甘かった考え
とにかく、情報が欲しい。
今の俺は、現代の常識についてわからない事だらけで、それこそ赤ん坊にも等しい知識量しか、ないかもしれないのだから。
まず家電店に足を運び、音声で全操作可能な音声併用手動入力タイプなるパソコンを注文してきた。
金はかかるが、情報の有無は死活問題だ。現在の俺の知識量を考えるなら、大金ではあるが、セッティング料及び送料込みで30万メミューをケチってはいられない。
幸い、アルファード社のCMに出ていたから、その出演料ということで莫大な金が通帳には振り込まれている。数百年は働く必要がないくらいの額だ。
……クレジットカードを出して購入したのだが、随分胡散臭そうな面持ちで見られたのは、ちょいとばかし腹が立った。
次いで、巨大ビル丸々一つが本屋という信じられない場所で、いくつか目に付いた本を手に取り、カウンターに向かった。
買ったのは『冷凍冬眠者に贈る サルでもわかる現代の常識』。
ここでも、出したクレジットカードを丹念に何度も調べられたのには、また腹が立った。
俺の身なりはそんなに貧乏臭いか?
本屋内にあるブースに陣取り、俺は本を読み始めた。
*
『冷凍冬眠者に贈る サルでもわかる現代の常識』に加えて、爺さん先生から借りた『バカでもわかる蘇生保険』も照らし合わせて読んだら、随分時間を喰ってしまった。
「クソ……まだわかんねえことが結構あるぞ」
俺の理解力はバカやサル以下だとでも言いたいのか、この本どもは?
「とりあえず……原因は、人口の過密化、土地不足ってことでいいのか?」
本によると、今は昔のように畑でえっちらおっちらと土を耕すのではなく、機械によって色々な素材を 大気や土から取り出して分子レベルで作成しているらしい。
水も、海水から色々な操作をして飲み水を確保出来る。
人類は、食料については問題をほぼ解決していた。
エネルギーについても、マイクロウェーブ発電、地熱発電、俺はどういう仕組みか知らないが、バイオ発電や圧力発電なんてものもあり、石油がなくても問題ない。
問題は、土地だった。
今、地球上の人口はおよそ600億。火星や月にも植民し、果てには宇宙空間にさえ、漫画のように居住地を確保したため、総人口は1000億。
これでは近い将来、居住地が足りなくなる可能性があると本には記されている。
だが、人類には永遠の時間があるのだから悲観する必要は無い、という意見で総括されているのだが……俺からすると、楽観的過ぎる。
住む土地がなくなるとなれば、どうにかして人口を抑制する必要が出てくる。
永遠の生命があれば、死人は出ない。
だが新たに誕生する子どもは、それこそ際限が無い。
「……まぁ、これも一つの弱肉強食か」
金を稼げる事を強さに見立てれば、あながち間違いじゃないかもしれない。
理屈はわかる。蘇生保険の、金が払えなくなったら蘇生はしないというこの常識は、人類という種、全体から見れば正しいものなのかもしれない……だけど、嫌な常識だ。
「……死ななくなっても暗い話題ばっかりなのは、どうしてかね」
本から目を放して辺りを見渡してみると、誰も彼もが悩みや苦しみはどこにもないって顔をしている人達ばっかりだ。服装を見ても裕福そうな身形で、全身から自信やら尊厳やら威風やらがどことからともなくドバドバと無意味に溢れ出している。
知識を脳に直接刷り込めるようになった現代では、本は娯楽以外の意味合いを喪失し、一部の富裕層の趣味となったそうだから、ここにいる人達が、そういう人ばかりなのも無理はないんだろうが、そういった『現代では優秀』とされているであろう人達が、この本に記されている数々の問題に気付いているとは思えない事が、さらに俺の気分を落ち込ませる。
「人が死なないユートピアだと言っても……問題が全然ない、なんて訳がないよな」
……俺の考えが、甘かった。
他にも結婚と離婚の違いについてとか、菩薩罪という聞きなれない単語、オリジナル保護法という、こちらは何となく見当がつきそうな項目があったが、いい加減頭が痛くなってきた俺は、二冊の本をバッグに突っ込んでその場をあとにした。
毛色が全然違う作品ですが、『フェイカー』という作品も更新再開したんで、興味がある方はそちらもどうぞ。




