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テスト受けて最悪! って、どういうケースだと思う?

 診察は数分で終わった。

 俺の時代ではガンなどの発見に用いる、CTスキャンのような大型機械の中にパンツ一丁で入り、青い光を照射して何か調べたみたいだが、本当にものの数分で診察は終わっちまった。


「ま、人が見るって言っても、昔みたく聴診器あてて、ってのはもうやらんのさ。今は人が診察するにしても、ほとんど機械任せだよ」


 印刷機から、血糖値だの血圧だのがズラズラと記された紙きれが吐き出されていく。


「薬は、機械入った時に浴びた青い光だと思ってくれ。あれがお前さんの免疫力を活発にしてくれるから。で、これがその内訳だから、わかんねえと思うけど一応、目を通しておいてくれ。ところでお前さん、俺に診察してもらったくらいだから、24世紀より前の人間だろ?」


 俺は服を着ながらその紙切れを受け取り、頷く。


「だろうな。25世紀以後の人間なら、ロボットの方が正確だってわかってるからな」

「……俺、22世紀出身で、最近冷凍冬眠から解凍されたばかりなんであんまわかんないんですけど、医療の事情とかってどうなってます?」


 ズボンを履き、ベルトを締める。


「うん? どうなってるってもなぁ……昔はリンゴが赤くなれば医者が青くなるって言ってたが、今は、ロボにオイル差しときゃ医者に飯はいらない、って格言があるぜ」


 バットさんは胸ポケットから煙草を取り出し、これまた胸ポケットから取り出した、前時代的なマッチ箱をカシャカシャと音を鳴らしてから、気障ったらしく擦る。


「はー、うめぇぇ……! お前さんもどうだい?」


 俺にマッチ箱とタバコを差し出すが、あんな煙たいものがどうして美味いのかさっぱりわからん。親父は尊敬していたが、タバコを吸うのだけは納得出来なかった。


「これの美味さがわからんとは……人生損してるねぇ」


 顎鬚をなでながらつまらなそうに、丸いわっかの煙を器用に吐き出していく。


「まぁ今の時代、医者で飯が食えるのは、精神科くらいのもんだろうさ。俺のとこも大枚はたいて買ったロボの正確な診察と、イケメン医師のカウンセリングで繁盛してるからな」


 ニヤリ、と表現するのが適切な笑みをバットさんは浮かべるが……


「んだよ、その顔は。こう見えたって、患者さんから結構な数のラブレター貰ってんだぞ!」


 いや、そんな気合入れて睨まれても……どうにか話を逸らさないと。


「精神科の医者は食っていけるんですか?」

「ん? あぁ、さすがにロボにメンタル面のケアは出来ないだろう? 今の時代、ロボに出来ない作業を出来る奴が、成功者の一角を占めている……ってどした? 納得いかなさそうな顔してっけどよ」


 ……なんか、しっくりこない。


「今の時代は、死を克服したとても豊かな時代、ってイメージが俺にはあるんで。そんな、カウンセリングを受けるようなことが」

「無いって、本気で思ってんのか?」


 やや呆れ気味にため息をついてから、灰皿に吸殻を落とす。


「そもそもその『死を克服した』ってのも、科学的に克服したってだけで、人類全体が『死を克服した』わけじゃねえ。金がある奴は大概の事は出来るが、逆に言えば、金がねえ奴は大概の事は出来ねえ……まぁここは、街全体が、富裕層の連中ばかり集まって出来たとこだからな。俺より以前の時代に生まれた人間が、現代の貧富の格差なんてわかるわけねえか」


 ぷかり、ぷかりと煙を静かに、単調に吐き出していく。

 ……どこに行っても、いつの時代でも格差は存在する、ってことか。


「ところでよぉ、俺からも、一つ聞きたいことがあんだけどよ」

「? なんでしょう?」


 バットさんはパーマのかかった髪の毛をガリガリ掻きつつ、


「22世紀では、カウンセリングって、どうやってやってた?」


 ……えっと……


「オレ、カウンセラーじゃありませんよ?」

「今の時代の精神科ってのは、言うなれば気休めだ。安心してもらう為だけに、俺等ら精神科はああだこうだ言って、薬とは名ばかりのいい加減なブツを処方して患者を元気づける……はっきり言って、お前さんの時代より、精神のケアについては後退しちまったんじゃないかな」


 バットさんは苦虫を噛み潰したような面持ちで灰皿に煙草を押し付けた。


「で、話を戻すぜ。俺の患者でちょいと面倒な奴がいてな。どう対処したらいいのか見当もつかねえ。カウンセリングって20世紀前後に成立したらしいじゃねえか」


 おいおい、まさかとは思うけど。


「ちょっと待って下さいよ。患者がどういう状態なのかもわからずに、ど素人の俺が助言なんてしたら、ヒドイことになりますよ」

「大丈夫だ。何せヒドイを通り越してすでに最悪一歩手前だ」


 ……どんだけヒドイんだ。


「って言うか、最悪一歩手前ってのが、よくわかなんないですけど。二重人格とかになっているんですか?」


 バットさんは腕を組むと後方の机に体を預け、眼を閉じた。


「お前、テスト受けて最悪! って、どういうケースだと思う?」


 唐突に話が変わったな……


「0点をとること、でしょ?」0点が最悪の点数なんだから。


 ところがバットさんはチッチッと指を振った。


「違うね。お前さんの0点で最悪ってのは、超重要な『本番』でのケースだ。俺は、『テスト』って言ったぜ。練習問題、って言った方がよかったか?」


 本番でいい点数とるために予行演習の模試やったけど、最悪ってケースか……


「間違えた箇所がわからない、ですか?」


 俺の回答に、バットさんは不敵な笑みを浮かべた。


「どういうふうに間違えたのかきっちり理解しておかないと、本番でも同じ間違いするだろう? 間違いを、間違いだと理解していない。いや、出来ない……周りから見れば明らかに異常なのに、本人はそれを異常だとは思っていない……厄介だろう?」


 まぁ……それを精神病に置き換えた時に、最悪、と思うかどうかはわからないが、確かに厄介だとは思う。


「加えて、たった一つといっていい、その異常の部分だけを除けばあら不思議、どこに出しても立派な人物に大変身……ったく、どうしろってんだ」


 そりゃまた極端だな。


「聞いてみればいいんじゃないですか? バットさんがおかしいと思っている事を、その人は何故おかしくはない、と考えているのかを」


 まぁ、それが理解出来ないから、こうやって頭抱えているんだろうけど。

 バットさんは渋い面持ちで「……理屈ではそうなんだけどなぁ。どうしたもんかなぁ」とブツブツ呟いている。

 ん? 普通に話していたけど、何かずいぶん体調が楽になってるな?


「へぇ、さすがは22世紀の人間。現代人とは回復力も比べ物にならないね」


 いや、そんな即効性のあるものだったのか? 料金、大丈夫だろうな?


「ぶり返したら、またくるといいさ。料金はカードから落としとくから、ここで払う必要はないからな。毎度ありぃ」

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