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ただのパパ活だと思ってたら御曹司に激重感情抱かれてました  作者: ふじのなごや


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24/25

24:約束の時間

土曜日。

いつもの癖で日の出前から目が覚めてしまった。

ゆっくり二度寝をしようにも、どうもソワソワしてしまいベッドから身体を起こしカーテンを開けた。

今日は、彼とのデートだ。


ゆるく三つ編みをしていた髪に手を入れてざっくりと解きながら洗面台に向かう。

ヘアバンドを付けて、洗顔料を丁寧に泡立ててから顔を洗う。

何度かすすいだ後にフェイスタオルで水分を拭き取り、いくつかのスキンケア用品を順々に塗っていく。

顔に塗ったクリームが乾くのを待ちながら歯磨きをして、髪に櫛を通し、ヘアオイルを付ける。


化粧台からパレットを取り出し、様々なアイシャドウを薬指に取って、手の甲に擦り付け今日使う色を思い描く。

平日はさほどメイクをしていないから、変に思われるだろうか。

どこへ出かけるか聞いておけばよかった。

きちんとした場所へ出かけるならそれなりの格好をしなければならない。


一旦メイク用品を置き、クローゼットに向かう。

友人たちの言葉を思い出しながら洋服を出してみる。

ラフにカットされたダメージパンツはカジュアルすぎるか。

センタープレスの細身スラックスはカフェで勤務する時に着用しているお気に入り。しかし可愛くは無い。

ピタッとしたスキニージーンズは動きやすいが靴は何と合わせるか?少しスポーティすぎる気がする。

深いインディゴのストレートデニムパンツを手に取る。トラッドでシンプルで、どんな場所でも当たり障りないはずだ。


ボトムスが決まったところで靴を選ぶ。フラットなローファーはカフェでいつも履いていて革が足に馴染んで歩きやすい。

ピクニックやハイキングならキャンパス地のスニーカーが合うだろう。

でも今日は特別だからお気に入りのローヒールのバレエシューズ型のパンプスにしよう。

真っ赤なシューズはタイムレスでボーイッシュなボトムスに女性らしさが加わる。


トップスはTシャツ?すこし短めの丈、カジュアルすぎるか。

ドレスシャツはどうだろう?普段は無地のものをカフェで着てるから、柄付きのシャツは?これはデートのイメージではないか。

ざっくり首元が開いたカットソーを手に取る。肩が見えそうなデザインは友人たちから露出を控えろという声が聞こえてきそうだ。

コンパクトな白色のパフスリーブはどうだろう。胸元はまっすぐカットされデコルテが綺麗に見える。肘下までふんわりとした袖が女性らしい。

鏡の前で洋服を合わせてみる。

頑張りすぎてない、カジュアルでクラシカルなコーディネートができた。


長い髪は全体をふんわりと巻き、下ろした。

普段はひとつに束ねているから随分雰囲気が変わり幾らか華やかに見えるだろうか。

それからメイク。

日焼け止めを丁寧に塗って、目元に少しのコンシーラー。

ファンデーションより素肌の方が肌が明るく見えるから、少しのパウダーだけ乗せる。

いつものベースが完成すると柔らかくシェーディングを施し眉を整え、肌なじみの良いベージュのアイシャドウと少しのピンクを混ぜてまぶたに馴染ませ、淡い茶色をまつ毛に沿って乗せる。

