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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第2部
20/47

再会

名前を呼ばれて、顔を上げて。

でも、逆光で私を呼ぶ人の顔はよく見えない。

翼竜は大きいから、余計に顔を上げないといけなくてね。


あっ、金色…。


それが分かった次の瞬間には、私は抱きしめられていた。


「ユキッ!ユキッ!…ユキッ…!!」


ぎゅうっと抱きしめられて、身動きが取れない。

っていうより…。


「…くっ苦しぃ…」


あんまり力強く抱きしめるから、息が思うようにできないの。


「…すまないっ!!」


声の主は、そう言って腕の力を弱める。

そうして、私の肩を掴んだまま少し体を離す。


「大丈夫か?」


心配そうに尋ねる。








……どなた?








目の前には、金髪の超絶美形が青いきらきらした瞳を心配気に揺らして立っている。

年齢は20歳前後?

すらりとした長身に綺麗な白い肌。


この人は誰?

なんで私を知ってるの?

なんで、私を抱きしめるの?


私の記憶力はそんなに悪い方じゃない。

だから、一度会った人なら忘れない。

自慢にはならないけど、ヘインツさんだって会ったことはないけど、思い出した。

でも、こんな風に抱きしめられて名前を呼ばれる程、親しいはずのこの人の顔を知らない。


「…大丈夫です」


とりあえず、心配そうなので答える。

でも、本当に知り合いじゃなかったら、この青年がやってることは立派な痴漢なんですが…。

イケメンだからって何でも許されると思うなよっ!!


そんな私の心の叫びは届かなかったようで


「ユキは全く変わらないな…。あの頃のままだ」


ふわりと蕩けそうな瞳で私の髪を撫でて、青年が呟く。


えっ…と…。

やっぱり知り合い??


どうしよう…。

どちらさま?とか聞いても許される?


私がプチパニックになっている時


「兄上!俺にもユキと話させてくださいっ!!」


青年の後ろから、声がした。


「レイ」


少しだけ、嫌そうに顔を顰めて青年は私の横にずれる。


長身がいなくなって、視界が開けたそこに立っていたのは、青年と瓜二つの顔をしたこちらも超絶美形。

違いは髪の色が茶色なことと、その長さくらい?


「ユキッ!!」


私の顔を見るなり、茶髪青年が金髪青年と同じように私を抱きしめる。


「会いたかったっ!!」


…どうしよう…。

私、どちらも覚えていないのですが…。


「ヘインツから連絡があって、急いで翼竜を飛ばして来たんだ。…ユキにまた会えるなんて夢のようだ」


力加減をしながら、ぎゅっと抱きしめてそう呟く茶髪青年。


あぁ…。

どうしよう…。

聞けない…。

どなたですかなんて、こんな雰囲気の中聞けない…。


「レイ。触り過ぎだ」


冷や汗がだらだらと流れる中、突然、ぐいっと体を引かれて茶髪青年と離される。


「兄上」


むっとした感じで、茶髪青年が金髪青年を睨む。


「いいではないですか。やっとユキに会えたのだから」


「よくない」


「ユキは兄上の所有物ではないでしょう」


「お前のものでもない」


私を挟んで、何だか言い合いをする二人。


「ルイシーク王子にレイボルト王子。兄弟喧嘩ならどうぞ王宮で」


ため息をついて、ヘインツさんが声をかける。








……ルイシーク王子?

……レイボルト王子??


……誰が?この二人が??


えっ?

えっ??

えっ!!!???


「…もしかして…ルイとレイ…なの??」


恐る恐る、顔を上げて尋ねる。


「ユキ?どうした?」


さも当然と言わんばかりに、青年二人が私に視線を向ける。


えっと…えっと…。

落ち着け。私。


私がここから日本へ戻った時、ルイは12歳。レイは10歳だった筈。

で、日本にいたのは三カ月くらいだから…。










何で、こんなに大きくなっちゃってるの??


私の知ってるエンジェルズは、もっと小さくて声変わりもしてなくて…。

笑顔が可愛くて、ほっぺなんかまだぷにぷにしてて。

こんなにシュッとした大人の男性じゃなかったよぅぅぅぅ!!!!!!


