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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第1部
13/47

暗闇

それから数日後。

リィが無事にシュリゾナに着いたという連絡を受けて、私達はホッとしていた。


そんな今日は、王族と少数の大臣達を集めた食事会が開かれている。

何のためかと言うと、リィの結婚祝いの会なんだそうで。

本人不在なのに必要なのかな、とも思うけど、他国へ嫁いだ姫が健康で幸せに暮らせるように今日は身近な人達だけで祈りを捧げるのが、この国の慣習なのだそう。

そんな会に呼んでもらえるのは、とても嬉しい。









大きなテーブルに所狭しと食べ物が並んで、王様の挨拶が終わった後皆で乾杯をして食事が始まる。

席順は上座に王様(当然)。

その正面が王妃様。

隣がディル王子で、その前がマリー様。

そして、ルイとレイが向かい合って座っていて。

ルイの隣が私。

私の前がルドルフさん。

王族の次席なんですけど…。

こんな所に座っていいのかな…(汗)


クウちゃんは私の部屋で待機。

多分、食事が終わった頃に来ると思うけどね。


「ユキ。こちらの生活には慣れたか?」


そんなことを考えていたら、王様に声を掛けられた。


「はい。皆様のおかげで何とか、こちらの世界のことが理解できてきました」


特にルドルフさんには頭が上がらない。

そっと窺うと、ルドルフさんはにこりと優しく微笑んでくれる。


「そなたは中々賢いとルドルフやフェイから聞いている。どうだ、今後のことは考えられたか?」


「はい。私なりの、身の振り方を考えています」


応えれば、王様はそうかと笑う。


「私としては、ここにいる王子達の妃にでもなってもらえると有難いのだがな」


本気とも冗談ともとれる声音で、言う王様の言葉にビクッとして隣のルイの手が止まる。


ガチャっとフォークとナイフがお皿にぶつかる音をたてたのは、ディル王子?

嫌なこと思い出しちゃったかな?

私、断っちゃったもんね。


レイは大して気にならないのか、パクパクとおいしそうに料理を食べている。


「御冗談を。私の年齢ではとても王子様方には釣り合いません」


うふふ、と笑って流すと、ジトッと恨みがましい瞳でルイがこちらを見る。


ん?何かな、その目は?


「年齢が問題なのか?ならば、私の側室でもなるか?」


王様が笑って言う。


うーん。王様は40歳前後だろうから、十分考えられる年齢ではあるけれど。

側室なんて、とんでもなーい!

ほら、王妃様が面白くなさそうな顔で王様を見てるし。

女の争いは苦手です。


「とんでもあ…」


「父上。冗談もほどほどにして頂きたい」


私の言葉を遮って、声を出したのはルイ。


あれ?ご機嫌ナナメ?


