罰
帰った私を待っていたのは、息が止まるんじゃないかと思う程のルイの抱擁だった。
「心配した…」
小さく呟いて、私を抱きしめるルイの腕は力強くて、けど震えていて。
こんなに心配をかけてしまったことを心の底から申し訳なく思う。
「ごめんなさい…」
何だか涙が出そうになって、私は謝る。
ルイの腕力は強くて苦しかったけれど、苦しいとは言えずにただそのままでいる。
そうして、少しだけ悟る。
ルイが私を失うことをどれだけ恐れているかを。
あの夜のことをどれだけ後悔しているのかを。
本当にごめんね…。ルイ…。
「何もなくて良かった」
ルイの後ろで、レイがそう呟いて。
ルイは私の肩口に顔を埋めているから、レイの表情もよく見える。
「レイも…心配をかけてごめんなさい…」
私の言葉に泣き笑いのような顔をして、レイは首を降る。
その表情が、また胸を締め付ける。
「ユキのせいじゃない…」
レイの言葉にやっとルイの腕の力が弱まって、少し私から体を離す。
「これは、きっとクウからの罰なんだろうな」
「クウちゃんの?」
ルイの言葉に首を傾げると、ルイは少しだけ強張った表情を歪めた。
多分、笑おうとしているのだと思うけど、強張ったままだからとっても微妙。
まぁ、綺麗なことには変わらないんですがね。
「8年前…俺達はユキを守れなかった」
ルイの言葉に驚く。
「あれはっ…不可抗力であって、ルイやレイのせいなんかじゃないよっ!」
第一、レイなんかまだ小さくて、あの場にいなかった位だし!
慌てて私の側にいるクウちゃんに視線を向けるけど、プイッと横を向いてしまう。
クウちゃん…あなた、本気なの…。
その態度に頭が痛くなる。
なんか、クウちゃんはルイやレイに冷たいなぁって思っていたけど、怒ってたのね。
だけど、あれは誰のせいでもないというか、むしろ、私自身のせいというか。
そもそも、それなら私のことを守る目的で側にいたクウちゃんにだって責任はあるんじゃ…。
「翼竜は人間の強い感情に敏感だ。あの時の義姉はもう心を病んでいたから、複雑でクウにも悟れなかったんだろう」
眉間に皺を寄せてクウちゃんを見るわたしの気持ちが分かったのか、ルイが説明してくれる。
「それなら、尚更誰も悪くないじゃない…」
「クウが手薄になる部分でこそ、自分達が役に立たなければいけなかったんだ」
レイまでもそんなことを言う。
そんなものかなぁ…。
……。
…。
「…何で?」
その夜。お風呂に入ってサッパリしてから部屋に戻ってきた私は驚いて固まった。
「おかえり」
綺麗な青い瞳をキラキラさせて声を出すのはルイ。
それはいいんだけど…。
何で私のベッドにいるんでしょうか?
「ユキ。これから一緒に寝よう」
嬉しそうに告げられて私は固まる。
「なっ…何言って…」
「昔は一緒に寝ていただろう?」
「昔って言ったって…あれはルイがまだ子どもの頃の話だし」
それに、あの時ですら一緒のベッドに寝てた訳じゃないし…。
むくれる私に、ルイはにこりと笑う。
「大丈夫。クウもいるし、ユキの了承もなく手を出すようなことはしない」
「そういう問題じゃなくて…。成人した男女が同じベッドで寝ちゃ駄目でしょう」
「ならば、ユキが俺の部屋で寝ればいい。俺は王だから俺の意志を無碍にできる者はいない。どうしても嫌ならばクウに攻撃させて無理矢理どかしてくれ」
ちょっと…。何このワガママ王様。
クウちゃんに攻撃させるなんてできる訳ないじゃない。
分かっててやってるな。
でも、心配をかけて後ろめたい思いもあってあんまり強気に出られない…。
ふぅっとため息をついて私はソファへ直行。
ソファはふかふかで寝るのに何にも問題ないしね。
「きゅい?」
ふよふよ隣を飛んでいるクウちゃんを抱きしめて、私はごろんと横になる。
「ユキ。そこで寝るのか?なら、俺がそこで寝るから、ユキはここで寝てくれ」
ルイが困ったような声を出すけど、無視無視。
ぎゅっと目をつぶって沈黙。
「ユキ?寝たのか?」
無言の私にルイの声がかかる。
そうですー。
ユキさんはもう寝ましたよっと。
ルイは例え私と同じベッドにいたって、きっと私がいいって言わない限り何もしない。
それは分かる。
でもだからこそ、そんなことしちゃいけない。
私の中でまだ結論が出ていないこの状態で、これ以上近寄っちゃいけない。
きっとルイもそれは感じてる。
だから、部屋に来てあんなこと言っても強行には動かない。
それでも、近くに来られずにはいられないルイの気持ちが切ない。
私は、この世界にずっとはいられない。
クウちゃんから私の役割を聞いたこともあって、ますますそう思う。
私の様な危険因子はこの世界が落ち着いたら消えるべきだと思う。
そこまで考えて、そしたら悲しくなって、胸の中にいるクウちゃんをぎゅっと抱きしめた。
ふわふわ。
夢の中。
ルイが私を優しく抱きしめる。
ルイの香りに包まれて、何だかとっても幸せな気持ちになって。私はついつい笑ってしまう。
「ユキ。俺は、お前がいないと駄目なんだ。…だから、拒絶しないで…」
切ないその声に、これが夢でないことを悟る。
大きくて優しい手が私の頭を撫でる。
目を開けると、月明かりに照らされて、ルイの青い瞳とぶつかった。
でも、私は眠くて。
ルイの側は安心するから余計に眠くて。
「ルイ…?」
「ユキ。起こしてしまったか?すまない。…まだ夜が明けるまで時間がある。寝てくれ」
ねぇ、ルイ?
私がディールの姫なんかじゃなければいいのにね。
ルイが王様なんかじゃなければいいのにね。
そしたら、こんなに悩まないのに。
「そうでなければ、出会えなかった」
ルイの声に苦笑する。
確かにそうだね。
本当にそうだね。
どうしてだろう。
すごく切ないよ。
その事実が、すごく切ない。




