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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第3部
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予感

翌日の歓迎パーティーでは、リィは群を抜いて綺麗だった。

最近の体調不良など微塵も感じさせない優雅で、でも威厳のある佇まいは大国シュリゾナの王太子妃に相応しい。


やっぱりさ、元が違うんだよね。

私なんかとは。


事前の打ち合わせで、私とリィは結い上げた髪に花を挿している。

私はリールでリィはシュリゾナの代表的なセイルという、日本で言うと百合に似ている花。

こちらの世界では、貴族以上の身分のある女性は宝石しか髪に付けない。

だから、こうやって物珍しい髪飾りをお揃いで付けていれば、目立つし遠回しに、でもはっきりとディールはリィ側についていると誇示することができる。っていう私の案。

もちろん、ショルジュ殿下に対する嫌味も込めて。


なんにも行動起こさないんだったら連れ帰るぞ。

このやろうってね。


良くも悪くも注目の的である私のその見慣れない装飾品は、すぐに目について会場にいた人達の大部分には伝わったようだった。


国王陛下の挨拶と賓客としてルイの挨拶が終わった後は、歓談。

私の周りにはショルジュ殿下の側室方がたくさん。


ディールの姫のご機嫌を取るように実家にきつく言われてるんだろうなぁ。

私の側にいるクウちゃんに内心ビクビクしてるんだろうに、引き攣った笑顔で話し掛けてくる側室方に優しくしたいのはやまやまなんだけど。

残念ながら、私は完全なるリィの味方だから。


「リリアーヌ姫のことよろしくお願いしますね。こう見えて、色々と耳に入ってくる情報は多いものですから」


にっこり笑顔で、くぎをさしておく。


側室方で心当たりのある人は、その言葉に顔を青褪めさせる。

私の言葉は受け取りようによっては、脅迫だからね。

何をどう言われようと変わらない私の態度に、側室方も色々悟ったようだ。

暫くすると、だんだんと私を取り巻く人は少なくなっていく。


鈍い人が少ないようで何よりです。


正直、彼女達に嫌われ様と痛くも痒くもない私としては、今までのものとは違って気を使わなくていい分、随分と楽なパーティーだ。


喉が渇いたので、アルコールの入っていない飲み物で喉を潤しながら周りの観察。


あらあら。

ルイもレイも美女に囲まれてる。


少し離れた所に目を向けると、ルイとレイがそれぞれ綺麗な貴族の姫君方に囲まれているのが見える。


うん。あれだけの優良物件だもんね。

その上、どっちもまだ妻がいない。

手を付けておきたいよね。


そのままリィの姿を探すと、ショルジュ殿下と共に貴族達と何やら話している模様。

顔色もそんなに悪くないし、このまま殿下に任せておいても大丈夫かな。


「きゅい」


その時、私の側にいたクウちゃんが声を発した。

それは決して大きな声ではないけれど、その内容は少し緩んだ気持ちを引き締めるのに十分なものだった。


黒魔道の力を感じると、クウちゃんは言う。


「そこへ行くことはできる?」


尋ねれば、クウちゃんは頷いて私を先導していく。

クウちゃんの後についてそのまま進んでいくと、そこは会場から出た中庭の噴水の前だった。


「ここ?」


噴水を見つめて尋ねると、クウちゃんは頷いてグルグルと喉を鳴らして警戒する。

でも、私には何も分からない。ただ、普通の綺麗な噴水に見える。

だけど…。


「クウちゃん…。なんか、ここ変だよ」


初めは気付かなかったけど、噴水から何かとても嫌な空気が流れていることに気付く。

私には魔道の力なんて無いから、気というものではないと思う。

何か匂いがある訳でもない。

けど、禍々しいというのか口では説明できないとても嫌な感じ。

寒い訳ではないのに、ぶるりと体が震える。


「きゅい」


それが、黒魔道だとクウちゃんは言う。


こんなに禍々しいものがそうなの?