王様の方を向いているから表情は分からないけれど、ピリピリした空気を感じる。


「すまんすまん。ルイシークの執着もとんだものだな」


ルイの言葉に王様は苦笑すると、その話はそこで終わった。


後は、王妃様が何か王様に言って、それにディル王子が加わって。

声も大きくないから内輪だけの話なのだろう。


「ルイ。おいしいね」


何となく気になって、隣のルイに声をかける。


「ユキ。どれが一番おいしい?」


もう、先ほどの不機嫌な様子はなく、そう尋ねてくるルイに少しホッとする。


「…うーん。どれもおいしいけど、これが好き」


私が指した料理を見ると、ルイの顔がぱっと輝く。


「やっぱり!ユキは肉より魚が好きだから、料理長に言ってこれを出してもらったんだ」


「ルイがわざわざお願いしてくれたの?」


「そう」


頷くルイにきゅんとする。


もう、本当になんでうちの子はこんなに可愛いんでしょう…。


「ルイが好きなのは…これ?」


おばさんの所で働いていた時の、ルイの好みを思い出して言うと、ルイは嬉しそうに頷いた。


「そうだよ!」


やっぱり!ルイは肉が好きだけど、コテコテのソースよりもさっぱりしたものが好きだったからね。


「この後出てくるデザートもきっと気に入ると思うよ」


「ほんと!?甘いもの大好き!」


そんなやりとりをしながら、何だかとっても楽しくて。

二人でにこにこ笑い合って、食事をした。








食事の後は王様がまた挨拶をして、お開き。

大臣達はそれぞれ、帰って行く人が多かったけれど広間に移動して談笑している人もいる。

私とルイも広間に移動した。

レイはお腹がいっぱいになったら眠くなったのか、侍女さんに連れられて自分の部屋に戻って行った。


「ユキ、少しいいかな?」


ふかふかの大きなソファに座って、紅茶を飲みながら、ルイとクッキーをつまんでいた私に声をかけたのはディル王子。


「…王子」


あの、良く分からないプロポーズ事件から王子と話すのは初めて。


私に微笑みかけて、そしてちらりとルイに席を外してくれっていう視線を向ける王子。


「俺のことは、どうぞ気になさらずに」


視線の意味をしっかり理解しているけど、ここをどこうとはしないルイ。


あれ?またご機嫌ナナメ?


そんなルイに苦笑して、諦めたようにディル王子は私の隣に腰を下ろす。


「…あれから色々と考えたんです」


私を見つめながら、言う。


「やはり、私は諦めることはできない」


………。

それって、王になることを?

それとも私?


どちらにしても、こんな所で話していい話題じゃない。

後継の話なら、ここにはルイがいるし。

私の側室話ならマリー様がいる。


ディル王子、こんなに空気読めない人だったっけ(汗)


「…兄上。ユキのことならば、あなたの思い通りにはさせません」


気づくとルイが私の前に立って、座る王子を見下ろしながら言う。


「父上がそうされない以上、私が一番適任だろう。お前はまだ幼い」


王子の言葉にルイがカッとなったのが分かった。


「兄上には渡さないっ!!」


………。


あの、先ほどから何の話をしているのでしょうか?

イマイチ、話が見えなくて分からないのですが…。

離れた所で、王様が面白そうな顔してこっちを見てるのは分かるけど…。

でも口を挟めるような状況じゃないし…。


「きゅい?」


「あっ、クウちゃん」


いつの間にか、クウちゃんが側にいた。

そんなクウちゃんを抱きしめようと手を伸ばした、その時。








-------------トス







そんな音がして。

一瞬遅れてやってきた激痛に、私は倒れた。


「「ユキッ!!」」


ルイと王子の声が重なる。


その後に聞こえる悲鳴。


……あれ?……私……。


血が流れている。

私の血。


どうして?


「フェイはどこだっ!?」


ルイの叫び声。

騒がしくなる広間。


「…ど…して…」


視線の先。

そこには、血に濡れたナイフを持つマリーシュレル様がいた。

でも、その瞳は何も映していない。


「…あなたがいけないんです…」


マリー様?








グルルルルル…。








クウちゃんの低い声。


「クウ…ちゃん…ダメ…」


必死に出したその声に、クウちゃんが反応する。


「ユキッ!」


ルイが私に触れる。


あぁ…止血しようとしてくれてる。


痛みはもう感じなくって。

恐怖もなくって。

ただ、周りがやけに騒がしいことだけは分かる。


「…ル…イ」


「ユキ!喋らないでっ!!」


ルイの綺麗な青い瞳が滲む。


あぁ…。

こんなことなら…。

もっとあなたと一緒にいれば良かった。

勉強や稽古があるからって、遠慮なんかしないでもっと一緒にいれば良かった。


リィとルイとレイ。

三人でもっと一緒にいれば良かった。


「…ご…め……ね」


こんな、悲しい顔をさせたいわけじゃないの。

だけど、もう意識が朦朧として。

声が出ない。


「…だい…す…き…だよ」


ルイが私を姉のように慕ってくれてるのは分かってるから。


だから。


悲しまないで。


泣かないで。


笑っていて。


「ユキッ!!嫌だっ!目を開けて!!」


ルイの叫び声が聞こえる。


ごめんね。


でも、もう限界なの。









目を閉じていても分かるクウちゃんの感触が手にあたる。








クウちゃん。


お願い。


お願い。


セリンガムを。


この愛しい人達を。


壊さないで…。








それを強く思って。


私の意識は無くなった。

これにて、第一部終了です。

ここまで、読んでくださってありがとうございます。


閑話を挟んだ後、第二部に入ります。

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