14:恋バナ
二限目の授業を終えてランチタイム。
いつもの場所のいつものピクニックテーブルにひと足お先に到着したアンジュは、まかないで作っておいたテイクアウトボックスを取り出す。
しばらくすると仲の良い友人たちが続々と集まってきた。
「お疲れ〜」
「おつ〜」
軽く挨拶を交わして皆が席につく。
するとミサがアンジュに視線をよこす。
「今日髪巻いてるの?可愛いじゃん」
ミサは大きくウェーブを作っていたアンジュのブロンドを見てクルクルと指を動かした。
「ちょっと時間が出来たから、久しぶりに巻いたの」
「え?過密スケジュールのアンジュに時間が?」
友人たちが冗談でしょ、と笑う。
「実は夜勤辞めたんだよね」
「「「え?」」」
アンジュからの発言に一同は驚愕する。
「ちょっとまって、いつから?」
「先週から」
「なんで、なんかあった?」
「えーと、ありましたね」
「「「!!」」」
恥ずかしそうに笑うアンジュにお察しの友人たちの顔が歓喜の悲鳴をあげていた。
「やばい、どうしよう、いつの間に!」
「全然わかんなかった、ポーカーフェイスすぎる」
「最高の月曜日をありがとう」
彼女たちが興奮するのには訳があった。
アンジュはナンパに来る男たちを断る口実として、必要以上にバイトを入れスケジュールを埋めていたからだ。
シフトの変化は大きな一歩だった。
しかし、次のアンジュの一言に友人たちは般若の形相に変わる。
「でも、ごめん。パパ活?みたいな感じ」
たぶん、と続けるアンジュ。
「やばい、どうしよう、まさかのそっち?」
「私のせいでごめん。まさかアンジュがパパ活触発されてるとは」
「最悪の月曜日始まっちゃったんだけど」
友人たちはふんぞり返ってランチを漁る。
なんだか恥ずかしそうにするアンジュに再び友人たちの視線が集まる。
アンジュは困ったような目線を友人たちに送り、本音を漏らした。
「実はその人のこと、ちょっといいなって思ってて……」
「「「!!???」」」
ミサが卒倒した。
友人たちから槍のように質問が飛ぶ。
「アンジュ、年上が好きだったんだ」
「うーん、どうかな、その人だけかも」
「出会いは!?いつどこで出会ったの!?」
「ナンパから助けてくれたんだよね」
「それ吊り橋効果だよ、惑わされてるから目ぇ覚ましなって」
「何も求めないって言われてるから大丈夫」
「言われてるだけで何してくるかわかんないよ」
「契約書に記載があるの、サインもしたし」
だから、どうしようかなと思って。とアンジュが両手の指先を顔の前で合わせてにっこり微笑む。
そんなアンジュを見てごくりと生唾を飲み込んだ。
またアンジュのおかげで1人の男の人生が狂わされてしまう予感がした。
テイクアウトボックスを片付けているアンジュを見つめながら、友人たちは怖い怖いと腕をさする。
「次の授業、北館だから先に行くね」
早足に去って行くアンジュに手を振った友人たちは、まだ残っている自分たちのランチに手をつけながら話す。
「てかパパ活って何するの」
「ご飯行ってお金もらって、終わり」
「契約書とかあるの?」
「普通ないよ、遺産相続じゃあるまいし」
「イチャイチャとかするの?」
「手を繋ぐ時はあるよ、転んだら危ないし」
「「あ〜」」
それって介護じゃん、とミサは思った。
「てかアンジュの恋バナっていつぶり?」
「勝手に落第して退学したヤツぶり?」
「最近だとアンジュ様〜って迫ってたヤツじゃない?」
「景品にさせられてたヤツは?あれは最悪だった」
「当たって砕けた男は含むの?数え切れなくない?」
「てかつくづく散々な男しか居ないな」
ははは、と乾いた笑いが湧く中、あ、と思い出す。
「ちゃんとしたやつなら、幼なじみか」
「「ああ…」」
アンジュの口から出てきた唯一の男。
入学当初、まだ出会ったばかりの頃に聞いた恋バナ。
あれから1年以上経つ。
幼なじみの話はそれから聞いていなかった。
「アンジュを放っておくなんてすごい男もいたもんだ」
「「だね」」
まもなく三限の授業のため、会話を切り上げそれぞれの教室へ向かった。
◇◇◇◇
アンジュは5限目の授業を終えて、バイト先には寄らずに自宅方面へ足を進める。
毎日のように22時頃まで働いていた。
こんな時間に帰路につくなんて不思議な感じだ。
今夜は何を食べようか。
明日のランチの用意もしなくては。
彼は何が好きだろうか…。
自宅近所の生鮮食品を取り扱う小売店に入り、店内を物色する。
どことなく足取りが軽く、気分が上がっている自分が久しぶりで楽しい。
色々と目移りして買い込んでしまった。
領収書をしっかりと受け取り、まっすぐ自宅へ帰宅する。
帰宅後、シャワーを浴び、念入りにスキンケアを済ませてキッチンに立つ。
そういえばスキンケアにもたっぷり時間を取れてうれしい。
こんな風に自分の時間を過ごせるなんて、夢みたいだ。
翌日に使う食材の下ごしらえをしつつ、夕ご飯を軽く済ませる。
明日の段取りをある程度確認してから、まだ提出期日まで余裕のある学校の課題に手をつけ、のんびりと夜を過ごす。
先週までこんなことになるなんて思ってもみなかった。
きっかけはどうであれ、彼と出会ってから、大きく何かが変わった気がする。
待っているだけでは何も変わらないことは過去の経験から十分に理解していた。
結果を残すためには、自分を奮い立たせなければ。
「ふぅ…」
嬉しい変化に期待と不安で胸がいっぱいだ。
明日が待ち遠しい。




