帰還
「…だからっ!お前は何なんだよっ!!」
うとうとと微睡んでいると、そんな声が聞こえてくる。
この声は…祐樹?
「…お前こそ誰だ」
低い低いこの声は…ルイかな?
ルイがこういう声を出す時って、大抵不機嫌な時だけど…。
めずらしい。
何かあった?
「ここはユキの部屋だろう?なぜ、お前のような男がいる」
「それはこっちのセリフだっつーの!お前こそ誰だよ!こいつに外人の知り合いなんかいねーぞ!」
「…っ…お前は…まさか…」
「…ふぁぁ。…おーい。お二人さーん。何言い争ってるの?」
未だに頭はぼうっとしてるけど、ここが私の家で帰ってきたのだと理解した私は、ゆっくりとベッドから起き上がる。
うん。記憶はばっちりある。
前回みたいなことはない。
「おいっ!何呑気なこと言ってんだよ!こいつは誰だよっ!」
そんな私に祐樹が噛み付くように言う。
えーと…。この状況は…。
私のことをよく気にかけてくれる優しい弟がうちに来てみたら、ルイがいて驚いちゃったって感じ?
しかも、私は寝てるし。
祐樹は完全に臨戦態勢だ。
これはちゃんと説明しないと…。
「あー、祐樹。彼はルイシークって言って…」
「ユキ」
何とか説明しようと口を開いた私を遮って、ルイがベットに座っている私と視線を合わせるように、膝をついて私の手を取る。
「どうしたの?」
「この男はユキの恋人か?」
「……はぃ?」
この男っていうのは、もちろん祐樹のことだよね。
「いや、ルイ、祐樹は私の…」
「ユキ。大丈夫だ」
また私を遮って、ルイがにこりと笑う。
「一度ユキがこちらに戻った時、俺はまだ子どもだった。その上ユキにはセリンガムでの記憶は無くなっていたからな。責めるつもりはない。こちらの世界でユキに恋人がいようと伴侶がいようと、俺の気持ちは変わらない。大丈夫だ」
そうは言ってもルイの口元は引き攣ってるし、私の手を握るその手も微かに震えている。
無理してますよね?
明らかに。
「いや、だからね。祐樹は…」
「だが」
またも私を遮って、祐樹の方を振り返ったルイはその表情は見えないけど、ピリピリとした空気を纏っている。
「俺はユキをお前と共有するつもりはない。諦めろ」
おーい。
ルイさーん。
何か盛大な勘違いしてますよー。
ルイの言葉を聞いた祐樹は初め驚いて固まっていたけれど、聞いているうちに段々と呆れ顔になっていく。
「姉貴、こいつに何の説明もしてないの?」
「…弟がいるって話はしてあるけど、それと祐樹が繋がってないんだと思う」
私達のやり取りを聞いているのかいないのか、今だにピリピリとした空気を纏っているルイの腕を引く。
「ルイ」
「…何だ」
「祐樹はね、私の弟だよ。前にも話したでしょ。弟が一人いるって。弟だから私の家にいても不思議はないでしょ」
「…弟?」
驚いて固まっているルイに、頷く。
「それに私、ルイと出会ってからこっちで恋人なんて作らなかったよ。だから伴侶なんている訳がないし。万が一そんなことになってたとしても、ルイにちゃんと話すよ。そんな大事なことは」
固まっているルイをよしよしと撫でる。
これ、久しぶり〜。
相変わらずサラサラで綺麗な髪〜。
そんな私の手を取って、ぐっと引き寄せられて。
いつもの安心する腕の中。
「よかった…」
心底ホッとしたように言うルイに、悪いなとは思いつつも笑ってしまう。
あんなに冷静なルイが私のことで慌ててるのって少し嬉しい。
「…あー。お取り込み中悪いんだけど…」
そんな私達に祐樹から声がかかる。
「俺にも分かるように説明してくれねぇ?」
その後、長くなるからってことでお茶を入れて、三人で情報交換。
私が向こうに行っていたのは大型連休の間だけだったらしくて、今日がその連休の最終日。
