お茶会
「リィ?どうしたの?」
私の言葉にリィはポロポロと涙を零しながら、ゆるく首を振る。
穏やかで大人しい性格のリィだけど、持っているものは強い。
辛いことがあっても、人前でこんな風に涙を零すことをしない。
そんな彼女がこんな風になるほどのことがあったんだ。
「久しぶりにユキの顔を見たら懐かしくなってしまって」
涙を止めて、私に向かって何でもないという様に首を振るリィの表情は、もう外向けのものになっていた。
「本当?泣くほど喜んでもらえるなんて、嬉しいなぁ」
リィの判断を優先して、言葉を出せばリィはにこりと笑ってくれる。
口に出さなくても、お互いの気持ちが伝わる。
今は涙の理由を話す時じゃないのだろう。
長い間会わなかったけど、リィはリィのままであることが嬉しい。
「お茶にしましょう。リルダ、お茶の準備を…4人分してくれる?」
「はいっ」
リィの言葉に古参の侍女さんが嬉しそうに返事をする。
「今日はお天気がいいから、外に出たいわ」
「うん。でも、体調は?大丈夫?」
「ユキに会ったら不思議な位、体が軽いの。だから大丈夫」
「きゅい」
答えるリィに、クウちゃんが近寄る。
今まで、私と一緒にいても何も言葉を発しなかったディールの鳴き声に、部屋に残ったシュリゾナの侍女さん達がびくりと体を強張らせる。
でも、よくよく指導されているのか、目はそらすけど特に逃げ出すようなことはなかった。
「クウ…。久しぶりね」
「きゅいきゅい」
そっと触れるリィに、クウちゃんは気持ち良さそうに目を閉じる。
「セリンガム国王がいらっしゃいました」
その時、引継ぎの侍女さんから声がかかり、ルイとレイが入ってくる。
「ルイ、レイ。せっかく来てくれたというのにこんな格好でごめんなさい」
私にしたのと同じように謝るリィに
「姉上。体調が思わしくないとか…。いかがですか?」
心配そうにルイが声を出す。
「少し痩せましたね。具合の悪さは長引いているんですか?」
レイも心配気に声をかける。
「大丈夫よ。皆の顔を見たら元気になったの。お庭でお茶にしましょう」
そんな2人に、リィは楽しそうに答える。
うん。顔色もいいし無理してる感じはないから、大丈夫かな。
そうして、リィの部屋からすぐの庭にお茶の準備がされて、私達はそこに腰掛ける。
「こうして4人揃うのなんて久しぶりだね〜」
呑気な私の言葉の3人が笑う。
「ユキは、ずっと向こうに?」
今、この席には4人しかいないけど、近くにはルイとレイの護衛に騎士さん達がいるし、リィ専属のシュリゾナの侍女さんもいる。
それに、私の動向が気になるシュリゾナとしては、もしかしたら私に許可を取らずに監視を付けているかもしれない。
ううん、きっと付けてる。
異世界人だっていうのは、秘密だからリィはそんな風に尋ねてくれる。
「そう。久しぶりに戻ったらルイもレイも変わっちゃっててびっくりしたよ」
「そうね。2人とも見違えたわ。…噂では聞いていたけど、本当に自慢の弟達だわ」
リィのその言葉にルイとレイは、にこりと微笑む。
うーん。そっくりだな、ほんと。
「リィも相変わらず綺麗だね」
私の言葉にリィは力無く笑う。
「そう言ってくれるのはユキだけよ」
なんですと!?それは聞き捨てならないぞっ!
「えぇ?ショルジュ殿下は?」
「まさか」
私の言葉にリィは首を振る。
そんな馬鹿な。
リィを綺麗と言わずに誰を綺麗というんだ。
このポッチャリ王国で。
「…ユキ、何か無礼なことを考えてないか?」
私の顔を見ながら引きつった顔をして声を出すのはルイ。
んっ!?何でバレたっ!?
ルイってばエスパー!?
「それはそうと、ユキ。ここへ来て不便なことも多いでしょう?私に何かできることはある?」
リィの言葉の裏にあるものを感じて、私は頷く。
私達は全てを終わらせるためにここに来た。リィにはそれを秘密裏に伝えてある。
私達の計画にリィの協力は不可欠。
「とりあえず、リィの侍女さん達とリィのドレス選びをしたいな。明後日はパーティでしょ」
明後日に、シュリゾナではセリンガムの王族を歓迎して、小さなパーティが開かれる。
「えぇ。ユキが選んでくれるのなら嬉しいわ。でも、私にもユキのドレスを選ばせてね」
「えぇー。私は何でもいいよ」
平凡で童顔な私じゃ、選びがいがないって。
「そんなこと言って。ねぇ?」
リィがくすくす笑いながら、ルイとレイに視線を向ける。
「あまり着飾らないで欲しいというのが本音です」
レイが苦笑しながら言う。
それにルイも頷く。
「あら。どうして?」
「「ユキを他の男に見せたくない」」
ルイとレイが口を揃えて言い、その言葉にリィは笑い出し、給仕を勤めていた侍女さん達は頬を染めてうっとりと美麗な兄弟を見つめる。
そんな中私は頭を抱えた。
これはあれだよね。
ルイとレイには小さい頃の刷り込みが強いんだよね。
お母さんを取られたくない的な。
セリンガムもシュリゾナも王族や貴族は一夫多妻が認められてるから、一途に奥さんや恋人を想っていることを堂々と伝えられる男性は少ない。
政略結婚が多いから、正妻である人とそういう関係になることは難しいのかもしれない。
公の場でまさか、側室の方が好きだ何て言えないだろうし。
そもそも、国や家のことを第一に考えなければいけない王族や貴族にとって、誰か特定の女性に想い入れることは少ないみたい。
だから、まるで恋物語のような発言に侍女さん達はうっとりしてたんだろうなぁ。
でも、一夫一妻の日本でだって、こんなこと言う人見たことありませんけどね!
きっと、侍女さん達によって、こういう話は大きくなってシュリゾナを巡るんだろうなぁ。
ルイの誕生パーティの時みたいに演技する約束はしてないんだけどなぁ。
「ユキは相変わらずね」
遠い目をする私に笑いかけてリィがお茶をすすめる。
こうして、和やかに(?)お茶会は進んでいった。




