第3話:魔法は欠陥住宅のごとく
「おいおい……なんだこの欠陥構造は。よくこれで倒壊せずに立ってられるな」
「け、欠陥……!? 我が王室に代々伝わる至高の攻撃術式『爆炎の槍』を捕まえて欠陥とは何事ですか、勇者殿!」
訓練場に、筆頭魔導士の甲高い悲鳴が響き渡った。
木挽きと面取りの基本作業を終え、汗を拭うレオンたちの前で、魔導士が「お手本」として放った火炎魔法。空中で槍の形を成した炎は、確かに勢いよく的に着弾し、激しい炎を巻き上げて爆発した。
少年兵たちが「おお……っ」と歓声をあげる中、俺だけが腕を組んで心底呆れたように溜め息を吐いていた。
「歓声あげてる場合じゃねぇぞガキども。あんなもん、ハリボテの欠陥住宅だ」
「なっ……! どこが欠陥だと言うのです! 威力も速度も申し分ないはず!」
「威力がどうこう以前の問題だ。おい魔導士、お前、さっきの魔法を撃ったあと、右膝がガクガク震えて左腰に手ぇ当ててたろ」
「うぐっ……! それは……高位魔法の行使による『魔力反動』というもので……」
「違うね。単なる構造欠陥による負荷の偏りだ」
俺は地面に転がっていた角材を拾い上げ、木炭で表面に簡易的な図面を描き始めた。
「いいか。お前の『術式』ってやつは、空中に炎の資材を組み上げて柱を作ってるようなもんだ。だが、お前は先端の『槍の穂先』ばかりに魔力を盛りすぎて、それを支える『柄(柱)』の補強を完全に怠ってる。根元が細くて頭が重い……要するに、頭重脚軽のバカでかい屋根を、割り箸一本で支えてる状態だ」
俺が図面の根元を指で突くと、描かれた建物が崩れる動作を身振りで示してみせる。
「だから放った瞬間に空間の柱が軋み、その過荷重のしわ寄せが全部、お前自身の身体(土台)に跳ね返ってきてんだよ。魔力反動じゃねぇ、自分で建てた欠陥住宅の崩落に巻き込まれてるだけだ」
「ば、崩落……! 術式の反動ではなく……身内の構造欠陥……!?」
魔導士の顔からスーッと血の気が引いていく。
長年「高等技術」として信じ奉ってきた魔法の真実を、ただの大工の言葉で解剖された衝撃に打ちのめされているようだ。
「レオン、セシリア。さっき挽いた角材の感触を思い出せ」
俺は二人に声をかけた。
「自分の中に一本の芯を通し、どこに荷重がかかるかを意識しろ。魔力も同じだ。空中に魔力を練る時は、まず中心に『通し柱』を立てろ。そこに無駄のない『梁』を渡して、構造を固定する。……セシリア、お前さっき小さな火の玉出そうとして不発になってただろ」
「う、うん……。熱くなるだけで、すぐに消えちゃって……」
「魔力が足りねぇんじゃない。壁(炎)を作る前に、柱(骨組み)を立ててねぇから四方八方に魔力が逃げ出して崩れてんだ。いいか、手のひらの上に四角い『箱』を組むイメージを持て。外枠をしっかり固めてから、中に資材(炎)を満たすんだ」
「四角い……箱……?」
セシリアは小さく首を傾げながらも、真剣な眼差しで自分の手のひらを見つめた。
先ほど鋸を引いた時の、あの「身体の軸」を意識する感覚。無駄な力を抜き、手元から背中、地面へと繋がる骨格のラインを整える。
「柱を立てて……梁を渡して……箱を、組む……!」
セシリアの掌の上に、小さな幾何学模様の光が揺らめいた。
次の瞬間——。
ボッ!
小拳ほどの密度の高い火の玉が、揺らぐことなく、寸分の狂いもなくくっきりと実体化した。
これまでボワボワと不発の煙を散らしていたのが嘘のように、完璧に構造化された炎の結晶。
「できた……! 炎が、崩れない……! 全然疲れないよ、おっちゃん!」
「おう、上出来だ。補強の入った綺麗な立方体になってる。これなら余計な魔力漏れもねぇから、反動で身体を壊すこともねぇ」
「そんな……!? 魔法の適性を得てわずか数日の少女が、詠唱も触媒もなしに、これほど安定した術式を瞬時に構成しただと……!?」
筆頭魔導士は腰を抜かし、地面にへたり込んだ。
「魔法は奇跡じゃねぇ。ただの空間建築だ」
俺は鼻で笑うと、玄能を肩に担ぎ直した。
「欠陥住宅で自爆するくらいなら、泥臭く頑丈な平屋を建てろ。それが、生き残るための第一歩だ」




