12:休日
定時でオフィスを出たものの何をしたら良いのかわからなかった。
今日は気がつけば金曜日、普段ならチームメンバーや取引先と飲みに出かけて、日をまたいで、最悪明るくなってから帰宅するのがお決まりだ。
そんないつもの金曜日も過去のもので、ぼんやりと車に乗り込む。
なんとなくアンジュの学校付近をぐるりとドライブしたものの、そうそう運良く出会う訳もなく。
適当な店に入り、出来合いのものをテイクアウトし、酒類も調達して遠回りで帰宅した。
仕事以外に何をしていたんだっけ。
時間の使い方が分からない。
夕食を食べ、惣菜が入っていた容器を軽く洗ってゴミ袋に捨て、シャワーを浴びる。
ぼんやりと、昼のミーティングスペースで悩みを打ち明けた事を思い出した。
話を聞いてくれた2人は、何も言わなかった。
自分が悪いと指摘して欲しかった。
さっさとどうしたら良いか教えて欲しかった。
「……はぁ」
元気が出ない。
昨日もたっぷり寝たのに身体がだるい。
彼女に会いたい。
でも傷つきたくない。
醜い気持ちがぐるぐるとして落ち着かなかった。
何気なくテレビをつける。
金曜の夜、まもなく映画が始まるようだった。
映画なんていつぶりだろう。
アルコールを口に含んでなんとなくテレビを眺める。
「……。」
ロマンス映画のようだった。
男女が出会って。
純情な男性が、天真爛漫な女性に恋をする――。
恋焦がれる男性の気持ちが自分と重なって、酒が進む。
「……。」
2人はいくつかの夜を超え、いくつもの朝を迎える。
しかし大きなきっかけがあったわけでもなく、徐々に距離が空いてしまう。
そして最後は別々の道を歩むことになる。
彼と彼女のひと夏の恋を描いていた。
――。
あっという間にエンディングロール。
ほろ苦い関係性が妙にリアルだった。
何がいけなかった訳でもない、ただ楽しい時間を共にしただけ。
美しい時間だけ切り取られた映画は儚く切ない。
いつかアンジュと会えなくなることを想像し、寂しさを紛らわすように酒を流し込んだ。
◇◇◇◇
土曜日。
アンジュは今日も早朝からカフェで勤務だ。
いつものようにオープンと同時に続々とお客が来訪する。
土日は学校が休みである。
近隣企業も休みであることが多いためスーツ姿の人々の姿は少なく、休日の優雅な時間を過ごそうとリラックスした姿のお客が多い。
コーヒー、紅茶、パンケーキ、フレンチトースト、クロワッサン、サンドイッチ……
今日も忙しなくオーダーを回し、店内を駆け回る。
一昨日からオープン時に来てくれていたイーサンの姿はなかった。
しばらくして、いつもの常連客を出迎える。
もう何年も通っていただいていると聞いている老夫婦だ。
「おはようございます」
「アンジュちゃん、おはよう」
「今日も忙しそうだねぇ」
老夫婦は店内を少し覗いて、賑やかな雰囲気を感じたのか今日はテラス席をご所望された。
2人が着席し、いつものコーヒーと日替わりサンドイッチを注文する。
「今日のサンドイッチ、フライドチキンなんです。BLTに変えましょうか?」
アンジュの提案に夫婦は快諾し、アンジュはオーダーを通しに店内へ戻って行った。
以前、ちらりと夫婦間で揚げ物の話をしていた。
年齢を重ねているから食べるのが辛いというような話を店内でしたことがあった。
カフェの日替わりメニューであえて自分たちの嗜好を申し付けたことはなかった。
アンジュはいつもそうだ。さりげなく推察してくれる。
夫婦は店内に向かったアンジュをそっと見守り、夫婦が互いに顔を近づけながら話す。
「アンジュちゃん、いつも通りね」
「ああ…」
「どうしましょう、声掛ける?」
「いや…どうだろう…」
何やらヒソヒソと話し込む夫婦に早速コーヒーを差し出すアンジュ。
「あの、どうかされました?」
いつの間にかテラス席側いたアンジュに、ハッとする夫婦だったが、
意を決したように夫人がアンジュに声をかける。
「アンジュちゃん、夜勤やらなくなったって聞いてね、心配してたのよ」
オーナーが話したんだろうか。
情報が早いな、と思いながらも夫人からの問いかけににこやかに答える。
「ちょっといろいろあったんですけど、心配ご無用です」
引き続きカフェに来てくださいね、と続けると夫婦は大層残念そうな表情を浮かべる。
「私達も支援くらいできるからね」
「え?」
支援という言葉に、スポンサー情報までもが回ってしまっているのかと驚く。
夫婦はお喋りがすぎたようで気まずそうに以降の言葉を濁した。
「じゃあ、もしもの時は、お願いしちゃうかもです」
秘密ですよ、と人差し指を添えてにこやかに去っていくアンジュを再び目線で追いかける。
人たらしにも程がある。
彼女を放っておくことしか出来ないのが痛く惜しい。
「……はぁ。今日もコーヒーが美味しいわ……」
気の抜けた夫婦のため息が木漏れ日に消えていった。




