気づき
あれから、3カ月。
私に異常は無い。
朝起きて、仕事に行って帰ってきて寝る。
そんな毎日。
時々、学生の頃からの友達と女子会やったり会社の先輩のお願いで、合コンに数合わせで参加したり。
祐樹もたまに遊びに来る。
そうそう。
久しぶりに実家へ帰ったりもした。
父親と義母の百合さんと一緒に過ごしてて。
「雪ちゃんは今彼氏いないの?」
百合さんにそんなことを聞かれた。
「いないですよ~」
うん。元カレとは半年くらい前に別れちゃったし。
私はどこかめんどくさがりで、付き合っても連絡はマメにしないし、休日は何が何でも恋人と一緒にいたいわけじゃない。
だから、いっつも振られて終わり。
でも、いつかは目の前の父親と百合さんのように、穏やかでお互いがお互いを認めて。
ずっと一緒にいたいと思える相手と出会えたらな、とは思う。
そうやって。
日々は平凡に、だけど確実に過ぎて行った。
ただ、気になるのは、目が覚めた時着ていたドレスと首にあったネックレス。
ネックレスは桜のような形をした花を模った、華奢なもの。
見覚えは全く無いんだけど、でもどうしてか身に付けてるとホッとするので、あの日からずっと付けてる。
高価なものには見えないんだけど。
水に濡れても、メッキが剥げたり変色したりすることはない。
不思議なネックレス。
「疲れた~」
明日からは連休。
だから、残業も頑張って。
へとへとになって帰宅。
化粧を落として部屋着に着替えて、ベッドにダイブ。
うーん。
よく眠れそう。
そうして、うとうとして。
その時。
--ユキ…。
誰かに名前を呼ばれた。
目を開けるとそこは明るくて、でも眩しい程ではない、ふわふわした感覚の場所。
前にもこんな夢をみた気がする。
ーーユキ。
名前を呼ばれる。
でも、いくら辺りを見回しても姿は見えない。
「誰?」
声に聞き覚えは無い。
ーーこちらへ来て欲しい。
声にはどこか必死な響きがある。
ーー勝手なことを言っているのは分かっている。だが、限界は近い。
「限界って…何が…?」
ーー全て。貴女に関わったもの全て。
「私に関わったもの…?」
何の事を言われているのか、さっぱり分からない。
ーー私は守りたい。
声は続く。
ーーそれには、貴女の協力が必要だ。
「協力…?ごめんなさい。全然…話が見えないの」
ーーもう、誰にも貴女を傷付けさせない。…だから…。
その瞬間、左の脇腹に激痛が走る。
「…くっ…」
脇腹を押える。
すると、手にねっとりとした感触。
血…?
私、血を流してる…?
目の前に現れる残像。
金色の髪の少年。
綺麗な少女。
ローブを纏った人。
初老の男性。
青い瞳が印象的な小さな翼竜。
そうだ。
その瞳がまるで、空みたいだから。
私は『クウ』と名付けたんだっけ…。
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
思い出した。
そう。
私は、異世界にいた。
ルイ。
そう、あの子。
あの子の所に行かないと。
私がいなくなって、泣いていたルイ。
心配してる。
私の夢に出てくるくらいに。
「クウちゃん」
声の主に呼び掛ける。
いつの間にか、激痛は治まって血も止まってる。
ーーユキ。
クウちゃんが応えてくれる。
「私、戻るよ」
ーーそうか…。
「私の記憶を失くしたのもクウちゃん?」
ーー無用の混乱を避けるために。
「傷も治してくれたんだね。ありがとう」
ーー礼を言われるようなことではない。
クウちゃんの声。
聞きたいことがたくさんあるけど、そんなに時間も無いんだなってことが何となく分かる。
「どうして私だったの?」
ーーユキがユキだから。
そんな、禅問答みたいな答えって…。
「私は何をしたらいい?」
ーー貴女がその心の通りに行動を起こすなら、それが正しい道へ繋がる。
うーん。何て曖昧な。
もう少し、マニュアルがあると嬉しいんだけどな。
それに、私はそんな立派な人間じゃないんだけどな…。
「クウちゃん、戻っても会える?」
ーーもちろん。我は貴女の竜。
「…あなたはディール?」
ーーそう呼ばれたこともあった。
「あなたは私の味方ね?」
ーー必ず。
うん。
それだけ、聞ければもういいよ。
後一つだけ。
「ルイは元気?」
ーーセリンガムの王子のことは分からない。だが、生きている。
あら?
なんか、突然冷たい感じ。
クウちゃんってルイと仲が悪い印象は無いんだけどなぁ。
ま、いっか。
にこりと笑う。
「私は私のやりたい様にやるよ」
以前、ルドルフさんにも伝えた言葉。
クウちゃんが小さく笑ったような気がした。
ーー待っている。貴女が来るのを。
そうして、私は意識を手放した。
次回、異世界へ戻ります。




