第15話:束の間の平穏と、成長した弟子たち
内通者だった子爵が即座に処刑され、地下の欠陥箇所も完璧に補強されてから数日。王都の訓練場には、不気味なほどの静けさが広がっていた。
「親方、魔王軍の奴ら……あれから全く攻めてこねぇな」
ガルドが首をかしげながら、削りかけの角材をトントンと地面に叩きつける。
「あぁ。これまでは一本道の防衛線をどれだけ弾き返しても、すぐに次の援軍が押し寄せてきてた。それがピタリと撤退して追撃もねぇってことは……向こうも限界なんだよ」
俺は鋸の目立てをしながら、遠くの空を見つめた。
突っ張り棚による防衛戦で前衛部隊を壊滅させられ、内部からの破壊工作も失敗に終わった。魔王軍もまた、これまでの総力戦で全戦力を使い果たし、激しく疲弊している。今すぐに攻め込んでくる余力は敵にもないはずだ。
「つまり……俺たちに『時間的な猶予』ができたってわけだ」
「時間的な猶予……?」
レオンが目を見開く。
「そうだ。これまでは倒壊寸前の現場を回す突貫工事ばかりだったが、ここからはじっくり『基礎から家を建てる』時間が取れる。ガキども、覚悟しておけよ。ここからが本当の『修行』だ」
それからの日々、俺たちの訓練はこれまでの応急処置から、根底からの肉体・魔力・知識の鍛錬へとシフトした。
自分の軸を完璧に制御する身体操作。
魔法の出力を無駄なく構造化する「剛性・耐久・補強」の建築魔法術。
そして、手斧一振りに魔力を乗せて敵の構造を一瞬で解体する「構造解析」の極致。
一日、一か月、一年——。
血と木屑の匂いが漂う訓練場で、子供たちは休みなく手斧を振り、木を削り、己の土台を太くし続けた。
気づけば、歳月は「五年」の時を刻んでいた。
背が伸び、肩幅が広がり、精悍な顔つきとなったレオン。
神聖な魔力を構造化させ、眩いばかりの補強魔法を操るセシリア。
大人をも軽々と見下ろすほどの巨躯となり、圧倒的な防衛力を誇る肉体を完成させたガルド。
そして、気配を完全に断ち、空間の「隙間」を自在に行き来する職人となったシルフィ。
「よし……準備は完璧に完了した」
俺は成長した四人の顔を順番に見渡し、満足げに頷いた。
「五年かけて組み上げたお前らの土台は、もう何物にも折れねぇ。……さあ、ガキども。今度はこちらから魔王軍の『手抜き本陣』を解体しにいくぞ!」
「「「「はいっ、親方!!」」」」
かつて死の恐怖に震えていた子どもたちはもういない。
五年の歳月を経て完成した「最高の勇者」達が、魔王軍への反撃に向けて力強く立ち上がった。




