第5話:現場監督の防衛DIY
「セシリア! 左の岩盤、割れ目の奥に支点を打ち込め! 炎の箱を押し込んで、摩擦で突っ張らせろ!」
「はいっ……! 【剛炎の楔】!」
セシリアが放った火の玉は、これまでのような不発の爆発を起こさなかった。
四角く組み上げられた密度の高い炎のブロックが、崖の割れ目へ正確に滑り込み、高熱で岩肌を微融着させながらガッチリと固定される。
「レオン! 転がってる丸太を三本まとませて組め! さっきセシリアが打った支点と、対角の岩肌に突っ張りとして噛ませるんだ!」
「よし……っ! 身体の軸を通して……一気に押し込む!」
レオンは小柄な身体からは想像もつかない無駄のない身体の使い方で、太い丸太を担ぎ上げた。
道具の重みと自分の重心を一直線上に重ねる——訓練場で叩き込まれた身体の使い方が、パニックに陥る大人たちの中で異様なほどの迅速さを生み出していた。
ガガガガンッ!
丸太が崖の両脇と崩れかけた石壁の根元に、斜めの三角形を描いてガッチリと噛み合わさる。
「な、なんだあの突貫作業は……!? 崩れかけていた石壁が、たった数本の丸太と火魔法の楔で、微動だにしなくなっただと……!?」
狼狽していた王国兵たちが、口を半開けにして目を丸くした。
彼らがやろうとしていたのは、壊れかけた壁の上に無闇に重い土嚢を積み上げるだけの「応急処置という名の危険工事」だった。だが、俺たちが施工したのは、狭い道幅の岩盤そのものを『柱』に見立て、左右の圧力で荷重を分散させる【トラス構造】だ。
「兵隊ども! 呆けてねぇで丸太運べ! 敵が突っ込んできたら、この突き出た梁を叩け! 力の逃げ場をなくした敵の衝撃が、そのまま崖と壁の全体に分散されて弾き返される!」
「は、はいっ! 丸太を運べ!!」
俺の怒号に弾かれたように、王国兵たちが指示に従って動き始める。
もはやここは死を待つだけの戦場ではない。一刻を争う突貫工事の現場だった。
その時——。
ズズズンッ……!
狭い一本道の奥から、地面を揺らす不気味な地鳴りが響いた。
煙の向こうから姿を現したのは、身の丈四メートルを超える巨躯を誇る魔王軍の前衛部隊——鉄の鎧を纏った巨岩オークの群れだった。
「グオオオオオオッ!!」
「敵だ! 巨岩オークが突っ込んでくるぞーっ!!」
凄まじい質量と突進力。並の木柵や突撃防止柵など、紙くずのように粉砕してきた怪物どもが、地響きを立てて突進してくる。
「義一さん……! 来ます!」
レオンが息を呑み、手斧の柄を握りしめた。
「怖がるな、レオン。構造計算は完璧だ」
俺は腕を組み、ニッと不敵に笑った。
「正面から受け止めるんじゃねぇ。向こうから勝手に自滅しに来るんだよ」
ドォン!!!!!
巨岩オークの兜が、レオンたちが突っ張った丸太の交点——一番強度の高い『荷重集中点』に真っ正面から激突した。
直後、静寂を切り裂いたのは、木材の砕ける音ではなかった。
ガギィィィンッ!!
「グゴォッ!?」
突進したオークの巨躯が、まるで鋼鉄の壁に激突したかのように一瞬で停止した。
オークが解き放った凄まじい運動エネルギーは、俺たちが組んだトラス構造を伝わり、左右の頑丈な崖の岩盤へと瞬時に分散・逃がされる。
壁は破れない。木枠も折れない。
行き場を失った膨大な衝撃の過荷重は、そのままオーク自身の首と背骨に一気に跳ね返った。
メキメキッ、と嫌な骨鳴りが響き、巨岩オークは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「な……なんだと……!? 一切の攻撃魔法も使わず、ただ木と火の突っ張りで……あの巨岩オークの突進を完璧に跳ね返しただと……!?」
兵士たちの叫びが響き渡る中、俺はレオンたちの背中をドンと叩いた。
「言っただろ。DIYは、どんな大魔法よりも頑丈だってな」




