第11章Bound by Blood【外鍵】
「流石です、星様。もう自らの意思で胎を使ってあらゆる場所をみていらっしゃる」
「っ!? うるさい! 今はそんなこと言っている場合じゃないだろ!」
目閉じなくてもわかる、外からかけられたはずの鍵なのに、鍵をかけたヤツがこちらに向かってゆっくりゆっくりと歩いてくる。
「はは、星様。どうして危険だと?」
「あきらかにおかしいだろう!? このおっさんもあの薬にやられてる! 違うか?」
「お見事。あぁ、本当にどんどん青龍として成長なさっている……」
確かに危険だとなぜわかるのだろう。でも、足がどんどん近づいてくるたびに冷や汗がツーと背中を伝い、腕をみると青黒く光る鱗が、鳥肌がたったように逆立っている。
怖い。怖いのだ。
近づいてくる得体のしれない脅威から逃れられない。だって逃げたって行き詰まってしまったら? この地下街にいる人たちは? 涎垂らしてパキっているおっさんはどうなるんだ。
「大丈夫、そばにおります」
露木がおっさんのそばから離れ俺に近づけば、ふうと耳元で優しく囁いた。
なんでこいつはこんな冷静でいられるんだよ。
「きっと……これから亞の大掃除になるでしょう。大丈夫です、星様ならきっと納められます」
やけに落ち着いている露木にいら立つのに、その湿った声を鼓膜に感じれば一瞬だが緊張した身体がほぐれた気がした。
あぁ。本当に腹立たしいやつだ。
一瞬。張りつめていた俺の緊張がほぐれた一瞬。
背骨から首に冷たい氷柱でなぞられたような冷気を感じた。
「うわぁぁぁっ」
メリメリメリメリッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
冷たい刺激に反応したのか俺の皮膚からは青黒い物体があふれ出し、首から背中いっぱいに鱗が広がったのがわかった。
「一名や。ここ喫茶店やろ? コーヒーくれる?」
反射的に振り向くと、呑気なセリフを吐いた人物が俺に向かって微笑みかけている。
顔の半分は包帯で覆われ、ニヤニヤと口角をあげた口からは二つに割れた舌が覗いている。見せつけているのか舌を蛇の様にニュルニュルと妖艶に動かしている。
こ、こいつは……
「菫様……」
露木は弱々しく名前を呟けば、眉をひそめ明らかな嫌悪感を顔面いっぱいに広げて名主を睨みつけた。
「あーん、雷くん! 何年振り!? 天が死んでからやから~17年くらい? ははっ、そんなにたってへんやん。そんなビビらんといて~」
「17年……天様がいなくなったこの日本で、京で貴方は何をしていましたか」
俺の前に露木が移動すると、俺をわざとらしく隠すようにその男と話し始めた。
「ちょっ! あんた! さっきのマルさんじゃん!!」
そう、この不気味にニヤつく男と俺はさっきまで新喜劇を一緒に見て、たこ焼き食べて飲みに行って。楽しい大阪DAYを共にした仲なのだ。
「そやで~だから隠さんといてや~雷くん?」
露木に近づいて、箱の中身を覗くように俺を見れば首をコテンとかしげ可愛らしく微笑んだ。いや,不気味ではあるが。
「マルさん。神庁関係者とは話してたけど……俺のこの姿を見てもおどろかないわけ?」
喫茶店店内にいるお客、店員は俺らを見て震えあがりおびえる人もいれば、スマートフォンで写真を撮ったり、警察へ電話をかけている人もいる。
「あはっ! そりゃそーーーや! だってなー?」
「菫様! こんな無礼許されませんよ!」
露木が圧をかけて、菫と呼ぶ人物の口を塞ごうとするが菫は全く口を閉じようとする気配はない。
「俺も神様やけん」




