ゴミ掃除
まず、先生方にアイツがどこにいるのか聞こうとしたが、ものの見事に無視された。多分、俺が世界一の金持ちであるカグラ財閥のお嬢さま相手にケンカふっかけたから、俺の味方をするとロクな事にならないと思ったんだろう。
アイツが金髪校長に対してウソツキと言ったのが、今ならよくわかる。無視する他の教師はまだマシで、金髪校長には露骨に鼻で笑われた。しかも『せっかく色々根回ししたのに、台無しにしやがって……』とかいう独り言が聞こえてきたから、どうやって俺の存在を知ったのかまではわからないが、色々と裏で手を回していた黒幕はコイツの可能性が高い。あの腹黒金髪校長によく殴りかからなかったもんだ、と俺は自分で自分を誉めたい。
生徒に聞こうとも思ったのだが、授業中だからか廊下には誰もいない。いや、仮にいたとしても、対応は教師と同様だったかもしれない。
つまり、俺はアイツがどのクラスに在籍しているのかすらわからない。いや、知る術が無い。
かと言って、こんなゴルフ場みたいな広さで、下手な山より高い校舎に存在する全ての教室を、一つずつ回っていくのか?
そんな事してたら、アイツを探すのに三日はかかり……待てよ。
俺は校舎を一旦出て、校門以外に、外へ通じる場所がないかを敷地外から探してみた。一時間かけて大雑把に見た感じでは、この学校に校門は一つしかない。
ああ、なら簡単。校門で待っていればいい。
*
お日様がジリジリとアスファルトを焦がし始める。
あぁ、クソ熱い。校舎の外壁に備え付けられた気温計には外気温31℃とある。
未来の地球なんだから、気候の制御くらいやってのけろよと思うのはダメか?
突然、校舎が活気を帯びたように感じた。
何かあったのかと思うと、腹がグー、と鳴った。
腕時計を見ると丁度お昼だ。
どこかで飯を調達してこようかとも思ったが、アイツが何かしらの事情で早退した場合、擦れ違いになるかもしれない。それはマズイから、却下。
……それにしても、暑い。
予鈴が鳴るのと同時に、昼食時同様の活気が校舎全体から迸ってきた。
腕時計を見ると、四時を過ぎていた。
一人、二人、と校門から生徒が去っていく。
彼等は決まってこちらを振り返り、本人達はさり気なく見ているつもりかもしれないが、思いっきりバレバレの態度で俺を嘲笑っていた。
聞いた? 多分あいつだぜ。カグラにケンカ売ったバカ。
あの自殺魔に? へぇぇ……でもケンカ売った奴が、なんだってここにいるんだ?
さあ? カグラに許しを請うために、あそこで待ってるんじゃない?
「……」まぁ、確かに、バカだったな、俺。
土下座とかでもすんのかね?
いや、自殺魔に許しを請うんだから、自殺してみせるんじゃないの? ハラキリなんて好きそうじゃない、あのカグラさんは。
何考えてるかサッパリわからないしな、あいつ。
「……」イカレてるってのは否定しないが、こんなに全員が全員陰口叩くほどじゃ、ねえんじゃねえか?
カグラ家の中じゃ邪魔者扱いだしな
そりゃ、Tだしねえ。カッコ悪りぃよ。
兄弟姉妹、みな優秀なのに、一番の劣等生だし。
この高校に入ったのも、コネだけで、脳力の点数はからきしだって聞いてるぜ。
「……」腹がへってるからかな、なんかイライラしてきた。
性格も悪そうだよな。いっつも一人でムスッとしてるしよ。
あははは、友達無し、知恵無し、性格最悪で、有るのはTと金だけか。
「……あー、ちょっと、そこの青い髪の、ネクタイが緑の奴」
そう、今、『オレ?』って指差したオマエ。
「ん、あんたあんた。いくら何でも、言い過ぎじゃねえ?」
俺も確かに、アイツはイカレテると思うし、性格もよくないと思う。
しかしだ。思うのはともかくとして、口に出す事はないだろう。
口に出すのなら、本人の前で言うのが最低限の礼儀ってもんだと思う。
でないと、改善のしようがねえじゃん。本人、気付いてねえのかもしれねえんだしよ。
それにアイツは、自分や身内の間違いを正した。
何の確証も無く一方的にアイツを詰った俺に対し、頭を下げる度量があった。
アイツのことは嫌いだが、趣味のように自殺する事さえ除けば、イカレちゃいるが、ボロクソに言われるほどヒドクはないと思う。
だが、青髪の男は俺の言葉の何かがツボにはまったのか、腹を抱えて笑い出した。
「はははは、面白い事を言うじゃないか!」
青髪の周りにいる連中も失笑を漏らしている。
「お前、校舎の中で真正面からカグラにケンカ売ったくらいだから、相当な田舎者なんだろう? だからあのゴミのことなんて何も知らないんだろう? おい、教えてやれよ!」
「カグラが世界一の財閥だってことは、知ってんのか?」
前に進み出て来たのは、クチャクチャとガムを噛んでいる小柄なドレッドヘアー。
「カグラの財力なら、知っている」
「オーケーオーケー。じゃあ、これはどうだ? アイツはな、Tだから、カグラでも厄介者扱いなんだよ!」
T? なんだそれは?
「街の恥だから、カグラ家も、あの自殺魔に対する風評だけはノータッチ」
「まぁ、さすがにカグラのお膝元のこの高校でタンカ切ったり、街中でも直接手を出したら、どうなるかわかんねえけど」
なるほど。Tってのがどういうものなのかはわからないが、どうしてこいつらが堂々と、逆らったら死ぬ、と言われるカグラ家の、正確にはアイツの悪口を言えるかはわかった。
要するにカグラ家の恥部なのか、アイツは。
アツシもアイツの事を自殺令嬢って言ってたな。
陰口は叩いてもいいが、アイツと接触して、何か問題があったらカグラ家に何をされるかわからないから、アイツに俺が接触しようとするのを、あんなに嫌がっていたのか。
ナガイさんもあまり良い感情を持っているようには見えなかったしな。
他のカグラの人間に対してはどうか知らない。
だがアイツに関しては、俺のように正面切って言うのはともかく、こいつらがこうやって騒ぐ程度であれば大丈夫なのだろう。
「ところでTというのは、なんの略称だ?」
ドレッドは噛んでいたガムを唐突に吐き出し、盛大に笑い始めた。
「傑作だぜ! マジかよT知らねえなんて! どんだけクソ田舎からやってきたんだ? 海王星か? 冥王星か?」
「ジョニー、まだそこはテラフォーミングすら開始されてねえよ! ひー、ひー、腹いてぇ」
後ろから青髪が、俺の肩を軽く叩く。
「おいおい、ヒントは出したろう? ゴミは英語でトラッシュだぜ」
青髪は俺の肩を気安そうに何度もバンバンと叩く…………気安く触るな。
「なんであんなのが財閥の娘なのやらわかんねえよ。ゴミはゴミらしく惨めに生まれて、ゴミらしく無残に消えればいいんだよ、ヒャハハハハハ」
そこから先に思考は不要だった。
そいつの肩を軽く叩きこちらを振り向いた所を頬目掛け、拳を振り上げ、一気に打ち抜く。
青髪が盛大に吹っ飛び、尻餅をついた。
「て、テメェ!」「何しやがる!」
「は? ゴミ掃除に決まってんだろ」
俺の答えに、人の形をしたゴミ共が、一斉に襲い掛かってきた。




