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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第2部
21/47

変化

王宮に着いてから、一番に迎えてくれたのはフェイさんとルドルフさん。


「ご無事で何より」


って笑ってくれて。

とっても嬉しい。


まぁ、そこに行くまでにどっちが私を抱いていくかで、ルイとレイの攻防があったんだけどね。

もう、私をダシに兄弟でじゃれ合うのはやめて欲しい。


でも、王宮内では顔見知りの侍女さん達も走り寄ってきて、皆泣いてくれて。


何て、ここはあったかいんでしょう…。

こんな私を迎え入れてくれて、ありがとうございます…。








こちらの王族の普段着である、エンパイア型のドレスに着替えて今私がいるのは会議の間。


「こちらへ着いて早々に申し訳ありません」


やって来た私に、ルドルフさんが申し訳なさそうに言う。


「とんでもないです。私も実情を知りたいですから」


「ユキ、こちらへ」


応える私に、手を差し出すのはルイ。


ん?

そこへ座ればいいの?

ルイの隣?


言われた通りに、ルイの隣の席に座る。

にっこりと本当に嬉しそうに笑うルイと目が合う。


何だか、大型犬に懐かれた気分です…。


「…ところで、一つ聞いてもいいですか」


気を取り直して、声を出す。

この王宮に着いてからずっと気になっていたことがある。


「何なりと」


応えるのはレイ。


この会議の間には、ルイとレイ。

そしてルドルフさんとフェイさんしかいない。


「王様はどこに?」


「父上は亡くなった。二年程前だ」


ルイの言葉に動きが止まる。


え?何て言った…?


