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現代のギャンブル

 夕暮れ時、大きな人型の影絵がアスファルトやビルにいくつも投影されている様は、時代が進んでも変わらないものもあるのだと、妙な感傷を俺に抱かせた。

 もっとも、その影が映るビルは山のように高く聳え立ち、道路を彩っているのはホバークラフトみたいな車輪のない車と、街を巡回している膝丈程度の身長のロボットときては、その感傷も長くは続かなかっただろう。


 だろう、という推測なのは、郷愁の想いに駆られている最中に、無理矢理手を引かれて歩かされたからなのだが。


「つうか、マジで行くのかオマエ等?!」

「そりゃ勿論。サイコ・トーナメントのチケットがあって、大スポンサーもいる。あぁ、今日のあたいはツイてるっ! これなら絶対勝てるっ! 300億メミュー……うふふふふ」

「大スポンサーって誰?」


 俺は呆れ気味に。ノリは何故か自信満々に。

 そして話の流れがつかめていないアイツは、訳がわからん状態で俺達についてきていた。

 不気味な笑い声をもらしている奴がいれば周囲から白い目で見られるのは当然なんだが……群衆の視線はアクセル全開で俺達の手をつかんでグイグイ引っ張っていくノリではなく、されるがままに従っているアイツに向けられていた。


 それが、何故かわからないが気に食わ……ぶふっ!


「な、何しやがるっ!」俺は平手で叩かれた頭をさすりながら怒鳴り返した。

「そんなシケタ面してるからさ。そんなんじゃツキが逃げちゃうよ」


 ノリは能天気に笑うと、今度はアイツの微動だにしない頬を両手でつまみ、むにむにと伸ばし始める。


「カグラのお嬢も。ほら笑った笑った! 笑う門には……あれ? 何が来るんだっけ?」


 眉間にシワを寄せ、難しそうな面持ちを俺に向けて問うノリを見て、つい苦笑を浮かべてしまう。

 しかし、頬をノリにいじられているアイツの顔からは何も読み取れなかった。


                       *


 トウギジョウ―闘技場だろうか?―と呼んでいる施設なのだから俺は古代のコロシアムを巨大にしたものじゃなかろうかと想像していたのだが、目の前にあったのはでっかくて、横幅も尋常じゃなくあるビル。建物の一階は全て駐車場になっているようで、数えるのもうんざりするくらいの車が駐車されていた。


 入口と思しきゲートまでの道はやたらと長い上、赤い高級そうなカーペットが敷かれていたため、正直その上を歩きたくはなかったが、すれ違う人や後ろから俺達の後についてくる人達は、そんな事微塵も気にしていないようなので、仕方なく絨毯の上を歩いている。


「それにしても、スゴイ人数だな」


 前方でも何らかの手続きを行っているのか、かなりの人だかりが出来ている。もう少しスムーズに進んでくれると助かるんだが。


「そりゃサイコ・トーナメントだからね。しかも対戦カードが鮮血の魔術師と顔無しの暗殺者。ここ数年じゃ最高の組み合わせだ」


 ノリは弾んだ声で疑問に答えてくれたが、何を言われているのか内容がさっぱりわからん。


「そもそも、サイコ・トーナメントってなんなんだよ」


 ノリは俺の発言に仰天したかのように目を丸くし、俺の顔から足の爪先まで遠慮なくジロジロと眺め……


「彼は最近冷凍冬眠から解凍されたばかりで、この時代についての知識が不足している」


 周囲の会話に混ざっている状況下であり、かつあまり大きな声でもないのに、アイツの声は不思議と通っていた。

 ノリはアイツの指摘に、あぁ、と合点したように頷く。


「そうかそうか、じゃあ知らなくても無理ないか。簡単に説明するとね、超能力合戦だと思えばいいよ」


 超能力合戦、って?


「炎とか水とか出して、それをぶつけて勝負すんのさ」


 ……現代は超能力まで開発されているのか? いや、言語情報とかを電気的な刺激を与える事で、知識として特定の個人に定着させる事が可能なのだから、超能力を与えられたって不思議ではないか。


「正確には、超能力を引き出す道具が必要」


 興味なさそうに言っている割に知識はあるんだな、アイツ。


「ん、カグラのお嬢の言うとおり、道具が必要でね。大概はこの道具をどうやって封じるか、あるいは破壊するかが勝負のポイントでね。これが見てて面白いんだよねぇ」


 うーむ……ボクシングとか好きじゃなかったからか、どうしてノリがそんなに面白い、と言えるのかがちょっとわからん。


「ま、実際に見てみた方が早いよ、旦那。銃で撃ち合うガンズ・バトルなんか目じゃないんだから……ま、銃大嫌い人間のあたいがガンズ・バトル見る訳ないんだけどね。じゃ、チケット出してちょ。うふふふ、待ってて、あたいの三百億メミュー!」


 ……闘いそのものより、ギャンブルの方がノリには面白いのかもしれない。

 ノリは、入口と思しきゲートの数十メートル手前で佇んでいた、俺達と同程度の背丈のロボットに正対しつつ、不気味な笑い声をあげ、それでいて左手だけを後ろにいた俺に向けて差し出している。

 俺は心底嫌な顔で彼女の左手に三枚のチケットを乗せる。

 ノリはうふふ、ふふ、ふふふふふふと断続的な笑い声をあげている。


「材質照合オーケー、ナンバー照合オーケー、ホログラム照会オーケー。コチラ、パンフレットデス、ドウゾ」


 ロボットはぎこちなく礼を取り、俺達の後に続く客のチケットをすでに手に取っている。


「ま、たまにはいいか、こういう息抜きも」


 何か試験とかある訳でもないしと、俺は受け取ったパンフレットをぼんやりと眺める。

 そう心の中で呟いたのだが、この時は、まさかあんな事態に俺達が陥るとは夢にも思わなかった。


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