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ただのパパ活だと思ってたら御曹司に激重感情抱かれてました  作者: ふじのなごや


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9:帰宅とため息


帰り道の車内は行きとはまた違った緊張感があった。


イーサンは先程の会話を思い返してみる。

正直に自分の気持ちを話したことが重たかったに違いない。

レストランで食事中のアンジュの顔に笑顔はあまり見られず、終始寂しそうな表情に感じた。


今日は楽しかっただろうか、それとも連れ回されて嫌だっただろうか。

すぐ隣にアンジュがいるのに素直に聞くことができなかった。


すっかり日が落ち、街灯が程よく照らされたアンジュの住宅前のロータリーに車を停める。

アンジュはお礼を言って、助手席のドアを少し開けた。

しかし外へ出ようとしない。


「あー……あのね、イーサン」


アンジュは、あー、うーん、となかなか言葉出てこない。

そして挙句に困ったように小首を傾げて目を見つめられる。

今朝の再来、2度目の襲来、逃げ場のないイーサンは待つことしか出来ない。

緊張が走る。


「……また、会える?」


アンジュは小さな声で、少し悲しそうに言った。

イーサンは自分に都合の良い言葉しか耳に入ってきていない気がした。

悲鳴をあげて動いていた心臓は、今度はぎゅっと締め付けてきて苦しい。


「…じゃあ、また会いに行ってもいい?」


イーサンがそう言うと、にっこり微笑んだアンジュは頷いた。

最後に笑顔が見られてよかった。

アンジュはようやく外に出て、少し屈んでイーサンにおやすみと伝えて手を振る。

車内から手を振り、アンジュが見えなくなるまで見送った。



◇◇◇◇



扉のロックを外し、自宅に帰ったアンジュ。


「ただいま」


誰もいない真っ暗な室内に小さく告げる。

時刻は間もなく19時、こんな時間に家にいるのは久しぶりだ。


電気を付け浴室へ向かい、服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

隅々まで丁寧に洗い浴室を出たあと、丹念に保湿し、髪を乾かしながらブラシで整える。

部屋着のままキッチンに向かい、湯を沸かしてハーブティーを作り、ローチェアに腰掛ける。


「……はぁ」


大きめのため息が室内に響く。

ほっと一息入れるために用意したハーブティーの香りを感じても、なんだか落ち着かない。

床に座り、ストレッチをしてみる。

ふと今朝も掃除したばかりの部屋が気になり、掃除してみる。


「……はぁ」


また大きなため息が漏れた。

全然落ち着かない。

キャビネットに置かれたカバンが目に入り、先程サインした契約を取り出す。


「E.Wagner」の文字を見つめる。


ワーグナー?ワグナー?

大手のヴァーグナー社もこのスペルだっけ。


契約書を流し読む。

援助金の提供、善意に基づく支援、返還義務を負わない、スポンサーは見返りを一切要求しないもの。


5、その他

本契約に定めのない事項については、誠意をもって協議し、解決するものとする。


「誠意をもって協議し…解決……」


正直、自分の意見を人に伝えることが苦手だ。

相手の顔色を伺って、結局相手の意見を受け入れてしまう。

自分が我慢して譲れば済む話。

もしも、追加事項を作るとすれば、どうするだろう。

私が望むこと。

彼なら私の話を聞いて、なんと言うだろう。


「はぁ……」


静かな室内に再びアンジュのため息が響いた。



◇◇◇◇



アンジュの自宅から数十分、イーサンは駅近くの駐車場の上階に車を停めた。

そのまま隣接するビルに移動するためのスカイブリッジを進む。


扉前の機器にセキュリティカードをかざし、顔認証をすると扉が開き、フロアに進む。

こんな時間に自分の自宅に帰ることが久しぶりすぎて、道路が混みあっていて驚いた。

いつもは終電が終わった頃に帰宅していたから人が疎らで空いていたんだろう。


エレベーターで自宅フロアまで進み、再びセキュリティカードをかざして自宅の扉を開ける。

センサーで廊下の電気がつく。

ジャケットを脱いで、クロークにかける。

そのまま浴室に向かい、服を脱いで、シャワーを浴びる。

バスローブを羽織り、濡れたままの髪にタオルを被せてソファーに座る。


「……。」


重たいまぶたをやや開けて、どこを見るでもなくぼーっと座っていたが、頭の中は今日の出来事がぐるぐると渦巻いていた。


契約が終わり、名前を呼んで、手を繋いでしまった。

大分調子に乗っていた。

彼女の様子が可愛いものだから、良かれと思って少しだけ気持ちをぶつけてしまった。

何も求めないと言ったのは自分だ。

でも、別れ際のあの言葉を聞いたら期待しない方がおかしいだろう。


「「……また、会える?」」


彼女の悲しげな表情と言動が、わからない。

どういう意味だ、どこまでなら許される?

彼女の気持ちも知らぬまま、浮かれてもいいのか。

たった一日でこんなにぐちゃぐちゃだ。

明日もカフェに会いに行ったら迷惑だろうか。


「はぁ……」


早く明日が来ないだろうか。

そんなことを思いながら、重たいまぶたを擦りながらベッドに向かった。


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