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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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悪魔再び

「それよりも…大丈夫なのですか?何か飲んだ方が…。」

天谷のただならぬ様子を目の当たりにした遥は、席を立った。ティーセットの置いてあった棚からグラスを取ろうとしたのだ。すると、遥は天谷の席の横に置いてあるゴミ箱の中身が目に入った。そこに捨ててあった物から、遥は何かを知る事が出来た。

(これは…。そんな、嫌よ。あんな思いするのは秀ちゃん一人だけでこりごりだわ!)

様子を診るため急いで天谷の元へ近付こうとした。

「どうしたんだ。元の席に掛けるんだ。」

天谷は強い力で遥の手首を掴んだ。

「勘違いしないで。棚の瓶を取るわけじゃありません。あなたの事が…。」

「生憎だがここで事を起こす気はない。」

「そうじゃなくてあなたが頭に…。」

「いいから座れ!!話すんだ!」

天谷は自分でも驚くほど大声を出した。しかしここでホシにいたわられては、自分のプライドが許さなかった。

(秀一の言っていた事はあながち間違いではなかったのだろう。しかし、遥、お前は俺に情けをかけずに最後の膿を出し切るんだ。この件についてはお前の自供が全てだからな。)

エアコンが作動しているのにも関わらず、天谷の額には汗が浮かんでいた。

「さぁ、いい子だから話せ。今度こそこれが最後だ。」

汗を拭きながら遥に指示した。

(どうなってるの!?あなたは脳に爆弾を抱えてるのに、これじゃ秀ちゃんと同じで私には死ぬなと言っておいて結局この人も危ないんじゃない!?どうして現役の警官達に任せておかなかったの?)

信じられない表情で天谷を見た。遥はそれから数秒間悩んだが、話す事に決めた。死と隣り合わせであるにも関わらずここまで執念を持っている天谷の指示に従わなければ、たとえここで彼が命尽きた後、ずっと遥自身の心のしこりになると考えての事だった。

元の席に座り、遥は話し始めた。

「…その日の翌日でした。土曜日の事です。午前中だけ仕事の予定でしたが昨日の今日だったために欠勤しました。

午前九時頃、私の部屋のインターホンが鳴ったので出てみると、見知らぬ若い女がいました。ショートカットの、小柄な人がね。私は直感で(この人が秀一さんの奥さんなんだ)と分かりましたよ。ですが少し思っていたのと違いました。

『あなた…城戸遥さん?』

『そうですが。』

『私は朝霧秀一の妻。今すぐそっちに行くから開けて。』

『どうぞ。』

その前の夜から私はずっと泣いていました。泣き疲れて後追いしようと言う気力も起きないくらい。でもようやく私にもお迎えが来た。秀一さんに殺されるのが理想でしたが、彼の奥さんに送ってもらえるならそれも良いと、怖がるよりホッとした心地がしました。

ドアを開けるなり、私は彼女から一発平手打ちをもらいました。そして秀一をどこに遣ったと問い詰めました。

私は瞳さんがどこまで知っているのか知りたくて初めにこう尋ねました。

『よくここが分かりましたね。誰から聞きましたの?』

『あんたにそれ教える必要ある?』

『ですがこちらもある程度の情報を頂かないと何も教えられません。私から住所を教えた訳でもないのにこうして押し掛けて来て、いきなり顔をぶつなんて穏やかではないではありませんか。』

『ハァ!?あんたに穏やかかどうかなんて語れんの?私が何も知らないとでも思ってるわけ?』

去年アメリカから帰って来た瞳さんは秀一さんの様子を訝しがっていました。そこで正規の探偵を雇っていろいろ探らせていたようなんです。初めは秀一さんの浮気調査のみを依頼していたらしいのですが探偵から私についてただの浮気相手ではないと聞くと、瞳さんは追加料金を出してさらなる調査を依頼したのです。私の頭から足の爪先まで全部ね!その結果を父である山垣教授に知らせた事で私の毒殺計画に至ったみたいなんです。瞳さんが秀一さんに幻滅してはいないようでしたし、私の存在を知っても彼との結婚を破棄するのではなく私を排除すれば良いと決めていました。山垣教授にしても、日本を代表する医科大学の一族に娘を嫁がせることで自分の権威に箔がつくわけですからたかだか一人の邪魔な人間がいたからといって結婚を諦めることは父娘共々頭に無かったのでしょう。山垣家に秀長同様警察の捜査を抑え込める力があったかどうかは私には分かりませんが。」

今や遥は飄々としていた。山垣父娘に対する皮肉をかます余裕も窺えた。彼女は貴重な動機を話してくれたが、また、調子に乗って余計な事を言わせないようにしなければならない。天谷は考えた。

「それで、君が瞳に手をかけた経緯は何なんだ。実際は違うが復讐される気でいたんじゃなかったのか?」

「もちろんその気でいましたよ。どれほど瞳さんが私を憎み、侮辱し、嬲ったとしても返り討ちにする気はありませんでした。内心(早く私を殺して!秀ちゃんの元へ連れてって!)と念じていました。彼女が余計な事を言わなければ!」

「その余計な事とは?」

「彼女はさっさとリビングに入り、テーブル席に掛けるや否や私に何か持って来いと命じました。大した女ですよ!夫を殺したかもしれない女の家に一人で押し入って飲み物を出せなんてね!私は言われるがまま湯を沸かして紅茶を入れようとしましたが…。

『バカじゃないの?こんな朝からクソ暑い日にそんなモン飲ませるなんて。』

『ではアイスティーにします。ここに氷を…。』

『じゃなくて!!この私にそんな犬が飲むような安いもん飲ませんなってこと!他に何かないの?あぁ、あるわけないよねー。こんな家にさ。じゃぁフツーのサイダーでいいや。』

『…申し訳ありません。』

これが秀一さんの妻とはすぐに信じられませんでした。生まれ育ちはともかく、私はこの女よりはずっとましなんじゃないかと、真面目に考えてもそう思いました。ですがそれでも堪えて彼女の言うとおりにしようとしました。

『あーあ。朝霧のお父様もかわいそー。こんな駄犬を飼う羽目になっちゃって。なーんで生まれてすぐ処分しとかなかったんだろ。でも秀ちゃんもダメな男。朝霧家の跡取りだって言うから結婚してあげたのにさ、すぐにどっか消えちゃうんだもん。ホント使えねーわアイツ…昔っからウジウジして何の役にも立たね…。』

駆除してやろう…そうしよう。何の迷いもなく決心しました。…天谷さん、御存知でしょうが薬剤師や医師でなくても素人だって毒物を作成しようと思えば簡単にできるんですよ。身近にある物でね。その時の私の家はキッチンとリビングが一体となっていてカウンターで仕切られていましたが、それでも簡単にサイダーに似せた毒物を作ることができたのです。秀一さんのように穏やかに死ねない派手な薬をね!!

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