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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
55/62

最愛の人が残した手紙

遥が手紙を読む事を希望したため、後に警察官立ち会いのもと朝霧秀一からの手紙兼遺書とも言える手記を開封した。

―以下は朝霧秀一から城戸遥に宛てた手紙


遥さん、あなたがこの手紙を手に取った時、残された状況からして(はらわた)が煮えくり返る思いをしていることでしょう。

僕は断じてあなたに濡れ衣を着せるつもりはありません。まさかとは思いますが、万が一警察があなたに対して僕を毒殺した犯人と決めてかかろうものなら、その時は担当の弁護士など信頼できる人にあのSDカードを渡してください。丸盆にメモと一緒に置いてあったものです。あの動画を見れば、余程の事がない限りあなたを黒どころかグレーにする事も有り得ません。

「弁護士」と言うと、あなたは猪一に寺西弁護士を思い浮かべるかもしれません。確かにあの人はあなたが物心ついた時からの知り合いで、あなたも全幅の信頼を寄せていると寺西先生本人から聞きました。

そんなあなたにこんな事を言うのは断腸の思いですが、紛れもない事実なので、はっきり言います。

()西()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ふざけないで!」と怒りを顕にするあなたが目に浮かびます。この手紙を書き始めた時にも、目の前で眠っているあなたが悲痛な顔で「ママ…」と助けを求めるように寝言を言っていました。

ですが遥さん、残念ながら寺西美紗はあなたの弁護を担当する事はないでしょう。なぜ僕がいきなりこんな不吉な事を書くのか、お盆に置いたメモに「寺西弁護士には知らせないでください。」と添えたのかはいずれ明らかになる事でしょう。ここで書くのは決して容易ではないですし、流石のあなたも冷静さを失いかねない事になりますから。

実を言うと、あなたが最初に飲もうとしたお茶の中には、恐ろしいマイタキシンを入れてありました。僕が入れたのです。そして僕が飲むお茶にも同様の毒を入れて、二人一緒に逝こうと考えていました。本当は山垣昌司教授(妻の父です)達からあなただけを服毒自殺に見せかける様に言われていたのですが、あなたが飲む直前でそれは間違っている事に気づき、死ぬのは僕だけで良いと考えて止めたのです。これを書き終えたらマイタキシンを仰ぐつもりです。安心してください、前から決めていた事です。やっとこの汚らわしいしがらみから解放されると思うと心がかつてないほど楽になっているのです。もちろん遥さんに出逢えたことは僕の人生の中の一番の宝物です。叔母と甥と言う関係でなければ良かったのですが…。


遥さん、あなたは生きて天寿を全うしてください。絶対に(下線部で強調されている)僕の後を追うことはしないでください!!

あなたには現世でやるべき事があります。今まであなたが傷付けてきた罪もない人達への償いです。それからおそらくですが、かつて警視庁に勤めていた天谷桂吾と言う人があなたに接触して来ると思います。あの人は今は脳の持病のため警察を早期退職していますが、京都に来る前に僕は天谷さんと寺西弁護士の事と少しではありますがあなたの事について話を打ち明けた事があります。天谷さんはとても聡明な人なので、そんな事はしないと思いますが、どうか遥さんを邪険に扱わないで欲しいとお願いしました。


長い乱文となってしまいましたが、これを以て僕の遺書と代えさせていただきます。そして僕の杞憂であれば良いのですが、後生ですからSDカードを棄てて「私が朝霧秀一を殺しました。」などと嘘の自白をして罪を被る事はしないでください。


令和〇年 七月二十四日午後七時三十分


京都の別荘にて 朝霧秀一

手紙は全体的に湿っていた。秀一の遺体と共に黒いビニール袋に入っていた手紙はこれだけではなく、もう一つあった。


遥はこの手紙を読んだ直後、一切の感情を表に出す事なく無表情のまま封筒にしまった。しかし、その夜の拘置所では彼女の嗚咽が一晩中響いていた。

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