マスカラを塗りすぎないようにし、ほんのりチークを添えて、大きなブラシでハイライトをさっと乗せる。

普段使っているお気に入りのリップをポンポンと唇に使って完成だ。

アンジュの立体感のある顔つきを邪魔しない薄づきのメイク。

派手過ぎず気取りすぎてないちょうど良い仕上がりだ。


全身を鏡で確認する。

やっぱりオシャレは楽しい。

自分に自信が持てて、気持ちがぐっと上がる。

普段なかなかこんな時間を取れなかったから改めてイーサンに感謝しなくてはならないなと感じた。



今日の身だしなみが整ったところでキッチンに向かう。

冷蔵庫に残っていたのはアボカド、トマト、卵、牛乳。

ストックしていたパンが固くなっていた。

牛乳と砂糖混ぜたものをパンに浸し、溶いた卵にくぐらせる。

温めたフライパンにバターを落とし、パンを焼く。

余った牛乳と卵液を合わせて濾し器に注ぐ。

皿で蓋をして水を貼ったフライパンで蒸し焼きにする。

アボカドとトマトを切って添えて、フレンチトーストと簡易プリンの出来上がりだ。


「いただきます」


我ながら残り物で良い朝食を作ったなと自己評価した。

さて、ストックしていた食材が底をついた。

デートの前に買いに出かけてしまおうかと時計を見る。

まもなく8時。

あんなに色々とやったのに、まだ、8時だった。

ゆっくりと食事を済ませて皿を片付ける。


寝室からシーツ類を外して洗濯機に詰めスイッチを押す。

部屋の掃き掃除を済ませ、玄関先、水周りもざっと掃除する。

洗濯機から完了の合図を受けて、洗濯物を取り出し、シワを伸ばして干す。

今日もカラッと晴れてとても良い天気だ。


9時過ぎ、歯を磨いてリップを塗り直し、小さなショルダーバッグに財布とハンカチとポーチを詰め、買い物用袋を持ち外に出る。

来週は何を作って食べようか。

朝食を食べたばかりなのにフルーツが食べたい気分。

ヨーグルトとはちみつも良い。

それからしっかりしたタンパク質も欲しい。


そんな事を考えながらコツコツと靴音を立てながら階段を降りていく。

踊り場から外の景色を眺めると、いつも彼が車を止めているロータリーが見え、中央の植木が風にそよいでいた。

1階まで下り、フロントロビーを抜けて食品店に向かう。

からりと乾いた春の風、車が走る音、人々の歩く音まで心地いい。

黒色の車を見ると思わず目で追ってしまうが、それも楽しくて心が弾んでいた。


歩いて10分ほどで食品店にたどり着く。

彼と偶然?出会った食品店だ。

入口に置かれた買い物かごを持って入店し、品物を物色する。

鮮度の良い生鮮食品たちをカゴに詰めて会計に進み、領収書を貰う。

購入品を買い物袋に詰め、店を出る。

パンもお肉もフルーツも、いつもより少しだけ大きいものを買ってしまった。

少し買い物袋が重たいが、やはりなぜか気分が良くて帰り道は鼻歌を口ずさみながら歩いた。


家を出てから1時間も経っていない気がするが、どのくらい時間が経ったかわからない。

彼が置いていった腕時計を持っていたら便利だろうな、とふと思う。


自宅を目指して歩いていると、遠くの交差点で黒色の車が横切った。

全く珍しくはない黒色の車。

どうしても同じような車を見つけると反応してしまう。


あとどのくらいで会えるのかな。

待ち合わせ時間まで何をして過ごそうか。

ウキウキとした足取りで集合住宅前に戻ると、今度は駐車場に入っていく黒色の車の後輪がほんの少し見えた。

黒色の車は本当によく走っているんだなとつくづく感じた。


ロータリーを素通りしてロビーに直行する。

エレベーターで三階まで上がり、自宅に戻った。

玄関先の置時計を確認すると、まだ10時。

体感時間に差はなかった。


購入品を冷蔵庫に閉まって後片付けをする。

さて、何をしようか。


ふとバルコニーを見ると、風に吹かれてシーツが偏っていた。

沢山干した洗濯物達がもう乾き始めている。

シーツを整え、乾いた洗濯物をいくつか抱える。

バルコニーの下にある集合住宅専用の駐車場をなんとなく見ると、直下に位置する来客用の駐車スペースにセダンの黒い車が止まっているのが見えた。


「……?」


顔をバルコニーの柵から乗り出して、よく目を凝らして確認する。

今朝から黒い車は散々みてきた。

まさか、と思うものの、彼ならやりかねないような。

妙に確信付いて急いで乾いた洗濯物を片し、ショルダーバッグに彼の腕時計を入れて玄関に進む。

最後に全身を鏡で確認して、靴を履き、扉を開けて外に出て戸締りをする。


エレベーターで1階まで降りて、駐車場への通路を抜ける。

来客用駐車スペースに止まっている車のナンバーをリア側から確認する。

やっぱり、彼だ。


「…早くない?」


リア側からサイドに移動して運転席をそっと見ると、イーサンが本を読んでいた。

フロント側に回って手を振ると、キョトンとした顔で目が合った。

そのまま驚いたような表情で扉を開けて外に出てきた。


「…早いな!」

「それはこっちのセリフだよ!」

思わず吹き出すと、イーサンの目が上から下へと目線を動かした。

アンジュは両腕を少し広げて自分でも足元から確認してみる。


「変?」

そう尋ねて、彼を見ると真っ白のTシャツに深いインディゴのデニム、白のスニーカーを履いていた。

図らずしてお揃いのようなコーディネートにまた笑ってしまう。


「君…本当に美人だな」

イーサンが片手をおでこに当ててそう呟いたので素直にお礼を言った。


「髪がとても綺麗。まるでプリンセスみたいだ」

「ありがとう」

「メイクも違う?キラキラしてて美人が際立ってる」

「ありがとう」

「デニムがお揃いみたいで嬉しい。白い服もふわふわで、赤い靴が素敵だ」

「ありがとう」

「…悪い虫がつかないようにしないと」

「ふふふ、なにそれ」


端から端まで一通り褒めてくれて上機嫌この上ない。

「イーサンもとってもかっこいい」

にっこり微笑んでそう伝えると、彼がはにかんでお礼を言う。


「早く来たなら呼んでくれればよかったのに」

「女の子は支度があるだろうと思って遠慮したんだ。約束の時間じゃないのに催促したら悪いだろ」

「紳士だね」

「僕はかっこよくて紳士なんだ」

イーサンがアンジュの手を取って助手席に誘導する。


「忘れ物はない?」

「うん、大丈夫。ありがとう」


助手席のドアを開いてくれた彼にお礼を伝えて車に乗り込む。

車内のダッシュボードに3冊本が置かれていた。

運転席に乗り込んだイーサンにアンジュが尋ねる。


「随分待たせちゃった?」

「そんなことない」

イーサンが本をまとめて後部座席に手を伸ばして片付ける。


「君に早く会いたかったから、許してくれ」

へらりと笑ってエンジンをかけた。

「昨日も会ったのに」

「そう。昨日も一昨日もその前も会った」

「ほとんど毎日会ってるね」

「出会ってからほとんどね」


ついこの間出会ったばかりなのに、すっかりイーサンの隣が馴染んでいる。

車内からの景色を眺めながら、どことなく不思議な感覚に浸った。


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