589話 クウ
しばらくキツネの世話をすることになり……
当然というか、その役目にはニーナが立候補した。
「んぅ」
ほくほくと気持ちよさそうな顔をしたニーナが、キツネを胸に抱いてリビングに姿を見せた。
一緒に風呂に入っていたようだけど、この様子から見ると、うまくキツネを洗うことができたのだろう。
普通、野生の動物は風呂を嫌うはずなんだけど……
助けてくれたニーナに心を許しているらしく、キツネはおとなしいものだ。
むしろ風呂を満喫したらしく、どことなく満足そうな顔をしている。
「ニーナ、まだ髪が濡れとるでー」
「ふぁ?」
「ほれ、こっちや。ウチが乾かしたる」
「おね、がい」
ニーナがソファーに座り、その後ろにティナが回り込む。
櫛とタオルを丁寧に操り、ニーナの髪の手入れをする。
その一方で、ニーナは膝の上にキツネを移して、指先でそっとブラッシングをする。
それが心地いいらしく、キツネはとろけるような顔をしていた。
「いいコンビだな」
「コンビというよりは、トリオかも?」
俺とカナデは、微笑ましい顔をしてニーナ達を見守る。
「ほい、これでええでー」
「あり、がと」
「コンッ!」
「うん。あなた、も……綺麗になった」
ありがとうとお礼を言うかのように、キツネはニーナの頬をペロペロと舐めた。
それから顔をこすりつける。
出会って一日も経っていないのだけど、すっかり懐かれたみたいだ。
動物は心に敏感と聞くし……
ニーナの優しさを感じ取り、この人なら、と心を許したのだろう。
「ねえ、ニーナ」
「なに、タニア……?」
「この子に名前をつけないの? あなたとかキミとか、いつまでもそんなんじゃ微妙じゃない?」
「……名前……」
ニーナがとても真剣な顔になる。
たぶん、あれこれと名前を考えているのだろう。
「コンちゃん、なんてどうかな?」
「カナデはネーミングセンスがないのだ。さすが、セゼロ猫なのだ」
「なんですか、ルナ。その、セゼロというのは?」
「センスゼロ」
「やっぱりひどいこと言われてた!?」
俺は、コンは悪くないと思うが……
まあ、安直といえば安直か。
「オンッ、オンオン!」
「サクラはなんて言っているのかしら?」
「え、えと……アレキサンダーはどうかな? です!」
「雄々しい名前だね。ボクはアリかな」
「悪くはないけど……そういえば、その子はオスなの? それともメス?」
「えっと……メスやな」
「なら、アレキサンダーはなしね。男っぽいもの」
「クゥーン……」
タニアにダメ出しされてしまい、サクラが悲しそうに鳴いた。
そんなサクラを、フィーニアがよしよしと慰める。
「キツネン、なんていかがでしょう?」
「「「……」」」
「な、なんですの、みなさんのその顔は……?」
「……イリス……」
「……今は黙っているのだ……」
「腫れ物に触るような扱い、納得いきませんわ!」
ソラとルナにぽんぽんと肩を叩かれて、イリスはとても悔しそうに叫んだ。
「というか、ニーナが名付けるべきじゃないかな? この子も、ニーナに一番なついているんだし」
「せやな。ニーナ、どんな名前がええ?」
「……ん……」
じっとキツネを見つつ、ニーナは真剣に考える。
考えて考えて考えて……
やがて、小さな口を開く。
「……クウ……」
「にゃ、クウ?」
「うん。この子は……クウ、がいいな」
「クウ……うん、いいんじゃないかな? 私は賛成だよ。みんなは?」
「「「異議なし!」」」
満場一致でニーナの案が採用された。
その名前が良いと言うかのように、キツネもコンと鳴く。
「今日から……クウ、だよ」
「クゥ!」
ニーナが笑い、キツネ……クウは甘えるように体をこすりつける。
微笑ましい光景だ。
ただ、名前までつけてしまうと、別れが訪れた時に一層寂しく辛くなってしまうのだけど……
いや。
今はそんなことは考えなくていいか。
「よし、よし」
「コンッ!」
楽しそうにうれしそうにじゃれあうニーナとクウを見ていたら、今だけは、と思う。
どうか、幸せな結末が訪れますように……
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