シュリゾナ
そして、ついに私達はシュリゾナに向けて出発した。
今回はルイとレイと一緒です。
竜の里とは違って、今回は国王の訪問だから馬車を使って護衛の騎士もたくさん着いて大移動。
私には飛行機と同じ感覚のクウちゃんじゃない馬車は、道が日本のように整備されている訳じゃないから、乗り心地の悪いバスのようで、腰が痛いのなんのって。
王族の乗る高級な馬車に乗せてもらっているから、文句は言えないけどさすがに辛くて小さな窓の外を見ながら溜息を漏らす。
「ユキ?どうかしたか?」
向かいに座っているルイが声を掛けてくれる。
馬車内にはルイとレイと一緒。
さすがにルイは乗り馴れているから、全く平気なようで行軍中は書類に目を通したり、魔道を使って城の留守を預かってくれている宰相ルドルフさんやフェイさんと連絡を取ったりしている。
レイの方も自分の管轄の騎士達と連絡を取り合って、馬車から出て、馬に乗ったりして指示を出している。
二人とも忙しそう。
そんな中、私にはたいしてやることが無いので行軍3日目にしてウンザリしてしまった。
シュリゾナまで予定では後7日。
腰は痛いし、そのせいで夜もあまり眠れない。
昼間は仕事中のルイやレイに話し掛けるのも憚れるので、本を読んだり、ヒキさんからの報告書に目を通したり。
そんなことをしていても、痛いものは痛い。
「んー。ちょっと腰が痛いなぁって…」
私の言葉にルイが眉を顰める。
「馬車の揺れに慣れないか?そうか、ユキの国に馬車は無いのだったな」
今は行軍中だから、機能性を重要視して動きやすい服装のルイはシャツを第二ボタンまで開けていてリラックスした格好をしている。
襟口からのぞく綺麗な鎖骨がセクシー。
キラキラした金色の髪も特にセットしていないので、動きに合わせてサラサラ揺れる。
本当に綺麗な人だなぁっと呑気に考える。
でも、男性相手にセクシーって…。
私は親父か。
疲れと痛みで麻痺した頭はそんな余計なことを考える。
「ユキ?」
反応の無い私に、ルイが心配そうに声を掛ける。
「あ、ごめん。大丈夫だよ。邪魔してごめんね」
声を出すけど、無理しているのがバレバレのようで。
「顔色もあまりよくないな」
そう言うと、ルイは私の隣に移動する。
「ルイ?」
私の腰に手を当てて、ルイは何かを呟く。
すると、その手から光が放たれて私の腰を温める。
暫くすると、嘘のように痛みが引いていた。
「ふわぁ…」
何とも言えない優しい感覚に、お風呂に入った時のような声が出る。
そんな私にルイが微笑む。
「癒しの魔道だ。少しは楽になった?」
「うん。ありがとう。でも、ルイは大丈夫?」
魔道を扱うには、その人間に負担がかかる。
不安になって聞くと、ルイは首を振った。
「これ位何てことはない。だから、無理せず言ってくれ。俺は気が利かないから、言って貰わないと分からない」
「えー。ルイが気が利かないなんてことはないでしょ」
本気でそう言えば
「ユキのことに関しては侍女達に敵わないからな」
と言う。
「侍女さん達に敵うなんて、ルイの立場じゃ無理だよ」
笑って返せば
「ユキのことに関してだけは誰にも負けたくないからな」
さらりと、ルイは言い、その言葉に私は熱が顔に集まるのが分かった。
シュリゾナの王都は、さすが大国と言われるだけあって、とても賑やかで華やか。
人も多い。
白い肌にどちらかというと、色素の薄い人達が多いセリンガムとは違って、日に焼けた健康的な肌をしている人が多い。
髪はこげ茶だったり、明るい茶色だったり。
茶系等の人が多い。
そして、お城も何というか煌びやかだった。
大きくて荘厳な歴史を感じる佇まいではあるんだけど、素人目にも分かる立派な絵画や彫刻。
キラキラとした調度品が廊下には並べられて、ここを毎日掃除しなければいけない、侍女さん達は大変だろうなぁっと場違いなことを考える。
通された謁見の間もセリンガムの倍はあるような広さ。
そこにシュリゾナ国王と王妃が座っていた。
「遠い所をよくお越し下された」
シュリゾナの国王はちょっとポッチャリとしたオジサンだった。
うん。オジサンって言葉がぴったり。
ルイのお父さんとは全く違うタイプ。
ニコニコしているし、威圧感は無い。
もしかしたら、王族に私が慣れただけかもしれないけど、以前会ったシュリゾナの使者のように、私を値踏みするような視線も向けられない。
もちろん、王族の周りの人達からは刺すような視線がビンビンなんですが。
あんまり、不躾な視線に私の側をふよふよと赤ちゃんの姿で飛んでいるクウちゃんが低く声を鳴らす。
その声に、びくりとシュリゾナの人達に緊張感が走る。
セリンガムの護衛騎士の人達は、もちろん慣れたものでどちらかと言うと、ちょっとあんまり派手なことはやらないでくださいよ的な空気を感じる。
やっぱり黒魔道のことがあるせいか、クウちゃんはシュリゾナに来てから機嫌が良くないんだよね。
「クウちゃん」
小さく呟いて、その背を撫でるとクウちゃんから威嚇の唸り声が消える。
その様子に、シュリゾナの人達が一斉にホッとしたのが分かった。
「お疲れになったでしょう?今日はゆっくりとお休みになってくださいな」
一通りの挨拶を終えた後、王妃様の声がかかる。
