第12話:突貫改修の裏側
「よし、本日の作業終了! 全員、撤収道具の点検と安全確認!」
「「はいっ!!」」
西側外郭城壁の施工を終えた現場に、元気な返事が響き渡った。
ベテランの石工たちが「本当に一日でこの欠陥城壁が直っちまった……」と放心状態で立ち尽くす中、俺たちは手際よく手斧や鋸の木屑を払い、道具箱へと納めていく。
「ふぅ……! 義一さん、あの崩れかけてた目地、綺麗に荷重が散ってビクともしなくなりましたね!」
血豆だらけの手をさすりながら、レオンが満足そうに汗を拭った。
「おう。だがなレオン、改修工事で一番重要なのは『目に見えねぇ裏側の手入れ』だ。どれだけ表の石を頑丈に整えても、中に溜まった水や熱の逃げ場を忘れたら、内側から腐って一発で弾け飛ぶ」
「水と熱の逃げ場……『水抜き穴』ですね!」
「その通りだ、セシリア。構造物の破綻はな、いつだって外側じゃなく『目に見えねぇ内側の圧力』から始まるんだよ」
俺たちが現場の道具を片付け、宿舎代わりの天幕へ戻ろうとしたその時——。
「……義一さん」
気配もなく影からぬっと姿を現したのは、フードを深くかぶったシルフィだった。
普段なら無口な少女の尖った耳が、ピンと緊張で跳ね上がっている。
「どうした、シルフィ。何か置き忘れたか?」
「……違う。城壁の裏側、王都の内部に……変な『隙間』がある」
「変な隙間?」
シルフィはフードの隙間から細い指を出し、王都の貴族街へと続く古い排水路の暗がりを指し示した。
「私、さっき現場の構造解析をしてる時、あっちの古い石組みの目地に違和感があった。表の防衛線だけじゃなくて……城壁の『内側の抜け道』を、誰かが意図的に削って広げてる」
「なに……!?」
ガルドがスープの残りを飲み干し、巨躯を揺らして身を乗り出した。
「誰かって……王都の中に、魔王軍とつながってる奴がいるってことか!?」
「あぁ。あるいは……この手抜き城壁を放置して、俺たちや領民を戦死させようとしてた『腐った現場責任者』の仕業だな」
俺は道具袋のノミの柄をコンコンと叩きながら、冷ややかな視線を暗がりへ向けた。
表の城壁をどれだけ突貫で補強しようと、内側に『シロアリ』が潜んでいちゃあ家は建たねぇ。
構造の欠陥を突いて王都を内側から崩そうとする不穏な動きが、シルフィの鋭い観察眼によって暴かれようとしていた。
「どうする、親方……? 叩き潰すか?」
ガルドが手斧の柄を握り締め、獰猛な笑みを浮かべる。
「焦るな。欠陥構造は見つけたら即座に補強するか、根元から叩き壊すのが現場の鉄則だ」
俺はガキどもを見回し、ニッと口角を上げた。
「表の工事の次は、裏のシロアリ退治といこうじゃねぇか」




