1181話 ごめんじゃなくて
二人並んで静かに星空を見て。
ゆっくりとした時間が流れて。
「……ごめんなさい」
しばらくして、タニアがぽつりと言う。
その言葉の意味がわからなくて、俺は首を傾げた。
「えっと……なんのことだ?」
「今回のこと……レインに。ううん、みんなにも色々と迷惑をかけちゃった」
タニアは落ち込んでいる様子だ。
しょんぼりと肩を落としている。
迷惑になんて思っていない。
俺はもちろん、みんなだってそうだ。
タニアがトラブルに巻き込まれたのなら、すぐに駆けつける。
なにがなんでも解決してみせる。
そんな気持ち。
ただ、そのことはタニアもわかっているはず。
みんなの優しさをきちんと理解しているはず。
でも、理解するのと納得するのは別の話。
わかっていても、でも、割り切れない時はある。
納得できないところは出てきてしまう。
人の心って、そういうものだ。
だから俺は……
「違う言葉がほしいな」
「え?」
「ごめん、って言っちゃうのも仕方ないと思うし、それは止めないよ。ただ、それだけじゃなくて、もう一つ、別の言葉も欲しいかな」
「……レイン……」
「たぶん、みんなもそれを望んでいるよ。いや。たぶんじゃなくて、絶対、だな」
「……ふふ、そうね」
タニアが小さく笑う。
その笑顔は夜空に輝く星のよう。
とても綺麗で、可愛らしくて。
小さくなってもタニアはタニアなんだな、って思う。
「ついでに言うと……」
「うん?」
「今のタニアを見ていると、なんかこう……俺も恥ずかしくなってくるな」
「え、どういうこと?」
「あー……」
これ、話すべきか?
まあ、ここまで引っ張っておいてやっぱりなし、というのはどうかと思うけど。
口にするのはなかなかの覚悟がいる。
「……昔の俺を思い出すな、っていう感じで」
「昔のレイン? ……あぁ」
納得、という感じでタニアが頷いた。
そして、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「昔のレインってば、けっこう酷かったわよね。なんでもかんでも一人で背負い込もうとして」
「う……」
「なんてこない、っていう顔をしてけっこう大変な目に遭っていて。あたし達、何度心配したことか」
「いや、それは……」
「酷い男よね?」
「ごめんなさい……」
タニアを励ますつもりが俺が謝る展開に。
どうしてこうなった?
「って、ごめんなさい。レインをからかいたかったわけじゃないの。あたしのこと励ましてくれたのに意地悪をしちゃって、ごめんね」
「……」
「なに、その顔?」
「いや、まあ……タニアが素直に謝るのも珍しいなあ、って」
「そんなことないでしょ。あたしだって……珍しいかもしれないわね」
タニアは謝罪ができないわけじゃなくて。
ちゃんとした時はしっかりと頭を下げる。
ただ、こういうなんてことないじゃれ合いの時は、とことん意地を張るというか……
そうだよな。
俺もタニアも、みんな変わっているんだよな。
成長を感じて。
それが嬉しいし、ちょっと寂しくも感じた。
妙な親的な感情が混じっているのかもしれない。
「ふふ」
「ははっ」
なんだかおかしくなって、俺とタニアは小さく笑う。
優しい月明かりの下。
俺とタニアの間に穏やかな時間が流れた。