王様がそうだからか、王妃様もちょっとポッチャリ。
でも、その分若々しくて、可愛らしい雰囲気の方。
何だか、シュリゾナの王族って親近感湧くなぁ。
「私が案内しましょう」
声を出したのは、第一王子のショルジュ殿下。
ルイの姉でありわたしの妹のような存在であるリィが嫁いだ人。
ショルジュ殿下は硬そうな髪をきっちりとセットした、背の高い男性。
精悍と言えば精悍なんだけど、あの王様と王妃様の子どもとは思えない軍人のような身体つきに鋭い目つき。
背の高いレイよりも大きくて、体もがっしりとしている。
にこりともせず、そう言うと、ショルジュ殿下は歩き出す。
退室の旨を告げて私達も後に続く。
「…あの、ショルジュ殿下」
歩きながら声を掛ける。
言いにくい名前だなぁ。噛みそう。
「何か?」
立ち止まり、私と視線を合わせるとショルジュ殿下は尋ねる。
「王太子妃にお会いしてもよろしいでしょうか」
これは、シュリゾナに行ったら一番にしたかったこと。
謁見の間にリィがいないことが不安を駆り立てて、私はいてもたってもいられなく、尋ねる。
そんな私に、ショルジュ殿下は眉を顰める。
おぅ。眉間に皺が寄って不機嫌そうな顔が更に不機嫌そうだわ。
「姫は妃と旧知の間柄だとか…。よろしいですよ。話し相手になってあげてください」
小さく溜息をついて、殿下は頷いた。
何だろう。このよそよそしい感じは。
「彼女は体調が優れないのですか?謁見の間にいませんでしたけど」
その私の質問に、殿下の眉間の皺が深くなる。
「そうですね。最近は特に崩しがちです」
そう言うと、さっさと殿下は歩き出した。
客間に通されてから、ここでお世話になる侍女さん達との挨拶も程々に、私はすぐに王太子妃と会いたい旨を伝える。
殿下からの許可が降りていたこともあって、その願いは聞き入れられた。
ルイやレイにもリィのところへ行くことを伝えてもらい、さっさと部屋へ向かう。
私の周りはがっちりと近衛の人達に固められて、走ったり早歩きすることもできない。
クウちゃんがいるから、護衛なんて必要ないのに。
とは思うけど、彼らの目的は私の護衛ではなくて、監視だろうからぐっと我慢する。
はやる気持ちを押し付けて、やっとリィの部屋まで辿り着く。
リィ付きの侍女さんに取り付けてもらって、扉が開く。
「リィッ!!」
私はクウちゃんと共に部屋へ飛び込んだ。
「ユキ」
日の当たる暖かな部屋の奥、ベッドの上に上半身だけを起こして、リィが微笑んでいる。
「見苦しい格好でごめんなさい」
リィはそう謝る。
確かに、一国の王太子妃が客人をベッドで迎えるなんて、あり得ないことなんだろう。
でも、私はそんな王族だとかしきたりとかどうでもよくて。
そのままの勢いで駆け寄るとその華奢な肩を抱きしめた。
私のその突然の行動に、驚いた侍女さん達が私を離そうとするけれど、セリンガムから付いてきていた古参の侍女さんによって、それは阻止される。
「リィ!リィ、リィ!会いたかった…」
こちらの世界に来てから、ルイにお願いをして、何度もリィと連絡を取ろうとしていたけど、シュリゾナの方から許可が降りず出来なかった。
公の場に姿を現すことはあるというのは聞いていたから、立ち歩ける状態にあることは分かっても体の弱いリィのこと。
何かあったのかと、ずっと皆で心配していた。
「…私も…」
私の腕の中で、リィの体が震える。
「リィ、痩せた?体調悪い?ずっと、連絡が取れなくてルイもレイも皆、心配してたんだよ」
その私の言葉にリィは大きく目を見開く。
「…そんな、私も殿下にお願いしていたのよ…。ただ、セリンガムの方が慌ただしくて中々許可が降りないと殿下が…」
その言葉に引っかかったけど、私達はもうどうでもよくなっていた。
「ユキ、久しぶりね。噂では聞いていたけど、本当に何も変わらないのね」
にこりと笑って言うリィは日の光に照らされて、キラキラして見えて女神様のようだった。
「色々あったの。でも、戻って来れた。…リィこそ相変わらず綺麗。…でも、ちょっと痩せたね。ちゃんと食べてる?」
「最近、体調を崩してたから…」
そっと目を伏せて、呟くリィの手を取る。
「セリンガムからリィの好きなクッキーを持って来たよ。後で一緒に食べよう?」
その私の言葉にリィが少し笑う。
「クッキーが好きなのはユキでしょう?」
「バレた?でも、こんないい天気なんだもん。昔みたいにルイとレイと4人でお茶しよう?それにね、やりたいことがあるんだ」
「やりたいこと?」
リィが小首を傾げる。
ほんと、かわいいな!これで私と同い年ってどういうこと!
昔と全っ然変わってませんけど!
「リィの衣装選び!少し大人っぽくなったリィのドレスを侍女さん達と一緒に選びたい!」
私のその言葉に、リィの近くにいた古参の侍女さんが「素敵ですわねっ」と声をあげてくれる。
何せ、この侍女さんとはリィの結婚式のドレスを一緒に考えた仲だからね。
目を合わせて頷き合う私達に、リィは大きく目を見開いて、そしてクスクス笑い出す。
「ユキは…本当に変わらないんだから…」
「変わらないよ?昔も今も私はリィが大好き」
笑って言えば、リィは表情を凍らせた。
「リィ?」
そして、次の瞬間その綺麗な瞳からポロポロと涙がこぼれた。




