590話 伸び悩み
クウが新しい家族になり、一週間が経過した。
そして、稽古も大詰めを迎えようとしていた。
「……」
覚醒状態のスズさんと対峙する。
こうして何度も何度も戦っているのだけど、未だに慣れない。
彼女の放つプレッシャーは相当なもので、しっかりと気を引き締めていなければ、そのまま飲み込まれてしまいそうだ。
「ふっ!」
先手必勝。
地面を蹴り、距離をゼロにする。
スズさんの腹部に拳を押し当てて……
力を込めて、一気に振り抜く。
「甘いですね」
「くっ」
しかし、すでにスズさんはいない。
残像だ。
慌てて振り返るものの、それは悪手だった。
スズさんは後ろではなくて、横に回り込んでいた。
超高速の蹴撃が飛来する。
ガードは……間に合わない!
なら、ダメージを少しでも減らすため、インパクトの瞬間、自ら後ろへ跳んだ。
それでも衝撃を完全に押し殺すことはできない。
「ぐあ!?」
一瞬、意識が飛ぶ。
視界が上下左右、めちゃくちゃに揺れ動いて……
ややあって、ドスンッという衝撃が全身に走る。
近くの木の幹に激突したらしい。
立ち上がる力は残されておらず、そのまま倒れてしまう俺。
そして……
「コンッ!」
「オンッ!」
クウとサクラのコンビがやってきて、大丈夫? というような感じで、ペロペロと頬を舐めてきた。
「あー……うん、ありがとう。俺は大丈夫だよ」
スズさんも手加減をしてくれているので、骨が折れるとか、そういうことはない。
かすり傷や打撲は当たり前のようにあるのだけど、それもフィーニアと契約したことで得た力で、時間をかければ治癒する。
「まだまだですね」
覚醒を解除したスズさんが、こちらに手を差し出した。
その手を借りて立ち上がる。
「参りました……」
「少しは動きが良くなっています。でも、判断ミスが多いのはマイナス点。あと、反応も遅いです。それと、いざという時の攻撃力も足りないですね」
「うぐ」
容赦ない酷評に、さすがに凹んでしまう。
とはいえ、スズさんの酷評も仕方ない。
猫霊族の里にやってきて、そろそろ二週間が経とうとしていた。
海で遊んだ日を除いて、毎日稽古をしているものの……
未だ、これといった大きな成果を得ることができない。
「今日はここまでにしましょうか」
「レイン、おつかれさま」
「はい、冷たいドリンクよ」
カナデがタオルを、タニアがドリンクをそれぞれ差し出してくれる。
「ありがとう」
「それにしてもレイン、タフだよねー。本気のお母さんを相手に、毎日、稽古をするなんて。私もちょくちょく稽古をつけてもらっているけど、さすがに毎日は無理だよー」
「俺が望んだことだからな。泣き言なんて言ってられないさ」
「カナデの調子はどうなの? 自由に覚醒できるよう、稽古をつけてもらっているんでしょ?」
「んにゃー……微妙? 覚醒の感覚がわかるようなわからないような、にゃかにゃかうまくいかないよ」
「あたしも。せっかくだから母さんに覚醒の方法を教えてもらっているんだけど、ダメね。ぜんぜんうまくいかないわ」
俺だけじゃなくて、みんなも伸び悩んでいるらしい。
まいったな。
大きく強くなりたいのだけど、でも、壁を破れずにいる。
焦っても仕方のないことなんだけど……
でも、焦ってしまう。
「レイン?」
「……俺、ちょっと散歩してくるよ」
「なら、私も一緒に……」
「やめなさい、この空気読めないダメダメダメ猫」
「三回もダメって言われた!?」
カナデとタニアの優しさはうれしいのだけど、今は一人になりたい気分だ。
猫霊族の里を散歩する。
「おーい、誰か狩りに付き合ってくれないか?」
「私でよければ」
「俺もいくぜ」
あちらこちらに猫霊族がいて、それぞれの暮らしを営んでいる。
希少な種族なのに、こんなにもたくさん。
学者などがこの場にいたら、歓喜するかもしれない。
この二週間の滞在で、それなりに顔見知りも増えた。
途中、里の人達と挨拶を交わしつつ、森の奥へ。
「ここは良い場所だな」
空気が澄んでいる。
それに自然もたっぷりで、色々なところに動物の姿が。
生命力にあふれた森というか、活気に満ちているというか。
これは猫霊族の影響なのかな?
「ふう」
こんな場所にいれば落ち着くかと思ったのだけど、そうでもない。
壁を破ることができない焦りは消えず、胸がモヤモヤしてしまう。
なにかが足りないのだろう。
でも、そのなにかがわからない。
「どうしたものかな……うん?」
ふと、奥の方から水音が聞こえてきた。
この先は……確か、湖があるはずだ。
気になり、足を運んでみる。
「おぉ」
木々が開けて、わりと大きな湖が現れた。
水は透明で、湖底が見えるほどだ。
色々な魚達が元気よく泳いでいる。
「ふんふーん」
ふと、湖畔で椅子に座り釣りをしている猫霊族の男性を見つけた。
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