第3話 警備任務1
ミリーおじいちゃんからお叱りを受けた日からおよそ七日が経った。
その後も仲が良いのはアリス、ラリサ、ナタリーぐらいなもので、アダン君とはどこか距離がある。ホン君そしてロン君も同様。他の男子とはもはや仲良くなれる気がしない。先日の方法は何ひとつ効果がなかった。
そして、これまでの教育内容は退屈なものが多かった。
敬礼の仕方だったり、王や貴族の前での立ち振る舞い方であったり。騎士の戦い方はどうあるべきかなど。
ただ、こんな基本に半年も使うわけではない。
今日から初めて騎士らしい業務を学ぶことになる。
「今日および明日は、護衛の仕事を行ってもらいます。えーと。3人で一つのチームとします。ですので、1人あまりますから、2人のチームを2つ作りますか。2人が二つに3人が五つですね。はい、別れてください」
ミリーおじいちゃんが手を叩き、そう催促する。瞬間、一斉に男子たちは仲の良い友達の方へと動き出す。
そうやって、仲の良いグループがそれぞれチームを作り。ホン君、ロン君、アダン君は一つのチームとなる。
当たり前のようにアリスが俺の方へすっ飛んできた。俺とアリス。そしてラリサとナタリーがそれぞれ2人のチームとなった。
「私はこの街から離れられないので、先輩騎士が同行します」
その言葉で隅から一斉に騎士が現れる。その先輩騎士たちはミリーおじいちゃんの後ろに綺麗に整列する。何とも統率が取れた動きだった。何度練習したのだろうか。
この地を離れられない?
ふとミリーおじいちゃんの言葉が頭に引っかかる。
離れられない。とはつまり、ここに永住しなくてはいけない理由が何かあるということ?
そもそも隊長クラスを新人騎士の教育に回す方に違和感を覚えるべきだった。よくよく考えたら専務クラスが新人教育をしていることになるよな?
永住しているからこそ、騎士教育をさせているのか?
では、その永住する理由は?
分からないから、どうでも良いか。
「彼たちの指示を聞くように」
そう言って、ミリーおじいちゃんがそれぞれ出来上がったチームを見渡す。
「あまりよろしくないみたいですね。そこの二人。交代」
ミリーおじいちゃんがそれぞれのチームを指さし、チームメンバーの変更を行う。
一体どうして、自由にチームを作らせたのだろうか。これでは意味がない。
仮に意味があるとすれば、少しでも仲が良い人以外とチームを組もうとする努力があったかどうかを見るぐらい?
それなら全員不合格だ。
なんて思っているとアリスの方に指が向けられた。
「君と、そこの君。交代」
そしてアリスとアダン君が交代になる。
「待ってください!」
するとアリスが手を挙げて抗議を始めた。
「私は男性恐怖症です。できれば女性とのチームを要求します! ですので、リヴァちゃん、いえリヴァと一緒にしてください!」
何だろう。
今のアリスの姿は清々しい。そういうところは嫌いじゃないけども、もう少し相手をわきまえるべきだ。
ミリーおじいちゃんはため息交じりに。
「あなたのことは母親からよく聞いています。残念ながら通りません」
「そんなぁ」
「これも訓練の一環です。あなたはもう少し男性と仲良くなるよう心掛けなさい」
「…………分かりました」
名残惜しそうにアリスが俺に目を向けた後、ロン君とホン君の元へ歩み寄った。
そしてアダン君がこちらへ。
アダン君が一度こちらをにらむ。
「では、それぞれ手はず通りに」
そして先輩騎士がそれぞれのチームの下へ来た。
俺の方には女性騎士。ふんわりとした金髪の大人びた女性。腰には細い剣が二本。
「初めましてー。私はニーナと申します―。以後、お見知りおきをー」
髪型のようにふんわりとした方だった。
「ではー行きますかー」
向かうは隣町。
馬車に揺れながらニーナさんの向かいに俺とアダン君が座る。
