第12話 護衛任務2
護衛任務二日目。
初日のガイダンスを終えて、俺とアダン君はアルカディーさんに連れられて女王様も前へと顔を出すことになった。
城の最上階。
アルカディーが治めるこの街で最も高い場所に女王様の寝室はあった。
真っ白な部屋に、真っ赤な家具が置かれた、不思議な寝室だった。
そんな寝室に女王様は椅子に座って出迎えてくれた。
女王様の部屋ということもあり、扉には四人の騎士が配属され、そして一人。常に隣にいることが許された第十一位の騎士隊長、カピトリーナ・ドイルジン。
茶髪の長い髪。剣を三本携えた立ち姿。大人びて見えるが、歳は若く。
最年少の騎士隊長らしい。少なくとも今は。
俺たちはアルカディーさんに合わせるように膝をついて忠義を示す。
「アデリーナ様。この二人が、これから二週間女王様の護衛となります新人です。リヴァに致しましてはアデリーナ様専属となります。彼女が二日ほど休む際は他の騎士が変わりを務めることになります」
「そう。ありがとう。アルカディー。下がって良いわよ」
「はい」
アダン君が着いてきたのはあくまで顔出しであって、専属にはなれない。その一番の理由は異性だからだ。特に年ごとの女の子を護衛するのは生活面から同性でなければいけない。
アルカディーさんとアダン君が部屋を出ていく。
俺は一人、部屋に残された。
アデリーナ女王から許しを得るまで決して頭を上げてはいけないと教わった以上ずっと同じ姿勢をしなくてはいけない。
しばらくの沈黙の時間が流れる。
解いてくれない!
アデリーナ女王が何も言ってくれない!
これが俗にいう新人弄りというものなのか!
「ふふふっ」
ふいにアデリーナ女王が笑い出す。
「可笑しい。律儀に守っているよ、この子。もう顔上げて良いよ。立っても良いよ。私はその辺りは寛大だから」
「はい」
その言葉に俺は素直に立ち上がる。
なんだ、本当に新人弄りをしていたみたいだ。
「初めまして、かしら。一応は少し前に会ったけども、言葉を交わすのは初めてね。これからよろしくね。カピトリーナからいろいろ聞くと良いわ」
「はい」
「それにしても」
アデリーナ女王は椅子から立ち上がると、俺の方へ近寄って。
顔を詰めて。
「あなたが、最強の騎士を倒したの? すごい力をお持ちなのね。あの日、見に行けば良かった。相手が相手だったから、普通に負けるものだと思って行かなかったのだけれども」
「そうでしたか」
「敬語も別に良いよ。呼び方もアデリーナで良いよ。もしくはリーナ。カピトリーナも他の目がないときは敬語なんか使わないから」
「リーナはこういう方だから、あなたも楽にして良いわ」
そう答えたカピトリーナさんは寝室にある椅子とテーブルのセットに腰かけた。
そしてテーブル上のティーカップに紅茶を淹れると、一口飲む。
「うん。美味しい。リーナもどう?」
「あ、飲む」
アデリーナ女王がトコトコとカピトリーナさんの方へ歩み寄って、向かい合って椅子に座る。
思わず唖然としてしまう。
これが女王様とそれを護衛する騎士の関係なのか?
もっと緊張した雰囲気を想像していた。
「あなたも一緒に座って紅茶を飲みましょ? あなたの話が聞きたいわ」
それからは楽しいお茶会が始まった。
テーブルの上に三つのティーカップ。そしてボードゲーム。
「そう。船が難破して、アルベール聖が治める街の近くに流れ着いて。そしてヨハンに会ったのね。だからあの日、彼はあなたの肩を持ったの」
「そうなの」
「ヨハンは女好きだから、あなたみたいな綺麗な子にはやさしくするでしょうね。妻の目がなければ手を出していたかも」
「ヨハンさんが女好き? そんなわけ」
「男だとうと女だろうと、異性の前では自分を偽る物じゃないかしら?」
いやまあ、確かにそうだけども。
「チェック。リーナ、おしゃべりに夢中なのは良いけども、盤面も集中しないと負けるわよ?」
カピトリーナさんの言葉。
今やっているボードゲームは複数人プレイ用の貿易を模したものである。
船、港町、商品、貨幣を表す道具と災いカード、幸いカードを駆使して、最も貨幣を手に入れたプレイヤーが勝つという内容である。
「待って。今考えるから」
次の番であるアデリーナ女王はブツブツと呟きながら考え込む。
ちなみに俺はすでに敗北が確定している。富がなくなったからだ。初心者だから仕方ないのだけれども、何よりカピトリーナさんが強すぎる。
ボードゲームに入っている模擬貨幣の実に六割がその手の中にある。
「可笑しい。運よく、災いを回避し続けたというのに」
「強者とは不運をねじ伏せてこその強者よ」
「でも勝利をするのは私よ!」
アデリーナ女王はカピトリーナさんの目の前に災いカードを置く。つまりは使用を意味する。名前は転覆。効果は船と商品を無くし、賠償として大金貨十枚を支払う強力な効果。
それを見て、カピトリーナさんはふふふと笑って、手札から一枚の幸いカードを見せる。
「祈り。他人の災いカードを無効」
「まけた~!」
なすすべがなくなったらしく、アデリーナ女王が盤面にカードと道具を投げた。
ぐちゃぐちゃになる盤面。
「もう一戦。リヴァは二回目になるんだから、ある程度流れは分かったでしょ? 次は長く生き残ってよ? カピトリーナに二人で仕返しをしましょう」
「ボードゲームでニ対一は反則じゃないかしら?」
「あら、さっきカピトリーナ言ってたよね? 不運をねじ伏せてこその強者だと。この程度の不運、ねじ伏せてみなさいよ」
二回目のボードゲーム。
カピトリーナさんが富の七割を手に入れ勝利を収めた。
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「ここがカラの港町」
ララは遂に到着した街を見て、喜びの声を上げた。
隣には一人の女性。そして一人の男性。
「どうしてあなたが私を仲間に入れようとしたのか良く分かります。確かにあれが何者かは知らなくても、危険で邪魔なのは分かりますからね。では、危険な仕事ですのでそれ相応の報酬を望むことになりますが、よろしいですか?」
その言葉に隣の女性は頷く。
ララは知っている。リヴァが何者なのか。
その隣の女性は知らない。リヴァが何者なのか。
その情報の差がララの方が有利であり、ララはこれがこの女性を支配する一つの手であると理解する。
「その隣の男性、あなたは何て名前でしょうか?」
男性が言葉を発する。
「良い名前ですね。あなたもなかなか強そうですが、彼女に挑まないのですか?」
男性が再び言葉を発する。
「そうですね。この国の最強の騎士を倒した彼女に、最強の騎士に及ばないあなたが勝てる道理がありませんものね」
ララはではと女性の方に目を向けて。
「これが最初で最後の共闘でしょうね。お忘れなく。私はあなたたちの仲間になるつもりは微塵もないことを。あくまで目的が被っただけ」
ララは一人、城へ向けて歩みを始めた。




