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第10章 Two Sides of the Same Coin【戸締り】

長い巣穴に響き渡った甲高い女性の声の元を探すと、ガラス張りのショーケースにレトロな食品サンプルが並ぶ喫茶店が見えた。


露木と俺は目を合わせると、喫茶店の中に迷わず駆け込む。


きっと俺の尻からは巨大な尻尾が出ているのであろう。違和感は無くなっていたが、ズボンが破けると同時に、地面に尻尾が着いたのがわかった。


「……お客様……お客様……おやめ下さい……」


ガタガタと歯を鳴らし、全身を震わせながら、中年の女性店員が後ずさりをしている。


「大丈夫ですか!?」


震える女性店員がよろける。俺は咄嗟に手を出し、後ろに倒れてきた女性の肩を抱き、ぐっと身を乗り出して顔を覗き込んだ。


「ぎゃああああああ!! 化け物ぉぉお!!!!」


女は俺の顔に唾を飛ばしながら、目玉が飛び出しそうなくらい目を見開いて、さらにガタガタと震えた。


「……失敬な方ですねぇ。星様? 化け物ではなく神様ですよ」


露木は不服そうな笑みを浮かべ、パッと女性を俺から奪う。

不服そうな笑みだが、声は笑っていない。


俺も自分の龍の姿は化け物だと思っているから、別にいいのに。

店内を見渡すと、座ってはいるが、恐らく腰を抜かしたのであろう老人。


その隣の席に座る痩せた男性が、テーブルクロスを掴みながら唸っている。


体が透けそうなほど着古された、キャラクターが印刷されたTシャツ。男が痩せているにしても、明らかにサイズが合っていないように見える。


艶のない白髪混じりの髪の毛は伸びきっており、長い前髪からは、光のない大きな二重まぶたの瞳がチラついていた。


体全体の印象と同じく、テーブルを掴む手は酷く痩せ細っており、血管が浮き上がり、骨は皮膚を突き破りそうだ。


「……でしょうか」


露木は、店員をひょいと抱き上げ椅子に座らせると、「ちょっと待っていてくださいね」と宥め、ゆっくりと痩せた男に近づいた。


「亞って。あのお茶会で見た薬か?」


俺も露木に続こうとしたが、露木の長い手が伸び、その場に留まれと指示された。


「……水をくれぇ……水を……」

痩せた男は、空になったグラスを震える手で持ち上げ、水を求めて露木に唸った。


声を発するために開けた口からは、唾液が垂れ流しになっている。


「……かしこまりました」


露木は痩せた男にも優しく微笑むと、コップを受け取り、水の入ったポットから並々と注いで男に渡した。



ゴッ、ゴッ、ゴッ。



痩せた男は、水を口に含んだ瞬間に喉を開き、求めていた水分を直接体内に放り込んだ。


露木は何も言わず、空になったコップにまた水を注ぐ。まるで痩せた男に仕える執事のように。


「星様、被害は京都を抜けて大阪まで来ています」


「……亞の被害を食い止めろと?」


「はい、もちろん」


「無理だ。俺は……何も出来ない」


「何も?」


「……何もだ」


「謙遜なさらず」


「謙遜なんてしてない! ただ、俺は今日漫才を観て観光して、友達と遊んでただけだろ!」


「……友達」


やばい。話したくなかったのに。

こいつの挑発にまんまと乗ってしまった。


「そのお友達が……この地下街に私たちを放り込んだとしたら?」


「……」


「わざわざ、亞の依存者がいる地下街に」


露木は相変わらずニコニコと微笑んで、テーブルに置かれていた紙ナプキンで痩せた男の涎を拭ってやっていた。


瞬きをしようと瞼を動かすと、やけにゆっくりと視界が遮られ、真っ暗になった。


ただ目を閉じただけの暗闇の世界で、俺が辿ってきた道が逆走するようにフラッシュバックし、降りてきた地下街の入り口が見えた。




ガチャリ。




静かに音が響き渡ると、地下街の入り口が取り入れていたわずかな光が消え、また真っ暗になった。

目を開くと、俺は露木に向かって叫んだ。


「鍵をかけられた!!!!」


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