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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十六章

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149/160

149_帝国激震

 


 ソルダーク三等勲民の処分を行うのは簡単だが、今は帝国との戦争中である。そこで、王太子はソルダーク三等勲民を、療養させる(軟禁する)ことにした。

 また、東進していたバーレン特別州の諸侯も逃げ帰ってきたが、帝国領への侵攻を主導したセジル五等勲民とアッシュ五等勲民は帰ってこなかった。戦死したのか捕虜になったのか、今は不明である。


 バーレン特別州軍と諸侯軍の兵士は、四割ほどが帰還した。

 未だに逃げ回っている兵士も多くいるだろうし、捕虜になった兵士もいるだろう。そして、戦死した兵士が三割ほどになると、王国側は見ている。

 合計で七万人の兵士が帝国領に進軍していたのだから、死者数は二万人にのぼるだろう。溜息が出る数であると、王太子は頭を抱えた。


「この度の敗戦は、皇帝の怪我という嘘の情報に踊らされ、帝国の内乱が続くと思い込んだことだ。これは余の不徳の致すところである」

 王太子はアレクとブリッグス団長を呼び、キミリス城のエントランスから城下を見つめながら語った。非公式ながら自分の非を認め、帝国への侵攻を諫めていた二人に詫びたのだ。

 この時、アレクには大柄な王太子の背中が小さく見えた。いつも威風堂々としている王太子でも、落ち込むことがあるのだと感想を持った。

 王太子の背中を見ていた二人は、顔を見合わせ頷き合う。今回のことは独断で帝国領へ侵攻した者たちの勇み足であり、王太子のせいではないと視線で確認し合ったのだ。

「殿下。過ぎてしまったことは、仕方がありません。今はこれからのことを考えるべき時にございます」

 ブリッグス団長の言葉を聞いて王太子は踵を返し、二人を交互に見つめる。

「余はつくづく戦に向いていないと気づいた」

「そのようなことは―――」

 王太子の大きな手の平が向けられ、否定するブリッグス団長を制した。

「余がこのことに気づくのに、大きな犠牲を払ってしまった。だから、余は考えた」

 王太子の声に力がこもる。

「戦のことは、そなたらのような専門家に聞けばいい。余の我を通すのではなく、余を支えてくれる者の声を聞けばいいのだ。二人には余を支える柱になってほしい。なってくれるか?」

 ブリックス団長はともかく、アレクが戦いの専門家というのは些か疑問が残る。しかし、アレクはいくつかの戦場で大きな功績を立てている。少なくとも、アレクは戦が強い。本人はそう思っていなくても、周囲の目はそう見ているのだ。

 王太子の言葉を聞いたブリッグス団長が跪くと、アレクもそれに倣う。

「某の力が及ぶ限り、殿下をお支えいたします」

 ブリッグス団長がそう言って、頭を垂れた。

「私も王太子殿下のために、微力ながら力を尽くさせていただきます」

 アレクも王太子のために働くと誓い、頭を垂れる。

「二人とも、感謝する」

 二人の言葉に王太子は短く声を発し、再び踵を返して城下に視線をやる。その背中は先ほどとは違って、広く大きかった。短いやりとりだが、王太子の心が決まったのだと二人は考えた。


 ▽▽▽


 帝国軍が迫ってきている。すでに、バーレン特別州の半分ほどが、帝国軍に奪われてしまっている。

 王太子は諸侯を集め、軍議を開いた。

「帝国も巨大な落とし穴によって、戦を有利に進めた。これは虚構ではなく、事実である。このキミリス城と周辺の支城の周囲は、デーゼマン中将の土魔法によって補強された。帝国の土魔術による攻撃を受けても、防壁は崩れることないであろう。だが、帝国軍は二日もすればこのキミリス城に到達する。防壁は堅牢であっても、敵は我らに倍する戦力を有している。そこで、皆の意見が聞きたい」