「これから、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いしますねー。えっと。君がアダン君でー、隣の子がかの有名なリヴァちゃんねー」
「…………かの有名な?」
何だろう、良い意味じゃない気がする。
「まあー、あんなことしたらねー。そうなるよねー。仕方がないねー」
確かにそうだけども。
「ミリー隊長は各自適当にチームを作らせましたけどもー。あなたたち2人はチームにする予定でしたー。だからこのチームは必然でしたねー。私のところは大変ですがー、一緒に頑張りましょうー」
「大変とは? ニーナさんはどんな仕事をなさっているのですか?」
何となく聞いてみる。
「仕事ですかー。国宝の警備ですねー」
「…………国宝?」
何だろう、その心躍るようで面倒臭そうな存在は。
「ご存知ないのですかー?」
「ないですねー」
「それは予想外ですねー」
「そうですかー?」
「はいー」
「まあ、私は特別な存在ですのでー」
「さっきから思っていたのですがー、それは私の真似ですかー?」
「はいー」
「やめなさい」
「ごめんなさい」
一瞬見えた鬼の姿。
先輩騎士をからかうのは止めようと強く思った。
「まあー、良いですー。私は寛容ですのでー、同じミスは三回までは許します―。それと、誤解があると思いますので言いますが―、この話し方はなるべく親しみやすいようにを意味していましてー。まあ、ワザとなんですねー」
「そうだったんですか」
「私はどちらかというとー、あなたのようにー、怖がられる立場でしたのでー」
それは驚きだ。
いや、納得か。先ほどの怒気は中々のものだった。そんじょそこらの鬼のような上司でも出せないものだ。
どんな人生を歩んできたのだろうか。
「では、国宝についてー。まずはじめにー。あなたは知っていますよねー?」
ニーナさんがそう言ってアダン君の方を見る。
「はい」
「説明してくれますかー?」
「分かりました」
アダン君が俺に対して説明するようにこちらを見て。
「我が国は第三位の地位にいる。その要因は強力な兵がいたわけではないし、優秀な軍師がいたわけでもない。土地に恵まれたのでもない。優れた学者がいたからだ」
「学者?」
「その学者たちは13つの魔石を作り上げた。それの力で我が国は第三位の地位まで上り詰めることができた。今現在、その学者の子孫は大貴族に位置づけられている。一つを除いて」
「その魔石が国宝?」
「そうだ。ちなみにだがリヴァが知るその学者の子孫はアルベール聖か。他にはファテーエワ聖か」
「その一つを除いての意味は?」
「フェーベル聖は現在没落している。かろうじて貴族と呼べる位置にいるが、そう長くはないだろう」
「なるほど」
少しずつ分かって来た。
フェーベル聖ということは多分クロエさんのことか。お茶会の時の変な様子はこれが関係していたのか。
「その国宝の警備、ひいては敵国に盗まれないように守るのがー、私たちの任務ですー」
「責任重大ですね」
「そうですねー。今現在、二つの国宝を失っていますのでー。警備は相当厳重にしていますー」
「二つを失った?」
「一つはあなたもご存知のー、アルベール邸を敵国のスパイが襲った事件の日ですねー。あともう一つはー、大賢者様が隣の大国へ国宝を運ぶ任務中にー、何でもリヴァイアサンに襲われたらしくー」
「…………」
ダラダラと心の中で汗をかく。
なるほど。そういうことね。良く分かった。
「どうして国宝を隣の大国へ?」
「理由は詳しくは聞かされていませんのでしてー」
「そうですか」
もしかしたらだけども。
俺が魔法について知識を得たのはその国宝が関係しているのではなかろうか?
あの日、船を沈めた時。俺は少なくとも船を食べてしまった。口の中に入れてしまった。だから俺の体の中に国宝があっても可笑しくはない。
そうなると。
俺は今現在、手元に国宝を二つ持っていることになる。
敵国のスパイと勘違いされても仕方ない状況だ。




