第16話 侵入者2 (三人称視点)
フェーベル聖は没落した名家の一つである。
その昔はアルベール聖と肩を並べ、大貴族の一つとしてその地位にいた。
栄えるまで数十年とかけ、その地位を百年あまり維持し続けたが、落ちていくのはわずか数年とあっという間だった。
クロエはそんなフェーベル家の落ち目に運悪く生れ落ちてしまった。
「くっ!」
クロエはガロと名乗った男に対して苦虫を噛み締めた表情をする。
仲間である二人の騎士はあっけなく殺された。
実力として、騎士の中で上位に位置するクロエでも苦戦する実力者。何故、隣国はそれほどの者をこちらに向かわせたのか。
「いや、今はそんなこと」
どうでも良いかと、クロエは心の中で思う。
今戦っている相手に全神経を集中しなくてはいけない。
それほどの手練れ。
クロエの剣がガロの剣と交差する。
クロエの戦い方とは違う、力にモノ言わせた戦い方。重い一撃。それに怯むことなくクロエは剣を向ける。
火の龍が一匹から枝分かれし、ガロに向かうが、すべて叩き落されてしまう。
先ほどのリヴァとの戦闘でクロエの魔力は残り僅かである。
「お前は中々強いな」
ガロが口を開く。
「先ほどの騎士二人とは違う。粘り強さがある。そして壊れない精神がある」
「まさか侵入者から褒められるとは思いもしなかったわ」
「いや、何。俺らは侵入者だが、お前ら騎士のように誇りがあるのさ」
その時。
ガロが横に目を向けた。
思わずクロエもその先を見てしまう。
その先の光景は仲間が殺され、侵入者が一人観客に向かうところであった。
「もうこの戦いは終わった。お前たちは押し負けた。あんたたちの頼みの綱の騎士隊長は内の隊長と互角みたいだ。いや、互角にしたが正しいか」
「互角にした? 何を言っている」
「何故、俺たちがここに来たと思う」
「その理由を教えてくれるのか?」
クロエの言葉にガロは鼻で笑った。
「騎士なら騎士らしく力で聞いたらどうだ?」
「ああ、そうだな!」
クロエがガロに向かった。
しかし。
実力で劣るクロエが真正面から敵うわけがなく。
純粋な力に押し戻される。
地面を転がり、クロエは立ち上がろうとして、蹴り飛ばされる。
まるで赤子のように。
一体何回蹴り飛ばされただろうか。
クロエの意識が徐々に消えていく。
「いい加減、終わらせるか」
そうガロは呟き、剣を振り上げた。
その時。
騎士でも倒せなかった侵入者の一人をリヴァが殺す光景が目に映った。それは偶然にも二人同時だった。ガロの剣が止まり、信じられないと言った様子で呟く。
「なんだと」
「良かった」
クロエの目に正気が戻る。
知り合いの騎士見習いが勝ち、騎士が負けるなどあってはいけない。
だからクロエは必至になって立ち上がった。
「終わらせるかと言ったよね? まだ終わってないわよ。いいや、違う。終わらせない。終わらせてたまるものか」
クロエは胸からペンダントを取り出し、強く握りしめた。
フェーベル聖がその地位を築くことができたのは、その知識の量である。
それは経済学や政治学ではなく、魔法というただ一つにのみ特化していた。
魔法学の多くで学ぶことは、魔法とは何も解明していないことである。魔力と呼ばれるエネルギーと魔方陣と呼ばれる何かが組み合わさり生まれる奇跡と魔法学では扱われている。
魔方陣が解明されない限り、魔法について解明されたとは言えない。しかし少なくとも魔力に関してのみ、その解明は終っている。
かつて魔力とは生命の体内に宿る光エネルギーの別称であったが、今は自然界に存在するすべてのエネルギーの総称へと変わった。
人間一個体が持つ魔力総量は生物で見ると少ない。
それは人間が魔力を生み出すことが不得意であり、だからこそ人間の多くは魔法の使用の際、自然界に存在するエネルギーを使う。
魔法が得意、不得意はこの自然界に存在エネルギーをいかに集めるか、それが効率良くできるか否かによる点が大きい。
「なんだまだ戦えるのか?」
ガロはそう小さく聞くと、クロエは微笑みを浮かべた。
「これ、何か分かるかしら?」
そしてペンダントを見せた。
真っ赤な宝石が埋められたペンダントは一件どこも可笑しくはない。
「分かるわけがないだろう」
「そうでしょうね。あなたたち侵入者には未来永劫分かることがないでしょうね」
クロエはそれを胸に引き寄せて。
「これは私の父が私が10歳の時にプレゼントしてくれたもの。祖父から代々引き継いで来た物らしい。真っ赤な宝石はフェーベル聖の知識が詰まっている」
「思い出話でもするつもりか?」
「言ったでしょ? 知識が詰まっていると」
「何が言いたい?」
クロエはその宝石を力づくで取り外した。
「できれば使いたくなかった。これを使うことは神への冒涜だから」
「いや、まて。お前はさっきから何を言っている? フェーベル聖だと? お前、まさか」
「そう言えば、あなたは自己紹介したけども、私はまだだったわね」
クロエはその宝石をガロに向けた。
「私はクロエ。クロエ・フェーベル」
それは。
純粋なフェーベル聖の闇が詰まった物。
瞬間。
ガロの口から血が噴き出た。
「…………な」
何が起きたのか理解できないまま。
ガロはそのまま倒れこむ。
「大丈夫。死にはしない。ただもがき苦しむだけ。永遠に」
クロエは静かに宝石をペンダントに戻した。
静かな戦いの終わりだった。
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「さてと」
リヴァは死体に布を被せ、土の魔法を解く。
アリス、リナ、アランの三人は若干ながら、人を殺すという行為をしたリヴァに対して恐怖を抱いた。
しかし、それ以上に助けてもらったという念。そして襲ってきた侵入者が悪いという感情が勝り、すぐに三人はリヴァが無事なことに安堵した。
「アリスたちは早く逃げて。あとは私がするから」
そう言うと、三人はすぐに逃げ始めた。
そんな三人を見届けて、リヴァは他の人の手助けに行こうと辺りを見渡す。
初めに知らない騎士二人と侵入者の戦いの方を見る。相手の侵入者が四人の中でも弱い部類で、その戦いが無事騎士側の勝ちで分かるとリヴァはアレックの戦いの方を見た。
その時であった。
アレックが侵入者と刺し違える瞬間は。
致死量に値するであろう血が流れ落ち、両者は同時に倒れた。
「そういうことか」
そんな中、リヴァは小さくそう呟いた。
キャラ紹介20
モブ おばちゃん
54歳。食堂のおばちゃん。さらっと出ているが、まだ言葉は発していないキャラ。
十数名分の朝食から夕食までを作る凄腕の料理人。娘と二人で交代しながらやっている。
騎士見習いの子供たち誰一人名前を知らない。もっと言うと、ルドルフやアレットも知らない。名前のない謎の多い女性というわけでなく、あまりしゃべらないからである。
何時か大きく登場させたい。