 帝国軍はデラーズが直接率いる十万、とバーレン特別州軍を殲滅した五万がそのまま攻め寄せてきている。

 対して王国軍はデーゼマン軍二万、第三騎士団五千、キミリス城駐留軍一万五千、シュテイン州とバレッド州の諸侯軍五千、そして逃げ帰ってきた兵士で戦える者が二万五千ほどの総勢七万だ。アレクサンダー城には二万の予備兵力があるが、これを投入する判断は今のところない。

 帝国軍の半分以下の戦力で戦うか、それともアレクサンダー城まで退くか、はたまた他の案があるのか、王太子は諸侯の意見を求めた。

「よろしいでしょうか」

 最初に発言したのは、キミリス城に駐留している王国軍の司令官モークス・ブリエス少将である。壮年のブリエス少将はこのバーレン特別州を安定させるために駐留軍の司令官として派遣されているのだが、それは帝国に対する備えだけではなく移封されてきたバーレン特別州の貴族を監視し、時には諫める役目もあった。だから、バーレン特別州軍が帝国領に侵攻した時、これを防ぐことができなかったことで王太子より叱責を受けている。あくまでも非公式の叱責なので、彼の経歴に傷がつくわけではないが、王太子は次の国王になるべき人物なので、その心証はよくしておきたいという思惑がある。

「ブリエス少将か。構わん、述べよ」

「敵にもデーゼマン中将のような魔術士がいるのであれば、撃ち合いになれば不毛な消耗戦となります。その場合、数で不利である我らが負けるのは必定。どうにか、敵の土魔術を防がねばなりません」

 これまで、戦力の不利を補うために、アレクの土魔術に頼っていたところがある。しかし、帝国にもアレクに匹敵する土魔術士がいると思い込んでいるブリエス少将は、アレクと帝国の土魔術士同士の土魔術の撃ち合いによる消耗戦は避けるべきと主張した。

 王太子はチラリとアレクを一瞥し、ブリエス少将に視線を戻した。王太子も大魔法とも言うべき土魔術の撃ち合いは望んでいない。そんなことをしては、帝国軍はよくても王国軍は致命的なダメージを負ってしまう。

「ブリエス少将の言は理解できる。撃ち合いを避けるよい案があるのか?」

「帝国側にお互いに土魔術の使用を禁止する、そのような協定を持ちかけましょう」

 ブリエス少将のこの言葉には、会議室内が騒然となった。数の不利を覆すには、アレクの土魔術が必須だと思われている。それなのに、それを自ら封印するような行為は、さすがに看過できないとブリエス少将を非難する者もいる。それに、ブリエス少将の言葉はアレクのこれまでの活躍を考えれば、非常に失礼なものである。

「数の不利がある我が軍が勝つためには、デーゼマン中将の土魔術はなくてはならぬものだ。それを分かっているのであろうな?」

 王太子が剣呑な目でブリエス少将を見る。

「しかし、デーゼマン中将と同等の土魔術を撃たれては、堅牢な防壁も役に立たぬかもしれません。そうなっては、それこそ数の不利を受けましょう」

 王太子はブリエス少将が言っていることも理解できると思った。しかし、アレクの土魔術を使えないということが、王国軍にとってどれほどの精神的ダメージになるか測りかねていた。

「ブリエス少将の提案は理解した。他に意見はないか?」

 貴族たちがいくつか案を提示するが、その場では何も決まらなかった。それというのも、王太子が頼りにするブリッグス団長とアレクが何も言わなかったからだ。王太子は二人も迷っているのだと察し、時間を置いて判断することにした。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国側にお互いに土魔術の使用を禁止する、そのような協定を持ちかけましょう 自分のところは先の大戦で散々使ってボロ勝ちしておいて敵に使われたから禁止にしましょうってどんなアホでも「ハイそうで…
[一言] >「帝国側にお互いに土魔術の使用を禁止する、そのような協定を持ちかけましょう」 正しく必敗の方策!! 理由その1。 双方から同量の戦力を引いた場合、戦力の差は同じでも戦力の比は拡大する。 …
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