証言①
(以下、音声の内容)
「…私はあの女、城戸遥から脅されていたのです(震える声)。まさか、まさかあの動画が実在していたなんて!あれが世間に知られて私はもう外を歩けません!」
「具体的に何て脅されたのですか?」
「『もし私を訴えるなら先にアンタに強姦されたと主張する、動画があるからそれをばら撒く。』と言われました。その時は見せませんでしたがね。動画と言うのは、真夜中のY公園の茂みでその…逢い引きしている映像の事です。私が酒に酔って彼女を抱いていて周りが見えなくなっている隙を狙って、城戸は自分の携帯で撮影していたのです。しかしその前に私は妻に関係がばれていました。」
「それはどんな形で奥さんの知るところとなったのですか?」
「突然、妻の携帯に私と彼女の関係を暴露したメールがいかがわしい写真と共に送られて来たのです。妻は私を詰りました。今から考えるとあれは城戸の、私には教えていない別のアドレスを使って送り付けたのだと思います。いやもう参りましたよ。言い逃れできないほど顔がはっきり写っていたので。それで妻からあの女と関係を断たなければ2人とも訴えると言われたものですから、その翌日に私は彼女に別れ話をしたのです。」
「脅迫を受けたのはその時ですね?」
「…はい。」
「あなたはどう応じたのですか?」
「…言われるがままでした。城戸に別れる気はなく情けない事にその夜も共にしてしまいました。」
「しかし奥さんは黙っておられなかったでしょう。」
「…はい、とうとう法律事務所へ行くと言い出しました。私はいてもたってもいられず、すぐに今度こそ別れようと彼女に電話しました。また脅された時のために証拠をとっておこうと録音しながらね。電話に出た彼女に事情を話すと『慰謝料請求されても心配ない、あなたの会社から調達すればいい』と言ったのです!無論すぐに却下しましたよ。ところが彼女は『あくまで借りると言う意味であって、おそらく高額な請求をしてくるだろうから私も早く終わりにしたい。諸々の事が済んだら私が頑張ってやりくりして会社に返すから』と言いました。電話から聞くに、泣きじゃくっている様子でした。私に同情的でしたし、脅迫した事についても『あの動画は実は存在しない、あなたを愛するあまり、離れられるのが怖くてついあんな事を言ってしまったのだ。』と反省していました。そして何度も『全ては私の責任だ。あなたと奥様とお子さんに申し訳ない、直接謝罪したい。』と言われたものですから、逆に電話する前に城戸を悪者と決めてかかった自分が恥ずかしくなり、つい見栄を張って言ってしまったのです。『俺も男だ、君の言う通りにするけどここは俺に全て任せて欲しい。』と。ただ、会社から金を借りる場には君も一緒にいて欲しいとね。電話の後で録音データを削除してしまいました。『金庫を開けるのに立ち会って欲しい』と言ったのは…習慣だったんですよ、お金を出す際はその場に2人以上とね。ですが今回は事情が事情ですから社内の人間には頼めなかったのです。しかし、あぁ、私は愚かでした!金庫を開けた後の記憶がなくなっていて、気がつけば城戸と金庫の800万円が消えていたんです!あれは最初からウチの会社の金が目的だったんですよ!結局その後も会社に1円も返さなかったんですからね!家族への謝罪?そんなもんありませんでしたよ!あれ以来城戸の消息は分からずじまいでどこからかあの破廉恥な動画は結局ばら撒かれるし妻は人間不信になって出て行くし、その際子どもには軽蔑され、罵声を浴びせられたし、会社からは横領で告発されてこうして刑務所に入れられるし、あともうちょっとで定年だったのに!私の人生おしまいです!(泣き崩れる声)」
「…ちなみに城戸は、奥さんに知られる前からあなたが既婚者だと言うことを知っていたのですか?」
「もちろんです!最初に会った時から私はそう伝えていましたし、城戸もそれを承知で私と会っていました。時折彼女の方から私の家族について言及していましたから忘れていたと言うのはありえません。ちくしょう、あの女…」
再生が終わった。
「この声の主を覚えてるか?」男は尋ねた。
「もちろん。」遥は頷いた。
「誰なのか答えられるか?」
「前の職場の取り引き先、T化学工業の経理部長だった千歳正彦さんですね。お気の毒に、捕まったみたいですね。上手く逃げたとばかり思ってたんだけど。」遥は腕を組みながら、まるで他人事のように飄々とした調子で言った。
男は咳払いして低い声で言った。
「まだあるぞ、君の犠牲となった者の証言が。聞きたいか?」男は優雅にソファに掛けている遥をじっと見下ろした。その視線は冷たいものを漂わせていた。
「えぇ!是非に。」
男とは反対に、遥は目を輝かせながら応えた。