ルイやフェイさんが使う魔道とは全く違う。

こんなものを見に纏っていたら、精神がおかしくなってしまいそう。


「ユキ。ここにいたのか」


その時、後ろから声をかけられた。

振り向いてみると、そこにいたのはレイだった。


「もしかして、探させちゃった?」


「クウがいるから大丈夫だとは分かってるんだけどね。ユキの姿が見えないのは不安なんだ」


少しだけ息が上がっているように見えて尋ねれば、レイはそう答える。


ルイとレイは心配性だからなぁ。


「心配させてごめんね。声をかけようかとも思ったんだけど、忙しそうだったから」


王族のルイやレイには、今後のことを考えて作っておきたいコネクションもあるだろうし。

貴族達に囲まれている2人の邪魔は極力したくない。

美女達の間に入って行く勇気が無いのも事実なんだけど。


「兄上ならまだしも、俺にはそんな気を使わなくていいよ。必要最低限のことはやらなきゃいけないけど、それに時間をかける程無能じゃない」


私の言いたいことが分かったのか、レイが笑いながら言う。


立派になっちゃって…。


そんなレイの姿に、成長したなぁと惚れ惚れしていると


「ユキには似合わない感情だけど、どう?兄上を見てて。妬ける?」


昔と変わらないイタズラっぽい表情を見せて、レイが聞く。


「ん?姫君方に囲まれてるルイを見てってこと?」


「そう」


確認すると、レイは笑って頷く。


「それがね…何ていうか…自慢気な感情の方が強くて…」


「自慢?」


こくりと頷く。


「うちの子はカッコいいでしょー!っていう身内自慢っていうか」


私の言葉にレイは苦笑した。


「それは、兄上も残念だろうな」


「もちろん、レイのことも自慢なんだけどね」


レイには言えないけど、私の中で多分感情に規制がかかっているんだと思う。

だって、私はこの世界にはいられない人間だから。

ルイだけじゃなくて、この世界の人を特別に好きになってもどうしようもないことだから。


その時、ぞくりとまた悪寒のようなものが走る。

噴水から流れてくる禍々しい空気。


「…何か音が聞こえないか?」


レイが目線を私から外して言う。


「音?」


「あぁ。…美しい旋律が聞こえる。…これは何の楽器だろう?」


レイはうっとりとした表情で歩き出す。


音?

私には何にも聞こえない。

耳に入るのは噴水から流れる水の音だけ。

むしろ、禍々しい空気が濃くなったような気さえする。

レイはそのまま噴水の方へ向かってゆっくりと歩みを進める。


「きゅいっ!!」


その瞬間、クウちゃんがレイに向かって突進した。


「クウちゃんっ!?」


私が叫ぶのと、レイがクウちゃんに押し倒されるのはほぼ同時だった。


「レイッ!大丈夫っ!?」


慌てて駆け寄れば、呆然と横たわるレイと目が合う。


「…ユキ?」


「レイ?大丈夫?」


クウちゃんは体当たりしただけだし、咄嗟にレイも受け身を取ったみたいだから異常はなさそうだけど、心配になって尋ねる。


「…俺は…何をしようとしてた…?」


まるで自分自身に問い掛けるように、呟くとゆっくりと体を起こす。


「綺麗な音が聞こえるって言って歩き出したの。覚えてない?」


「音?」


レイは目を閉じて耳をすます。


「何も聞こえない」


「私にも聞こえなかった。でも、さっきまでのレイには聞こえてるみたいだった」


私の言葉に、レイは小さく首を傾げると、立ち上がった。

そして噴水に目を向ける。

その眉間に皺が寄ったことが分かった。


「ユキ、会場に戻ろう。…ここは良くない」


私の背中を軽く押して、言う。

ここから離れることに異論は無いので、頷く。


「レイ、体は大丈夫?」


「あれくらいのものは大したことないよ。…クウ。すまなかった」


私に笑いかけた後、クウちゃんに声をかけてレイは私の手を取って歩き出す。


何だろう。

レイはもう変わりないように見えるけど、この不安感。

何だかとっても嫌な予感がする。


そっと噴水を振り返って、私はぶるりと体を震わせた。



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