20:女子会
15時20分。
本日の講義が終わり、アンジュは同じ講座を受講している仲の良い数人でハドルルームへ向かった。
皆はそれぞれ適当な椅子に腰掛け資料とノートを開き手際よくペンを滑らせていたが、いくばくか経たないうちに友人たちの目線がアンジュに集まっていた。
「ってかアンジュさ、ぼーっとしてない?」
「わかる、なんか変だよ」
「体調悪い?」
「大丈夫?」
はたと気がつくと、誰よりも課題を進めるのが早いアンジュが皆より若干出遅れていた。
友人たちが次々とアンジュに近寄り、おでこや首元、手を握ってくる。
体温が正常であることが確認され離れていく友人たち。
「全然大丈夫、体調が悪いとかじゃないから」
また各自椅子に腰掛け、目元の資料やノートに目線を落とし、ペンを握る。
「アンジュさ、夜のシフトやめたじゃん?」
「うん」
「夜は例のパパ活の人と会ってるの?」
「うん」
「会って何してるの?」
「うーん、ご飯食べて、お金もらって、それだけ」
「どっかで聞いたセリフなんだけど」
あはは、と皆が笑い出す中、最初にパパ活発言をした彼女だけがげんなりとため息を漏らしていた。
「実はね、土曜日のシフト辞めたんだよね」
「「「え?」」」
アンジュからの発言に一同は驚愕する。
「またなんかあった?」
「うん」
「パパ活の人?」
「うん」
課題を進めながらぼんやりと頷くアンジュに、待ちきれない友人たちが次々と質問が飛ぶ。
「やばい、待って、土曜も会うの?」
「長時間会うのはやめた方がいいって」
「それってご飯だけで済む?無理じゃない?」
すっかりペンが動かなくなった友人たちを尻目に、のんびりと課題を進めるアンジュから生返事が返ってくる。
「だめだ、アンジュがパパに襲われる」
「休日に会うなんてタブーでしょ。許しすぎじゃない?」
「私たちですら土曜日会えてないのに!」
友人たちはふんぞり返って課題を放り投げた。
彼女達の会話を聴きながらアンジュは困ったように笑う。
「ちゃんとしたデート、久しぶりだからちょっと緊張してて」
「「「!!???」」」
ミサが椅子から転げ落ちた。
友人たちから捲し立てるように指導が飛ぶ。
「アンジュ、嫌なことは嫌って言うんだよ?」
「うん、わかった」
「パンツスタイルで行きな?硬派な感じのやつね?」
「うん、そうする」
「ついでに走りやすいフラットシューズでね?」
「うん、歩きやすい靴で行くね」
「もしもの時は大きな声で助けを呼んで逃げるんだよ?」
「うん、ありがとう」
にこにこしながら返事をするアンジュに、ギョッとする友人たち。
こちらの危機感とかけ離れて随分楽しそうであった。
「たぶん信用できる人だから、大丈夫だよ」
「信用できる男は家族だけだから」
「それじゃあパパ活のパパ達がややこしい」
「確かに。信用できる男なんて世の中にいないから」
「だめじゃん」
すっかり課題の事などそっちのけで盛り上がる会話。
こんな風に時間を気にせず友人たちと楽しく過ごせるのは彼のお陰で、会話のきっかけを作ってくれたのも彼である。
だんだんと彼が日常に溢れてきていることに気付かないふりをするのは出来なかった。
「ふふふ」
「なんかアンジュがめっちゃ笑ってる」
「あはは、だって面白いから」
「絆されるなよ、吊り橋効果で頭鈍ってんだから」
「違うの。みんなが居てくれて嬉しい。みんなのお陰で毎日学校が楽しい。いつもありがとう」
「「「どーいたしまして」」」
息ぴったりのハモリに皆でどっと湧き出す。
友人たちと気兼ねなくおしゃべりを楽しんで、学業に励むことが幸せで、胸がいっぱいになる。
「こちらこそアンジュと仲良くなれて光栄だよ」
「入学式のときのアンジュは近寄りがたかったもんね」
「え、そうなの?」
「移動する度にゾンビみたいに男達が引っ付いてきてたじゃん」
「そんな事もあったね、懐かしい」
「あの時さ、ミサはなんでアンジュと仲良くなったの?」
「そー言えばしつこいナンパから助けたんだったわ!」
「またナンパ」
「アンジュは助けてもらうとついて行っちゃうのかぁ」
「ミサは良い子だったから、つい」
「おかげで仲良くなれたから結果オーライだけどね」
「アンジュは優しさ見せられると騙されるんだから気をつけな」
「ちなみに、あたしの優しさは本物です」
「あははは」
しばらくの間わいわいと盛り上がり、課題もようやく一段落したころ、辺りは夕焼け色に染まっていた。
「そろそろ帰ろっか」
「アンジュが最後までいてくれるなんていつぶり?」
「1年の時以来かな」
各自で荷物をまとめてハドルルームを後にする。
「ねぇ久しぶりに皆でご飯行かない?」
「!!」
「アンジュからそのセリフが聞けるとは!」
「どうする?何食べたい?もうお腹ぺこぺこ!」
待ってましたと言わんばかりに盛り上がり、皆で学校の門をくぐる。
デートの誘いを承諾してから、何処と無く落ち着きがなかった気持ちが友人たちのおかげでようやく落ち着いてきた。
ふと、いちょう並木に目をやるが、そこには見覚えのある車は無かった。
彼のことが頭をよぎったが、きっとまた明日会えるだろうと思い友人たちとの時間を楽しもうと彼女たちを追った。




