第8話:血と木屑のゆとり世代
「よし、全員揃ったな」
『初現場』となった抜け道の防衛工事を無事に納め、王都を破滅の危機から救った翌日。
朝の光が差し込む訓練場で、俺はレオン、セシリア、ガルド、シルフィの四人を前に立ち、玄能の柄をポンポンと手の中で弄んでいた。
「昨日、俺たちの施工した突っ張り棚が完全に敵の進撃を阻止し、竣工検査は合格と判定された。まずは一仕事終えたことを誇っていい」
「「はいっ!」」
元気よく声を揃えるガルドとレオン。セシリアは少しはにかみ、シルフィはフードの深めのかぶり直しながら静かに頷いた。
「だがな、浮かれるのはここまでだ。昨日の現場は、言ってみりゃただの突貫工事……『応急処置』に過ぎねぇ」
俺は地面に落ちていた枝を拾い上げると、土の上に大きく線を引き始めた。
「昨日の現場で、お前らは何を感じた? レオン」
「はいっ! ……自分の足の裏に軸を通して丸太を担いだ時、思った以上に重さを感じなくて、ちゃんと狙った角度に突っ張ることができました!」
「よし。セシリアはどうだ?」
「えっと……四角い炎の箱を意識して練ったら、魔法を出したあとの眩暈や身体の重さが全然なくて、正確に壁の奥に押し込めました……!」
「そうだ。お前らは確実に『自分の構造』を扱い始めてる。……だが、課題は山積みだ」
俺は土の上に描いた線の横に、歪な丸と直線を描き足した。
「レオン、お前は身体の軸を通すのに意識を割きすぎて、周りの状況が見えてなかった。ガルド、お前は腕力に頼りすぎて最後は腰が浮いてたな。スープ持つ手が震えるのは職人として失格だ。シルフィ、お前は隙間を見抜く目はいいが、伝えるのが遅い。現場じゃ一瞬の指示の遅れが致命傷になる」
「うぐっ……」とガルドが顔をしかめ、レオンとセシリアも反省したように身を縮める。
「義一さん……『ゆとり』って、何ですか?」
ふと、削りかけの小木を弄っていたレオンが不意に尋ねてきた。
「ん? ゆとり?」
「昨日、兵士の人たちが僕たちを見て言ってたんです。『子供たちにこんな重労働をさせるなんて』とか『あんなに若いのにゆとりのない過酷な戦場に駆り出されて』とか……」
「あぁ、なるほどな」
俺は思わず苦笑し、手元の枝をぽいと投げ捨てた。
「世間一般で言う『ゆとり』ってのはな、甘やかすことじゃねぇ。安全管理の余裕のことだ」
俺は道具袋から一枚のまっさらな鉋の刃を取り出し、ガキどもに見せつけた。
「家を建てる時も同じだ。ぴったり寸分の狂いもなくキツキツに組んだ木組みは、地震……あーこっちでいう地揺れや温度変化の膨張で一発でバキッと割れる。だが、ほんのわずかな『遊び』を持たせて組んだ木は、揺れを逃がして何百年も耐え抜く。……この『遊び』こそが、建築におけるゆとりだ」
ガキどもの目が真剣さを増す。
「お前らがこれまで大人どもから強いられてきた『選ばれし勇者として命を捨てて戦え』ってのは、ゆとりの一切ねぇ手抜き欠陥工事だ。遊びがねぇから、一回失敗したら命ごとバキッと折れちまう。俺がお前らに教えてんのは、血と木屑の匂いがする過酷な現場で、絶対に折れねぇための『心と体と魔法の遊び』なんだよ」
「折れないための……ゆとり……」
レオンが自分の掌をじっと見つめた。血豆が潰れ、木屑と絆創膏で汚れた、まだ小さな手だ。
「よし! 反省会はここまでだ!」
俺はパンパンと手を叩き、訓練場に転がる木材を指差した。
「今日の訓練は、丸太の墨付けと、各自の体格に合わせた『遊び』のある木組みの作成だ! ガルド、お前は腰の重心からやり直し! シルフィは隙間を見つけたら0.1秒で俺に声を張れ! いいな!」
「「「「はいっ、親方(義一さん)!!」」」」
元気な声が訓練場に響き渡る。
過酷な戦場の中で、命を折らさずに生き残るための「ゆとり」を学ぶ——俺たちの泥臭いDIY修行は、ここからさらに本格化していくのだった。