「ど…して…」


「詳しいことは分かりません。ですが、王妃様が何らかの関わりがあるということだけ分かりました」


ルドルフさんが言う。


「王妃様が…?」


「王は毒殺です。そして、王妃様とお二人の時に亡くなられた。王妃様はご自分が王の飲み物に毒物を混入したと証言されています」


「外傷はない。魔道が使われた形跡もない。その時間他の人物が部屋に入った形跡もない。疑う理由が見つからない」


ルイが静かに続ける。


「どうして王妃様はそんなことを?」


「ディルバート様がここセリンガムの後継者問題から手を引いたのです。ご自分は王になる資質など無いと仰って、貴族に降下されました。そのせいだと仰っております」


「ディル王子が?」


私がいない八年の間に、とんでもない事が起こっていたようだった。


話をまとめると私の事件の後、加害者であるマリー様共々、一連の騒動の責任を取って自らディル王子は貴族に降下した。

そんな息子を王妃様はずっと説得していたけど、ディル王子の決心は固かった。

そして、何を言っても気持ちを変えない息子を諦めたのか、今度は王様に訴えるようになった。

王様は能力主義を掲げる方だから、当然その要求をはねのけた。

二人が言い合いをする姿は良く見られたと言う。

そして、ルイが二年前に成人の儀を迎えたその日、王様は正式に自分の後継をルイに決めた。

その翌日に亡くなった。


ただし、王妃様の証言には不自然なことも多いらしい。

まず、その毒物を王妃様がどうやって手に入れたのかということ。

毒はケイルの実という実を砕いて粉末状にして使うらしいけれど、当然これは猛毒なので扱える人間は限られている。

ケイルの実の粉末は何百倍にも薄めて、痛みを和らげる麻酔のような物として、こちらの世界では使用することができる。

だから、王家の徹底管理がされた所有地でのみ育成が認められている。

そこは王と、セリンガム一の魔道士フェイさんと宰相ルドルフさんと王宮付きの医師しか知らない場所らしい。

さらに、勝手に持ち出すことがないようにフェイさんのシールドが張られていて、万が一侵入者があった場合は彼が気づく。

正当な理由でケイルの実を使用する場合は、まずフェイさんの了承を得て、その後正式文書をルドルフさんに提出し、彼からの承認印を貰わなければならない。


それだけの徹底管理をされているものを王妃様がなぜ、手に入れられたのかが分からない。

王妃様自身もそのことに関しては、口を閉ざしているらしい。


そして、もう一つ。

王様を手にかける動機が曖昧。

自分の息子を後継者に選ばなかったというだけで、その様な行動に出る程彼女は愚かではないということ。

確かに言動は派手なことが多く、気性もけして穏やかな方ではないけれど、王妃様は善政を行う王様を支えるに十分な賢さを持った方。

だからこそ、前王妃様が亡くなった後、何人かいた側室の中から選ばれた。

もし、王を手にかけるようなことがあれば、その事実が引き起こす事態を予測できない筈がない。


「現段階では、まだ不自然な点が多いのでアンケセナーメ様の処遇は決まっておりません。祈りの塔にて幽閉されております」


この王宮の敷地内にある祈りの塔。

王族や高位貴族の中から、罪人が出た場合ここにその処遇が決まるまで幽閉されるという場所。


「そんなことが…」


「父上の無念は必ずはらす。だから、ユキはあまり気にすることはない」


優しい声で、ルイが言う。


「他にユキに頼みたいことがある」


「頼みたいこと?」


頷くルイの後を引き継ぐのはルドルフさん。


「近々、ルイシーク王の誕生会が開かれます。それに、出席して頂きたい」


「誕生会?」


聞けば、五日後にルイの誕生会をするために近隣諸国からの使者とセリンガムの貴族達が集まる大掛かりなパーティがあるという。


「…それは、ディールの姫として出席するという意味ですよね?」


私の言葉にルドルフさんは頷く。


「近隣諸国も、あなたがまたこの地に現れたと気づいているでしょう」


続けるのはフェイさん。


「分かりました」


うん。もう逃げてばかりはいられないからね。


「大丈夫。俺達が付いてるから」


レイが力強く断言してくれる。


「うん。ありがとう」


にっこり笑って、微笑み合って。

そして、気づく。


「そういえば…」


「どうした?」


首を傾げるルイに


「ルイの奥さんに挨拶したいんだけど…」


私はお願いする。


マリー様の時と同じ轍を踏んではいけない。

ルイの奥さんとは、しっかりとした人間関係を築いておかないと…。


けど、途端に不機嫌そうな顔になるルイ。

そんな彼の横で噴き出すのはレイ。


「ユキ。兄上に妃はいないよ」


おかしそうに笑って、教えてくれる。


「え?そうなの?」


だって、セリンガムの王族は成人の儀を迎えることができる18歳になると、妃を娶るのが慣例だった筈。

高位貴族の令嬢が通例だけど、時と場合によっては近隣諸国の姫君であることもあったって聞いた。


ルイは20歳でしょ?

それに、もう王として政治を行っているのだから王妃と側室が何人かいても不思議じゃないよね。


「…何か、それについても問題が?」


貴族間で自分の娘を輿入れさせようとか、色々といざこざがあったのかな…。


視線をルドルフさんに向けると、彼はにっこりと微笑む。


「いいえ。特にこれといった問題は浮上していません。王の妃の座を巡って水面下では色々とあるようですが。…ですから、ユキ殿にはその件についてもぜひ力を貸して頂きたいのです」


「私で出来るようなことがあれば…」


貴族間の勢力図は頭に入ってるけど…。

ルイかっこよくなっちゃったもんなぁ。

それで、この国の王様でしょ?そりゃ、お嬢様方がほっとかないよね。

女の争いも結構起こってそう。

ルドルフさんも水面下では…何て言ってたし。

ってことは、私の役目はその調停?女の争いをどうにかしろって?

んー。そういうのは、苦手なんだけどなぁ…。


ちらりと視線を上げれば、不機嫌そうなルイと目が合う。


ううんっ!!

王族の結婚は政略的な意味合いが強いけど、どうせ結婚するなら能力があって素敵な人がいいよね。

お互いに恋愛感情が生まれればなおよし。

よしっ!可愛い弟のため!

私が素敵なお嬢様を見つけてあげようじゃないのっ!


「…ユキ。何か碌でもないことを考えているだろう…」


じとっと恨みがましい目をこちらに向けて言うルイ。


失敬なっ!こんなに前向きに考えてるのにっ!

あっ。でも、その目懐かしいかも~。

小さかったルイを思い出す~。


そんな私の様子にたまらないと言った感じで、レイが声を出して笑い出す。


「あはは!やっぱりユキは最高だっ!!」


「レイ?」


「ねぇ、ユキ。俺も最近成人の儀を迎えたんだよ」


私の手を取って言うレイに頷く。


「そうだね。レイももう大人だね」


私としては、かなり寂しいですが…。


「だから、妃を娶ることができる」


「そうだね。…レイはもしかして、もう心に決めた人がいるの?」


「うん」


きらきらとした瞳で頷くレイ。


あらら。

これは、ルイってば弟に先越されちゃってる感じ?


