第2話 アダン君は面倒くさい
ミリーおじいちゃんから貰った休憩時間。
アリスの大声が飛ぶ。
「どこに行っていたの!」
「ヨシフさんの所にお邪魔してた」
「心配したんだからね。フラッと消えて、もしかして隣国に連れ去られたのかと」
「大丈夫。私は最強の騎士だから」
「そう…………だね」
アリスは歯切れが悪そうだった。
どうしたのだろうか。
最強の騎士、はちょっとした小粋なジョークだったけども、もしかして失言だった?
そう思って辺りを見渡すと、男子たちがこちらを見ている。どこか畏怖した様子で。その様子を見て俺は気づく。
ああ、なるほど。
「ものすごいアウェー感」
「アウェー?」
「居づらいって意味」
最強の騎士を倒した俺と仲よくしようと思う者はいないみたいだ。
好まれない事は予想していたけども、少しぐらいは仲良くしようとしてくれると思った。将来上司になる俺に今の内に取り繕うとすると思った。でもしない。それは自身のプライドなのか、はたまた純粋な恐怖を抱いたのか。
あの日は少しだけ力を出し過ぎた。
聞こえてきた赤ん坊の泣き声がそれを物語っていた。
でも覚悟したこと。
「とりあえず」
知り合いは他にもいる。
ロン君はダメだ。どちらかというと恐怖心の方が強い。
ホン君はロン君と比べてまだ大丈夫だろうか。でも少し怪しい。
ラリサは大丈夫そうだ。まだ知り合いという点が働いている。
ナタリーも大丈夫そうだ。
アダン君は。
アダン君だけ一ミリも恐怖を抱いている様子ではなかった。あの日、あの場に居合わせなかった? アリスとヨハンさんと、ロン君。ホン君。ラリサとナタリーは見たけども。アダン君だけは見ていない。
顔と名前は知っているけども、数えるほどしか会話してないからなぁ。俺なんかに興味はなかっただろうし、シモンさんが勝つと予想して来なかったのかも。
それなら、アダン君からまず仲良くなろう。
「アダン君のところへ行くね」
「え? どうして?」
「この仲でアリスに次いで仲良くできそうだから」
俺はアダン君の方へ向かった。
「久しぶり、ロン君、ホン君、アダン君」
アダン君はホン君と一緒にいた。その隣にはロン君の姿もあった。
あんな純粋無垢な目をしていたロン君。どこか尊敬のまなざしもあったと言うのに。ものすごい恐怖心を抱いているのが見て分かる。
ホン君は表情に出にくいため、何とも言えないが。内心はあまり良い様子ではなさそうだ。手にある本が今にも破れそうだ。
アダン君は一ミリも動じていない。
「まさか同じグループになるとは思っていなかった。これから仲良くしましょ?」
「ああ、そうだな」
アダン君がそう呟いて。
「それで、どうして俺たちの方に来た?」
そんなことを聞いてきた。
「…………?」
「辺りを見渡して、知り合いだからと近寄って来た様子じゃなかった」
「そうだね。でもその前に。まずはじめに、確認させてほしい。アダン君はあの日、あの場所に居合わせた?」
「いや、いなかった。だから知らせを聞いた時は驚いた」
アダン君は俺の心を見透かすように。
そして答えが出たらしく。
「つまり。君は、周囲から怖がられているから、とりあえず仲良くできそうな俺のところに来たということか?」
「鋭いね」
あっさりとバレる。
「嘘だらけの君と仲良くしようとは思わなかった。だが、今日はこちら側から近づくつもりだった」
「どういうこと?」
「一つ聞きたいことがある」
アダン君がホン君とロン君を見て。
「だから二人は席を外してくれないか?」
「分かった」
「はい」
ロン君とホン君が頷き、この場を離れる。完全に二人だけの場となる。それでとアダン君が真剣な表情で。
「何故、それだけの力を隠し続けていた?」
「隠しているつもりはなかったのだけれども」
「少なくとも、本気を出すべき場は幾つもあったはずだ。でも出さなかった。仲間の危機でも本気を出さず、自分の時だけ本気を出す。その騎士らしくない生き方は好きになれない」
「ああ、まあ」
確かにそう捉えられるのかも。
ヨハン邸に侵入者が襲った日。俺が全力で応戦すれば誰一人死ぬことはなかった。そしてシモンさんと戦ったときは明かに自分のためだった。
でも。
「事情があるの。それは分かるでしょう?」
「人の命を超える事情は数えるほどであるべきだ。すべてにおいて人の命を優先するべきだ。まさか全力を出したらより多くの人が死んだとでもいうのか?」
「そうじゃないけども」
「だからいけ好かない。信じられない。心だけでなく力もな。この場にいたほとんどは君の戦いを見たらしいが、あいにくと俺は見ていないからまだ信じていない」
