第4話:破れた要塞、急ごしらえの現場
「欠陥住宅で自爆するくらいなら、泥臭く頑丈な平屋を建てろ」
俺の言葉に、腰を抜かした筆頭魔導士はぐうの音も出ず地面に突っ伏していた。
セシリアが自分の手のひらの上で揺らめく、完璧に補強された炎の立方体を嬉しそうに眺めている。レオンもまた、手斧で均一に削り落とした木角を確かめるように撫でていた。
欠陥だらけの魔法の仕組みを解き明かし、ガキどもが手応えを掴み始めた——まさにその時だった。
「勇者殿! 大変です、北方の第一要塞が破られました!」
伝令の兵士が血相を変えて訓練場に飛び込んできた。
「魔王軍の前衛部隊が防衛線を突破し、この王都へ続く街道の『抜け道』に迫っております! 撤退してきた防衛部隊が崩れた外壁の補強を試みておりますが、敵の進軍速度が速く、到底間に合いそうにありません!」
「なんだと……!? 持ちこたえると言っていた要塞が、もう落ちたというのか!?」
筆頭魔導士が蒼白になり、ガクガクと膝を震わせる。
先ほどまでの訓練の空気は一瞬で吹き飛び、王都全体を覆う重苦しい絶望感が押し寄せてきた。
「義一さん……僕たち、行かなきゃ……!」
レオンが不揃いに挽かれた角材を握り締め、緊張で唇を噛みながら俺を見上げた。
恐怖で顔は引きつっている。だが、その瞳には先ほどまでの「ただ背負わされていた怯え」ではなく、自分の手で作業を成し遂げた職人特有の腹の括り方が宿っていた。セシリアや他のガキどもも、不安そうに、けれど逃げ出さずに俺の指示を待っている。
「落ち着け、バカ野郎。慌てて現場に飛び込むのが一番のケガの元だ」
俺はゆっくりと立ち上がり、玄能の柄をポンポンと肩に叩つけた。
「状況は分かった。崩れた外壁の突貫工事と、差し迫った敵の足止めだな。おい伝令、その『抜け道』の道幅と地形、周りにある資材を言ってみろ」
「え……ええと!? 道幅は馬車が二台並べる程度の狭い一本道で、両脇は切り立った崖です! 崩れた外壁の瓦礫と、切り出されたまま放置されている丸太が少々……」
「よし、上等だ。条件は揃ってんな」
俺はニッと口角を上げると、レオンたちの頭を順番に小突いた。
「おいガキども、道具箱を持て。お前らの初現場だ」
「へ……初現場……!?」
「あぁ。剣を振り回して敵を討ち取るなんざ、兵隊のバカどもにやらせときゃいい。俺たちがやるのは現場の突貫補強と、敵の動線を殺す構造物のDIYだ。さっき習った『軸』と『構造』、試すにはおあつらえ向きの現場だろ」
「はいっ……! 行きます、大将!」
レオンが力強く頷き、小さな手斧を腰に挿した。
◇
王都へ続く狭い一本道に到着すると、そこは惨状を極めていた。
悲鳴と怒号が飛び交う中、撤退してきた王国兵たちが半壊した石積みの防衛壁にしがみつき、必死に土嚢を積み上げようとしている。だが、焦りから積み方は粗雑で、いつ崩れてもおかしくない二重の危険を生み出していた。
崖の向こうからは、地鳴りのような魔物たちの足音が刻一刻と近づいてくる。
「だめだ、こんな崩れかけの土台に石を重ねたって、一突きで崩落するぞ!」
現場を見渡した俺は、即座に指示を飛ばした。
「兵隊ども、手ぇ止めろ! そこに土嚢を積むんじゃねぇ、余計に荷重がかかって壁ごと潰れるぞ!」
「な、なんだ貴様は! 邪魔をするな、敵はもうそこまで——」
「うるせぇ、現場監督の指示に従え!」
俺の喝に気おされた王国兵たちが動きを止める。俺はレオンとセシリアを前へ呼び寄せた。
「レオン、あそこに転がってる丸太の径(太さ)を測れ。セシリアは崖の岩盤の傾斜と、魔力の『支点』を探せ。手抜き工事の壁を補強するんじゃない、この狭い道全体をひとつの『頑丈な突っ張り棚』にするぞ!」
「「はいっ!!」」
パニックに陥る大人たちを余所に、ガキどもは迷いのない動きで現場へと駆け出した。
命懸けの戦場が、俺たちの手で「生き残るためのDIY現場」へと塗り替えられていく——。