「…どうやら姫は混乱しておいでのようだ」


ヘインツさんが、なんだか少し楽しそうに言う。


「…はい。とっても混乱しています」


誰か、誰か…説明プリーズ!!








そして、とりあえずヘインツさんの屋敷で、キリスが淹れてくれた紅茶を飲みながら、話し合い。

なんと、私が日本へ帰っていた三カ月の間、こちらでは八年もたっていたらしい。

通りで顔を見ても気づかない訳だわ。


「…そんなに時間の差が…」


ルイとレイが難しい顔をして考え込む。


まぁ、私の両隣にいる彼らだからよく見えないけどね。


「…こんなに大きくなっちゃって…」


ふぅっとため息をついて言うと、ルイが顔を上げる。


「ユキは違和感があるかもしれないが、俺はこの時の流れの差がとても嬉しい」


にこりと笑ってルイが言う。


「嬉しい?」


私としては、嬉しいというより混乱していて複雑ですが…。


「この年齢ならば、ユキの隣に立つのに何の不都合もない」


不都合?

何が?


「それを言うならば、俺もそうですよ」


口を挟むのはレイ。


あぁ。…あんなにちっちゃかったレイがこんなに大きくなちゃって…。


「お前はまだ幼い」


「成人の儀はとっくに済ませていますが?」


「済ませたばかりの半人前だ」


「もう兄上の片腕だと、認めてくれたのは兄上では?」


「気のせいだ」


「…積もる話もあるでしょう。そろそろ、王宮にお戻りになっては。こちらも忙しいのでね」


ルイとレイのやり取りに声を出すのはヘインツさん。

仲が良いのはいいことだけど、他人の前でじゃれ合ったらダメよね。


「そうだな。世話になった」


ルイがそう言って立ち上がる。


「ユキ」


そうして、私に手を差し出す。


「ありがとう」


その手を取って、立ち上がると途端にルイの表情が曇る。


「ユキ、その格好は…」


「ん?さっきからずっとこれだったけど…。元いた世界での格好がこちらでは見苦しかったから、スカートを借りたの」


やっぱり、パーカーにスカートは変だよね。


すると、ルイは小さくため息をつく。


「ローブ」


小さく呟くと、ルイの手に薄いピンク色のローブが現れる。

そして、それを立ち上がった私の腰に巻き付けた。


ん?

今のは、何??


「兄上は魔道が扱えるんだよ」


?マークを飛ばしている私にレイが教えてくれる。


「あれ?ルイ…昔からそうだったっけ?」


「ユキがいなくなって…しばらくしてから自分の中に流れる魔道の力に目覚めた」


何でもないことのように言う、ルイ。


だけど、魔道の力が目覚めてからそれを制御できるようになるには、とても厳しい訓練が必要だってさっきキリスから聞いたばかり。

力の目覚めは幼ければ、幼い程いいらしい。

大人に近づけば近づく程体力が付くのでその分、体にかかる魔道のエネルギー量も増える。

だから、ヘインツさんは素質がある子どもは、なるべく幼い内に見つけようとする。

大人になってからだと、子どもの頃に比べて訓練に耐えられる人間が更に減るから。

それは、セリンガムにとっても本人とっても辛いこと。


私がいなくなってからってことは12歳以降。

3歳~5歳の間に魔道の訓練を始めるのが普通。

遅すぎる…。

辛かっただろうに…。


何だか、胸が苦しくなる。


けど、次の瞬間。


グイッ。


「きゃぁっ!?」


気づけば、私はルイに抱き上げられていた。


「るるるるルイッ!?」


何これ!?

何で、お姫様だっこ!?


「翼竜に乗って帰る。その格好では乗りにくいだろう?」


にっこり、素敵な笑顔でしれっと言うルイ。


「乗る時に手伝ってくれればいいからっ!下ろして~!!」


私重いのにーー!!