「でも世間は信じている。信じなくてはいけない。一万人を超える観客が証人なのだから」
「そうだ。だから」
アダン君が指を立てた。
「一つお願いがある」
「お願い?」
「俺と戦ってはくれないか」
その言葉に、ああ結局はそうなるのかと思った。
アダン君が言った正論は結局は戦いへ繋げるための言葉。何とも回りくどい。そこまで考えてのことかはさておき。
アダン君が少しだけ分かってくる。
アダン君面倒くさい。
俺が一番嫌いな人種だ。
はっきりとものを言いなさい。はっきりと。信用できないから戦えで済む話でしょうが。男でしょうが。
まあでも。
「良いよ。それで気が済むなら」
これを俺の仲良くなろう大作戦の第一歩としよう。
「いつでもどうぞ」
俺とアダン君が戦う話に聞き耳立てていた周りの男子が気づき。気づけば、周りに男子そして少しの女子の壁が出来ていた。
俺とアダン君が対峙する。
お互いに武器は真剣。
刃のついた剣。
「では、行かせてもらう」
アダン君が向かってくる。
それを剣で防ぐ。
防ぐ。防ぐ。防ぐ。
激しい剣での攻撃。シモンさんに似た戦い方だ。騎士らしくない戦い方と言うべきか。クロエさんのような民衆を感動させる戦いからはかけ離れている。
数度の攻防の後、アダン君が剣を放り投げた。
その瞬間開いた手の先から投げ出されたナイフが俺の顔に向かってくる。それを俺は開いた手で掴み取った。
その時、俺の頭目がけて剣が落ちて来る。
「この!」
それを観客のはるか後ろへ蹴り飛ばす。
そしてアダン君と一度距離を取る。
「剣とナイフ。それに大事な剣を放り投げて。騎士らしく戦うつもりはないの?」
「騎士らしさを捨てたシモンさんが負けた相手だ。なら俺も騎士らしさを捨てるべきだろう?」
だからと言ってナイフとかは危ない。
俺がもしも掴まなければ後ろの観客に当たったかもしれない。
アダン君が腰の二本目の剣を取り出す。そして左手には二本のナイフ。
「どうしよう」
アダン君を如何に華麗に倒すか。それだけを考える。
ここで力の限りに倒すのは得策ではない。さらに怖がられるだけだ。
勝利し、その上で恐怖を少しでも取り除く戦い方。
ふとアダン君の両手に目が行く。
「よし」
俺は剣の先で地面に魔方陣を描く。
そして生まれたのは支給された剣と同じ剣。
それを左に持つ。
「二刀流ってね」
俺は二つの剣先をアダン君へ向けた。
その時、アダン君がナイフを投げ、剣で上へ弾き飛ばす。
それを合図にアダン君が突進してくる。剣による刺突。剣で防ぎ、開いた方でアダン君のナイフ目がけて刺突をし返す。アダン君の手からナイフが落ちる。
アダン君は後ろへ飛ぶ。
そして数本のナイフを投げる。それらを俺は剣先を少し当てて軌道を変える。観客の後ろへ飛ぶように。
「アダン君は騎士らしく戦った方が強そう。それ、今日のために生み出した戦い方でしょう? 不慣れな感じがする」
「…………」
「騎士らしさを捨てて勝てないなら、今度は騎士らしさを持たないとね」
「ああ、そうだな」
アダン君がナイフをすべて捨てた。
そして二本目の剣を手に取った。
やはりそうだ。両手で器用に戦える戦い方。剣とナイフを同時に操るのは至難の業だ。そしてアダン運が数本の剣を腰につける点。
アダン君は二刀流だ。
アダン君がその二本の剣先をこちらへ向けた。
二刀流と二刀流による攻防。
アダン君がこちらへ刺突をすれば、それを防ぐ。そして今度は俺から同じように刺突をする。
それを何度も繰り返す内に体術が混じるようになる。アダン君の蹴り。それをジャンプしてアダン君の上空を回転するように飛び越える。そして、今度は俺から蹴りを放つ。それをアダン君はジャンプして避け、地面に足が着く前に数度の刺突。
剣から手を離し、その刺突を開いた手で剣先をなぞるように向かう先を変える。剣は俺のすぐ横を刺突する。
アダン君が地面に着く時。
俺は片方の剣でアダン君の顔目がけて刺突をする。
それに反応できないアダン君。
当てる気はなかった。
でも。
「そこまでです」
俺の剣を素手でつかみ取った者がいた。
ミリーおじいちゃんが俺とアダン君のすぐ間に立っていた。
「あなたたち。決闘までは許していませんよ?」
「ごめんなさい」
「すみません」
「後で来るように」
ミリーおじいちゃんからのお叱りが決定した。
キャラ紹介39
モブ アダン
18歳少年。ホン君が認めた強い子。騎士試験を最高得点で合格した天才。
騎士見習いの時点でそこらの騎士よりも強かったが、騎士隊長に勝てるほど強くはない。
性格は真面目で、だからか融通が利かない。そして物事を遠回しに言う点がある。




