第7話:ガキども、初めての「現場」完了
温かいスープで腹を満たし、己の「軸」と「隙間」を確かめ合った翌朝。
薄暗い日差しが差し込む訓練場に、筆頭魔導士と防衛隊の将校たちがぞろぞろと集まってきた。
昨日まで俺たちを「雑用係」扱いしていた大人たちの顔には、もう侮りや蔑みの色は一切ない。それどころか、まるで伝説の英雄でも仰ぎ見るかのように、恐々とした面持ちで俺とガキどもの前に整列していた。
「勇者殿……! 昨夜、撤退していた先遣隊が、あの抜け道の検分を終えて戻ってまいりました」
筆頭魔導士が、震える声で羊皮紙の報告書を広げた。
「あの突っ張り棚の補強は……敵の追加部隊による二度、三度の総攻撃にも完璧に耐え抜き、抜け道を完全に封鎖し続けたとのことです! 崩落の危険があった崖そのものが一体化し、まさに『不落の障壁』と化しております!」
「そうか。まあ、計算通りだな」
俺は道具袋から取り出したノミの刃先を砥石で軽く研ぎながら、そっけなく返した。
構造計算に基づいた剛性補強だ。素人仕事の土嚢積みとはワケが違う。
「そして……魔王軍の前衛部隊は突破を断念し、一時撤退を開始いたしました! これにより、我が王都の崩壊の危機は完全に回避されたのです……! 勇者殿、いや、現場監督殿! あなた方のおかげです!」
将校たちが一斉に頭を下げた。
その背後で、レオンが小さな手斧を握りしめ、セシリアと顔を見合わせて息をのんだ。
ガルドは巨大なパンを口に咥えたまま呆然とし、シルフィはフードの影から静かに大人たちの反応を観察している。
「僕たちが作ったものが……王都を救った……?」
レオンの声が微かに震えていた。
大剣を振り回して敵の首を跳ね飛ばしたわけじゃない。誰も殺さず、ただ丸太を組み、火の箱を隙間に打ち込み、身体の軸を通して作業を完遂しただけだ。だが、自分の手が施工した「構造物」が、確実に仲間とこの街の命を守り抜いた。
「どうだ、ガキども。これが『現場を納める』ってことだ」
俺はノミを仕舞い、立ち上がって四人の頭を順番に撫で回した。
「お前らが削った木、打ち込んだ楔、踏ん張った足の軸。そのひとつでも手抜きしてりゃ、あの壁は崩れて大勢死んでた。だがお前らは逃げずに、自分の身の丈に合った仕事を完璧にやり遂げたんだ」
「義一さん……っ!」
レオンの目から、ボロボロと大きな涙が溢れ出した。
セシリアも鼻を赤くして俺の袖を掴み、ガルドは照れ隠しに頭をガリガリと掻き、シルフィは尖った耳を少し揺らしながら誇らしげに小さく胸を張った。
背伸びした「選ばれし勇者」として戦場に放り出され、死の恐怖に怯えていた子供たち。
彼らは今、己の手でひとつの仕事を完遂した「駆け出しの職人」として、確かな一歩を踏み出したのだ。
「よし、これで『初現場』の竣工検査は合格だ!」
俺の宣言に、ガキどもが泣き笑いのような声を上げて「はいっ!」と応えた。
こうして、大工親方と背伸びした子どもたちによる最初の防衛戦は、完璧な成果をもって幕を閉じたのである。