ジタバタ暴れる私に


「気にすることは無い」


笑顔で断言するルイ。

その顔とは裏腹に、がっちり腕が回っていて私はこんなに暴れているのに、下りられない。


「世話になったな、ヘインツ」


そう挨拶して、ルイは部屋を出て行こうとする。


「…ヘインツさん!ありがとうございましたっ。キリスッ!!色々ありがとう」


ずんずん歩いていくルイの肩越しに何とか、顔を出して叫ぶ。


「姫様!こちらこそありがとうございました」


キリスが笑顔で返事をしてくれる。

その隣でヘインツさんが苦虫を噛み潰したような顔で立っている。


でも、私が確認できたのはそこまで。

あっという間に中庭まで、来てしまいました。


「ユキ。俺を選んでくれた翼竜だよ」


中庭には、赤い翼竜が静かに佇んでいた。

そんな翼竜に近づくのはレイ。


「…レイは翼竜を使役できるの?」


「あぁ。竜の里へ行って、コイツと会った。そして、俺を選んでくれた」


レイは愛おしそうに翼竜の前足を撫でる。

そんなレイを翼竜も優しい瞳で見つめる。

そして、その瞳を私に向ける。


あぁ…。何て優しい瞳。

あなたに会えて、とても嬉しい。

そんな気持ちになる。


すると、翼竜はルイに抱かれている私にぐっと顔を近づけてきた。


自然と手が伸びて、その顔に触れる。


翼竜が口を開けたら、私なんてきっと一口。

それだけ大きいけれど、やっぱり恐怖なんかは無くて。


「…よろしくお願いします。…(エン)


自然とそんな名前が口から出る。

安易な名前。

だけど、燃えるような深紅のこの綺麗な翼竜には、ぴったりだと思ったの。


翼竜は小さく頷いて、私に更に顔を寄せる。

軽く頬と頬が触れ合う。


あったかい…。


「エンか…。いい名だ」


ルイが静かに言う。


「俺は名付けを許されなかったけど、やっぱりユキを待ってたんだな」


レイが納得するように頷いた。


クウちゃん。

クウちゃんに会いたい。


「さぁ、行こう」


ルイがそう声をかけて、エンの背中に乗る。

エンの背中には鞍が付けてあって、乗り心地は悪くなさそう。









…ん?


「ねぇ、ルイ」


「何だ?」


「何で私、ルイの膝の上なの?」


「翼竜の背中は安定が悪い。ユキに何かあるといけないだろう?」


「大丈夫だから!私、自分で乗れるからっ!!」


「ダメだ」


むっ…。

ちょっと会わない間に、何だか我が儘に育っちゃってない?

私はそんな子に育てた覚えはありませんよっ!!


「ユキ!王宮に付いたら俺が抱いて行くからね!」


エンの首元近くに座ったレイが、笑顔で振り返って言う。


「ダメだ」


すかさず答えるのはルイ。


「ちょっと…」


声を出そうとした時、ふっとエンが羽根を動かして、飛び立った。


「防御」


その瞬間、ルイが呟くと私達の周りに薄い膜のようなものができる。

そのままエンが高く飛び上がっても、膜の中にいる私達には、風はもちろん何の影響も無い。

膜は透明なので、周りの景色はよく見える。


「わぁ…」


まるで、飛行機に乗っているみたい。

ううん。

飛行機よりずっと解放感がある。


「速いーっ!!」


エンはぐんぐんスピードを上げていく。

周りの景色が流れて行く。

ルイの膝の上にいることとか、もうどうでもよくなってくる。


レイはスピードの調整しているのか、エンに何か話しかけているので、こちらには背を向けている。


「ユキ」


そんな私にルイが声をかける。


「何?」


「王宮に着いたら、聞いて欲しいことがある」


「今じゃダメなの?」


「今は都合が悪い」


「分かった」


頷く私に、ルイはにこりと笑う。


「ユキ」


「何?」


何だか、子どものように私の名前をルイが何度も呼ぶから、少しおかしくって笑ってしまう。


「会いたかった」


ぎゅっと、私を抱きしめてルイは言う。


「ルイ?」


「…ずっとずっと…またユキに会える日を夢見ていた。…まだ、夢みたいだ…」


そう言って私を抱きしめるルイの手が震えていて。

私の記憶のルイとは随分違う、男の人の手。

体も大きくて。

私なんてすっぽり収まっちゃう。


けど、やっぱり中身はルイなんだなって。

やっとパズルのピースがはまるみたいに、納得する。

私の中で、今やっとルイがあのルイだと受け入れられた気がする。


「大丈夫」


そんな彼の手をゆっくり撫でて、伝える。


私なんかをそんな風に待っていてくれてありがとう。

心配させて…ごめんなさい。


「ただいま」


そっと呟いた。




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