明日からまた仕事っていうのが微妙だけど、とりあえず無断欠勤することもなく今回も祐樹に心配をかけた以外は問題はなさそう。
前回会った時の私の様子が変だったから、その後もまめにメールをくれていた祐樹だったけど、この連休に入った途端に連絡が途絶えたので心配してうちまで来てくれたらしい。
合鍵は渡してあったから、家に入ってみたらルイがいてびっくりしたそうだ。
そんな祐樹は私達の話を聞いて、絶賛混乱中だ。
そりゃそうだよね。
異世界に行っていました。
そこでその国の王様をお持ち帰りしてきました。
なんて、簡単に信じられる話じゃない。
私だって同じことを祐樹から言われたら、頭大丈夫?って心配する。
「…えーと、とりあえずこのキラキラしい奴が姉貴の彼氏だっていうことは分かった」
「それが分かってもらえれば後は問題ない」
「いや、問題ありすぎだろ」
ルイの返事に即答する祐樹。
「で、どうすんの?ここで暮らすにしても無職って訳にはいかないだろ?」
「それは、ルイがこっちの世界に慣れてから考えるよ」
「それまでは?ここに住むのか?」
「そのつもりだけど」
ルイの王宮に比べたら兎小屋以下の広さしかないかもしれないけど。
それも慣れてもらうしかない。
申し訳なくなってチラッとルイを見ると、何か難しい顔をしている。
「ユキ」
「なに?」
「俺も働く」
「すぐには無理だろ。こっちの生活様式とか慣れないことには」
ルイの言葉に即座に反応するのは祐樹。
祐樹の言葉にルイはまた黙ってしまう。
「祐樹の言う通り、すぐには無理だよ。生活のことなら気にしないで。ルイの面倒を見るくらいの蓄えはあるから」
私も同調してそう返すと、ルイは困ったように眉を寄せた。
「俺はここでは役立たずだな。…すまない」
「そんなことないよ。私だって向こうではずっと面倒みてもらってたんだし」
ねっと肩を叩けば、しぶしぶといった感じでルイは頷いた。
「…まぁ、じゃあ明日からここら辺の案内は俺がするわ。大学の授業休みだし」
祐樹の言葉に驚いて、まじまじと顔を見つめる。
「何だよ」
「祐樹が自分からそんなこと言うなんて珍しいから」
祐樹は意外と人見知りな所があって、初対面の人と長時間一緒にいるなんてことを自分から言い出したことに驚く。
「いや、だってこいつ一人にはできねぇじゃん。どう見ても」
私の言いたい事がしっかり伝わったのだろう、そう言って苦笑した。
その後、とりあえず明日から私が仕事の間はルイのことは祐樹に託す事に決まると、早々に彼は帰って行った。
「なんかバタバタしちゃったね」
祐樹が出て行って二人きりになって、そんな風にルイに声をかけるといつの間にか彼は私のベッドに横になっていた。
「ルイ?」
近付いて見ると、気持ちよさそうに寝ている。
ずっと寝ないで頑張ってくれてたんだもんね。
疲れも溜まってるはず。
自分の部屋にルイがいてくれるこの奇跡を少しずつ実感して。
嬉しさに体が震えそうになる。
今はまだ午前中。
さぁ。
とりあえず明日からに備えて、必要なものは買ってこようかな。
ルイに掛け布団をかけて、簡単なメモ書きと部屋の配置図を置くと私はニヤつく顔を一度叩いて、家を出た。
これにて、完結です。
ここまでくるのに予想以上に時間がかかってしまいましたが、メッセージをくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、評価をしてくださった方、本当にありがとうございました。
この後は、全体の見直しをしながら後日談を数話投稿予定です。
もし興味があれば、覗いて頂けると嬉しいです。




