↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただのパパ活だと思ってたら御曹司に激重感情抱かれてました  作者: ふじのなごや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

10:謝罪


5時30分。

まだ薄暗い日の出前の時間、カフェの店内ではオープン前の準備が進められていた。


「おはようございます」

「アンジュちゃん、おはよう」


アンジュがオーナーに近寄り、挨拶をした。


「カルさん、昨日から夜勤休んでしまってすみません」


そう言うと申し訳なさそうに頭を下げるアンジュ。

カルは慌ててこちらこそ、と謝る。


「大変な思いをさせてしまってごめんね。こっちのことは全然構わないから。ええと、それで…スポンサーのことは大丈夫?」


カルは言葉を選びながらアンジュに尋ねる。

大丈夫です、と笑顔で応えるアンジュに、予想通り過ぎるなとカルは思った。


「少しくらい、頼ってくれたっていいのよ」


カルのその言葉に困ったように笑い返すアンジュ。

多くを語らないのは相変わらずのようだった。


そろそろオープンの時間だ。

店のガラス扉を開けて、メニューが書かれた看板を外に出し、テラス席のテーブルと椅子を整える。

コツコツと革靴の歩く音が聞こえ、振り返ると数歩先にイーサンが居た。


「イーサン!おはよう」


アンジュが笑顔で声をかけると驚いたように立ち止まるイーサン。


「…おはよう、アンジュ」


イーサンの挨拶が一歩出遅れた。バツが悪そうにその場に立ち尽くしている。

どうしたのかと顔を覗き込む。

昨日の爽やかな雰囲気とはまた違って見えた。


「今日も来てくれたの?」

「ああ、うん……」


歯切れの悪いイーサンを席に案内しようと店の扉を開けたが、

イーサンは店内に入らずアンジュを見つめた。


「アンジュ、昨日はごめん」


突然の謝罪に驚く。

昨日のこと、何があっただろうか。心当たりがない。


「君に会いたかったって、何度も伝えて困らせた」


ドキリとした。

イーサンの表情が悲しそうだった。

昨日、イーサンが気持ちを伝えてくれる度に、どうしたらいいのかわからない顔をしていた。

そして今もそうだ。

それがイーサンを謝らせる原因になってしまったことに、後悔した。


「でも、今日も君に会いたくて、来てしまった」


ごめん、と再び謝るイーサン。

その姿にアンジュは申し訳なさを感じる。

悪いのは、彼の行為を素直になれない自分の方だった。

せっかくの楽しい時間を台無しにしてしまったのは彼に対するリアクションだ。


「私のほうこそ、ごめんなさい」


お互いが扉の前で頭を下げていると、他のお客が入口前で立ち往生していた。

アンジュは急いでイーサンをカウンターに案内するが、手のひらを前に向けて断った。


「今日は用事があるから、これで。君の顔が見られてよかった」


そう言ってにっこり笑うイーサンの姿を見て、声を掛けることが出来なかった。



◇◇◇◇



ヴァーグナー社に出社する。

昨日より少し早い6時20分。

誰もいないフロアの明かりをつけ、自席に座る。


「はぁ……」


椅子に座り、デスクに突っ伏す。

用事なんて無い。

後ろめたさから嘘をついた。


今朝、快眠から覚めた直後にアンジュの表情を思い出しふと考えた。

好きでもない男に「君に会いたかった」と何度も言われたら、どう思うだろう。

好きでもない男に手を繋がれたら、ため息のひとつやふたつ出るだろう。

冴えた頭で考える。

最悪だ。


カフェで勤務していたアンジュに謝り、逃げるように去っていった。

時間が戻るならもう一度あの花畑をやらせてほしい。

調子に乗った自分を成敗して欲しい。

穴があったら入りたい。


「はぁ……」


誰もいないオフィスにそこそこ大きなため息が何度も響く。

数十分後、年配の清掃員が入ってきた。

すでに明かりがついているオフィスに一度声を上げ、さらに奥の方で一人ポツンと腰掛けるイーサンの姿を確認し2度目の声を上げた。


「ぼっちゃん!??またですか!???」


彼女は掃除用具を床に置いてドカドカとこちらに向かって走ってきた。

何やらわーわーと言っているが雑音としてしか認識できない。

今はそれどころじゃないんだ、ひとりで落ち込ませてくれ。


無視するつもりは毛頭なかったが、返事をすることができなかった。



◇◇◇◇



二限から授業に出たあとの昼休み。

校内の事務手続きを行う庶務室に出向き、講座の申請用紙をいくつか手に取る。

秋から始まる新学期の準備にしては少し早いが、先日の友人の話を聞いて触発されてのことだった。


校庭のいつもの場所のガーデンベンチに、仲の良い友人たちがすでに集まっていた。

皆に声を掛け、ベンチの端に腰かける。

抱えていた申請用紙とランチボックスをテーブルに置いた。

「講座、なんか決まってる?」と聞かれて、

アンジュは「どうしようか迷ってる」と答えた。

すると友人たちは顔を見合せにやにや笑い出す。


「実は私達もなんだよね〜」

みんなのカバンから申請用紙が出てきた。


「考えることは皆同じだね」

「ねー」


打ち合わせをした訳では無いのに、気の合う友人たちと息がぴったりで嬉しい。

「さすがに高級講座は無理だけど!」と言う声に

「パパ活も触発されればいいのに」と返した友人にドキリとした。


イーサンのことが頭に浮かんでしまい、申請用紙の文字は読めても内容が入ってこない。

ぼんやりと申請書を眺めながら、ランチに持ってきたサンドイッチを口にする。


申請用紙の1番下には

『なお、最上特待生に選定された者については、本講座の費用を全額免除するものとする』

と、書かれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。