「今までは親類に対する情に近いものだと思ってた。けど、違うんじゃないかって今は思ってる」


「気持ちに気付いたんだね」


「そう」


頷くレイに何だか、私も嬉しくなる。

可愛い弟に好きな人ができるのは、何だか少し寂しい気がするけど、本当に好きな人を見つけられたというのは素直に嬉しい。


「ユキ、俺は…」


「レイ。調子に乗りすぎだ」


ぐいっと引っ張られて、レイから離される。


なんか、こんなことが多い気がする…。


「今は会議中だ。時と場所を考えろ」


「では、違う場所で気持ちを伝えることとしましょう」


レイの返答にルイがむっとしたのが分かる。


「…会議を続けますよ」


ルドルフさんが笑いを噛み殺しながら、声をかけた。









夕方、私は侍女さんに聞いた王家の墓石がある場所に行った。

祈りの塔と正反対の、ぱっと見たら薔薇園にしか見えない場所に立派な墓石がたっている。

王族は亡くなると、皆ここに葬られるという。


死者の魂を清浄にすると言われる薔薇が咲き乱れるここは、魔道の力が関与しているので年中花を咲かせていて枯れることはないらしい。


その墓石の前にしゃがんで、頭を下げる。


ルイのお父さん、前王は好戦的だった今までの王とは違い、戦ではなく内政に力を入れた人。

彼の善政のおかげで、民は魔道石の利用が今まで以上にできるようになり、生活水準は飛躍的に上がったと言われている。


王様。

私に一体何ができるのか分かりませんが…、精一杯やってみようと思います。

あなたが愛したこの国を守れるように。

この世界へ来て初めに会ったのがルイであったのにも、何か理由がある筈だから。


「ユキ」


その時、名前を呼ばれた。


「ルイ…」


ゆっくりと立ち上がって、声の方を向く。


「父上に?」


こくりと頷く。

にこりとルイが笑う。


あ…また…。


成長したルイと会って、少しだけ感じていた不自然さ。

昔のルイはこんなに綺麗に笑わなかった。

もっと、顔全体で笑ってた。

もっと楽しそうに笑ってた。

でも、今のは外向けの笑顔っていうのかな。

それが、成長した証だと言われてしまえばそれまでだけど…。


「…ルイ。辛かったね」


魔道士としての訓練に王様の訃報。

悲しみにくれる間もなく、彼は走ってきたのだとフェイさんから聞いた。


きっと、ルイは弱音を吐かなかっただろう。

12歳の時ですら、あれだけ忍耐強かった。

あの頃の面影が残る意志の強さを感じさせる瞳が、それを雄弁に告げている。


「…ユキには敵わない…」


ふっと笑って言うけれど、ルイの瞳が揺れている。


「これ…まだ付けていてくれているんだな」


私の首にあるネックレスに触れて、ルイが言う。


「うん。元の世界に戻っている間、こっちのことは何も覚えていなかったのに、どうしてか身に付けてると安心できたの」


「そうか」


ルイが初めて働いたお金で私に買ってくれたネックレス。

今なら、そんな風に思えた理由が分かる気がする。


「安物だ。もっと質のいい物を贈ろう」


ルイが笑って言う。


「いらないよっ!ルイが…一生懸命働いたお金で買ってくれた物じゃない。これ以上の価値のある物なんて無いんだから」


何だか簡単に取られてしまいそうな気がして、慌てて離れて言う私に、ルイが目を見開く。

そして、くしゃりと笑った。


あ…ルイっぽい…。


口元だけで笑う上品な笑顔じゃない。

懐かしい。昔の笑顔。


ぎゅっと抱きしめられる。


「ユキ…」


ふっと体の力を抜いて、優しく私を呼ぶ声が少し震えていた。


「ありがとう」


小さく低く呟かれる言葉。


「こちらこそだよ」


ルイはきっと弱音を吐かない。

けど、今だけでも肩の力が抜けるように。


頑張ってきたね。

辛かったね。


そんな思いを込めて、彼の広くなってしまった背中に手を回して、ゆっくり撫でる。


そうやって、私達は陽が落ちて暗くなるまで抱き合っていた。

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