588話 保護
その夜。
キツネを連れて猫霊族の里へ戻り、本格的な身体検査を行う。
足の怪我は魔法で治療したものの、もしかしたら雑菌が混じっているかもしれない。
念の為、フィーニアに徹底的に治療してもらった。
それから、妙な病気に感染していないか。
あるいは、キツネ自身が妙な病気を持っていないか。
それらをチェックして、問題ないことが判明。
一時間ほどかけて検査を行い、ニーナのところにキツネを返した。
「クゥ……」
あれこれと検査されて、キツネはちょっと疲れている様子だった。
ただ、ニーナの顔を見ると元気になって、尻尾を大きく振る。
同じキツネ耳同士、仲間と思っているのだろうか?
「この子……だい、じょうぶ?」
「ああ、問題ないよ。念の為、フィーニアに治療してもらったし、変な病気も持っていないらしい。今はちょっと疲れているだけで、ごはんを食べてゆっくり寝れば、完全回復するってさ」
「よかった……」
「コンッ!」
腹が減った、というような感じでキツネが鳴いた。
あらかじめ用意していたらしく、ニーナは肉が乗せられた皿を差し出す。
「たべる?」
「キュウ!」
キツネはうれしそうに肉にかじりついた。
その様子を見て、ニーナは機嫌良さそうに尻尾をフリフリする。
「いっぱい食べて、ね?」
「ハグハグハグ!」
夢中でごはんを食べるキツネを、ニーナは優しい顔をして撫でていた。
普通、ああいうことをされると食事を邪魔されたと思い、怒るのだけど……
キツネにそんな様子はない。
されるがまま、ニーナに撫でられていて……
むしろ、心地よさそうにしている。
やっぱり相性が良いのかな?
「……レインさん」
ふと、ノキアさんに呼ばれた。
小声なところを見ると、ニーナに聞かれたくないのだろう。
「あのキツネのこと、どう思いますか?」
「体調的な意味じゃなくて、これから……っていうことですよね?」
「はい」
「そうですね……たぶん、あの子は親とはぐれたんじゃないかと」
足の怪我は、他の獣にやられたのだろう。
それと、小さなささくれ傷が体の至るところにあった。
獣に襲われて親とはぐれて……
必死になってあちらこちらを逃げ回っていた、という感じだろう。
「うまいこと、親のところに戻せたら、って思うんですけど」
「そのことなんですが……ニーナが、あの子キツネを飼いたいと言い出して」
「あー……なるほど」
ノキアさんが困り顔をしていた理由を知り、俺は苦笑した。
あのキツネはかわいい。
それに、神族からしたら家族のようなものだ。
放っておくことはできないし、そのまま一緒にいたいと思うだろう。
「生き物を飼うのはとても大変ですし、それに、子キツネと一緒にいられるとは限らないですし……私としては、ニーナに諦めてほしいのです。レインさんも、そう言ってもらえないでしょうか?」
「そうしたいのはやまやまなんですけど……」
ノキアさんの言うことはとても正しい。
中途半端な気持ちで生き物を飼うことは許されない。
それに、キツネが親と再会する可能性もあるし……
色々なことを考えると、ニーナがキツネを飼うのは好ましくない。
好ましくないのだけど……
「おい、しい?」
「コンッ!」
あそこまで仲良さそうにしているのを見ると、ダメなんて言いづらい。
ノキアさんも同じ考えらしく、だからこそ困っているのだろう。
「……ひとまず、様子を見ましょう」
「様子を?」
「どちらにしても、あのキツネの保護は必須です。今の状態で外に戻したらどうなるか」
「そうですね、あまり良くない結果になるでしょう」
「しばらく保護をして様子を見て……そして、飼う必要があるのなら、その時はきちんと面倒をみましょう。でも、もしも親が見つかるなどしたら……」
「……ニーナが泣いたとしても、親元に帰さなければいけませんね」
その時の光景を想像すると、とても胸が痛くなる。
ニーナも辛く悲しい思いをするだろう。
でも、ニーナはいい子だ。
そして賢い。
辛い別れを経験するかもしれないが……
でも、最後はきちんと理解してくれると思う。
そう信じている。
「ありがとうございます、少し気が楽になりました。やはり、レインさんに相談して正解でしたね」
「いえ。ノキアさんは、すでに先のことを決めていましたよね? 俺はただ、ちょっと背中を押しただけですから」
「その背中を押してもらうことが大事なのですよ」
ノキアさんは優しく微笑み、
「え?」
なぜか、俺の頭を撫でてきた。
ふわりと、そっと触れられる。
その手はとても優しく、温かい。
ノキアさんの心の温度が伝わってくるかのようだ。
ついつい浸ってしまいそうになるが、このままというわけにはいかない。
「えっと……ノキアさん?」
「……あっ。す、すいません。なんだかレインさんが息子のように思えて、つい」
「いえ、気にしないでください」
イヤというわけじゃない。
むしろ、心地よかった。
それと……
少しだけ、母さんのことを思い出した。
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