だった。周りはほとんどが政治家、会社経営者、大物芸能人を親に持ってるヤツらだった。だけど、自分は決してそこらの温室育ちのバカではないと自負していた。世の中には悲惨な出自の者が多く存在することも頭では分かっていたし、事実学校の授業や大学のボランティア活動を通してそういう人達と接する機会もあった。

今回の寺西弁護士の告白だって、できることなら何の感情もなく「ふーん、だから何?」という感想で忘れてしまいたかったのに…そう思おう、思わなければならないとするほど、胸がえぐられる感覚に襲われた。その時の俺は童貞ではなかった。人並みに交際経験もあった。なのにたった今窓から見た若過ぎる叔母に対して大きな衝動が身体中を駆け抜けた!その夜は夕食を自室で済ませた。頭の中は再び思い出される少女時代の遥さんと、大人になった彼女のあの刺すような眼差しと、それに重なるように生前の秀長の鬼の形相が頭を席巻していた。


その年の2月頃、俺は当時通っていた大学に退学届を出した。

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