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第10話






 次の日。

 俺達は、家からそれほど離れていない、駅に近い5階建ての大き目なオフィスビルにやってきた。

 独立したのにいつまでも拠点が無いのはおかしい。

 という訳で、俺がこっそり準備しておいた。

 そして今日お披露目ということで、美結は俺の腕にしがみ付きながら鼻歌を歌ってご機嫌である。

 橋本マネージャーもどんな場所なのかと興味津々だ。

 思ったよりも立派で綺麗な外観に思わず橋本マネージャーはビルを見上げて固まる。


「……ここの何階ですか?」


 恐らくこのビルの何階のフロアを借りたのかを聞きたいのだろう。

 橋本マネージャーがそう聞いてきたので、淡々と答えた。


「ビル丸ごと」


「なるほど、ビル丸ごとですか……えっ!?丸ごとっ!?」


 綺麗な漫才をしているかのような反応に思わず笑ってしまう。

 先ほどまで鼻歌を歌っていた妻までポカーンとした表情でビルを見上げる。


 最初は1フロアだけの環境でも良いかとも思ったが、ビルのオーナーが老朽化を理由に冗談っぽい口調ながらも丸ごと買取でも良いと言ってきた。

 なので値段交渉の末に買い取って全体的な改修をする予定だったが、色々条件を提示しているうちに改築工事になってしまった。

 その方が使い勝手も良いし便利でもある。

 だからこそ独立後もしばらく拠点が無く自宅が拠点扱いになっていた訳で。

 まあ昔、独身時代にチートスキルで稼ぎまくった金があるのでこの程度の出費は問題ない。


「さて、入ろうか」


 俺がそう促すと2人は、俺の後ろについて中へと入っていった。


 まず1階。

 受付と応接室や会議室等が中心の清潔感のある広々とした場所だ。

 思ったよりも広い応接室や会議室に2人は口を開けて『おー』という気の抜けた返事をしている。


 次が2階。

 事務所が入る場所であり、ここがメインとなる。

 既にいくつか机や椅子にパソコンが置いてある。

 給湯室もあってちょっとしたものならここで作ったりお茶を入れたり色々出来る。

 現在人材募集中なので、良い人がそれなりに来てくれると嬉しい。


 その次が3階。

 レコーディングスタジオ3つとダンススタジオが2つに編集専用室が1つあるエリアだ。

 ここは特に防音にお金をかけた場所であり、上下階どころか隣のスタジオにも一切音が聞こえない。

 本格的で大き目のスタジオに、特に美結がテンション高く隅々まで確認していた。


 更に上の4階。

 所属タレントの待機部屋や社員用の仮眠室となっている。

 タレントの待機部屋は、マンションのリビングのような感じになっており、自宅のように寛いで貰える設計となっている。

 ちゃんとトイレ、キッチン、風呂場もあってこの中で生活することも可能だ。

 社員用の仮眠室もそれなりの数を用意してあって、普通のホテル並みの広さでここにもトイレと風呂が付いている。

 なので暮らそうと思えば暮らせなくもない。

 橋本マネージャーは、その仮眠室が少し豪華すぎない?と言いながらも一番良い部屋をちゃっかり自分専用として確保していた。


 最上階の5階が社長室と空き部屋を倉庫として利用している場所になる。

 大きくて立派な部屋であり、机や椅子も高級品であり、一面ガラス張りの窓からは周囲の景色を一望できる。


 一通り見てから橋本マネージャーが俺に聞いてきた。


「ここ、一体いくらかかったんですか?」


 それに対して俺は苦笑しながら答える。


「ここのオーナーが丁度ビルそのものを手放したがっていてね。それで交渉して安く買ったんだ。それから少し手直しをしたって感じかな」


 そう言うと妻も私の腕に抱き着いてきて不安そうに声をかけてくる。


「そんなお金どこにあったの?」


 彼女に心配をかけまいと俺は笑顔で答える。


「俺は世界的な作曲家なんだぞ?しかも昔の蓄えもある。これぐらいは余裕さ」


「……でも」


「でもは無し。だってここは俺達が新しい夢を叶える場所だよ?だったらここは俺達夫婦のものだ」


 そう言って俺は彼女を抱きしめる。

 すると『うん』と返事をしながら俺の腕の中で大人しく抱かれる美結。



 それから3日後。

 3人で応募してきた人達の面接をしていた。

 ビックリしたのは大手芸能事務所で事務職だった人なども混ざっていたこと。

 理由を聞くと『ファンなんです!』と言われ、思わず苦笑することもあったが、応募してくる人のレベルが全体的に高くて困っていた。


 結局は、先行投資ということで応募してきた8人全員を採用とした。

 もう少し規模が増えれば更に増やす予定だが、今はこれぐらいで十分過ぎるだろう。

 基本的には現役事務員だった人の意見などを聞きながら全体的な仕事の調整や分配を行い、企業としてのやり方を決めていく。


 こうして本格的に事務所が稼働し始めた。

 そして次の日。


 あの腰まである特徴的な長い金髪に、一部赤のメッシュが入ったド派手なヘアスタイルの少女。

 高藤(たかふじ) 瑠璃(るり)がやってきた。

 

 見た目に反して受付の所で怯えるように周囲をキョロキョロしている所を見てしまい、思わず笑ってしまいそうになる。

 彼女がこれ以上怯えないように笑顔で声をかけた。


「ようこそ!水野エンターテインメントへ!」







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