32話 親切なお節介
「ふぅ~牙鮫団への依頼は入っているか?」
気が進まない表情で、受付嬢に尋ねる、トール。
「あぁ?」
振り返った受付嬢は、険悪な眼差しをトールに向ける。
「…王族様が、こんなゴミ溜めに何の用だい?」
「牙鮫に会いたい」
「知らないよ!あんなバカ共のことなんか…」
「長期の依頼は、受けていないんだな?」
「しつこいね!知らないって言ってんだろ?」
「そうか…行くぞ、ヘル」
ヘルの手を強引に引き、来た道を引き返す、トール。
「ちょっと、待て!」
百鯨団とは正反対の小汚い格好をした冒険者に、再び、行く手を阻まれる。
「はぁ~またか・・・悪いが…」
「牙鮫団って事は、ミノタウロス討伐の依頼だろ?」
気持ち悪い笑顔で、トールに近づいて来る。
「その依頼、代わりに俺達”マスタークラウン”が引き受けてやるよ」
トールと肩を組み、耳元で囁く。
「たしかに俺達は、ミノタウロスの討伐数では、牙鮫団に劣る」
「だが、牙鮫団の実力は、俺達よりも遥かに下だ」
「ここだけの話、評判に漬け込んで、高額な依頼料を請求するって噂もある」
「悪い事は言わねぇから、俺達を指名しとけ!な?」
大金が入った硬貨袋を、見せつけるように受付の台に置く。
「…実績がある優秀な冒険者になら、私は幾らでも支払う用意がある」
「ちっ、行くぞ!」
手を振り払いながら、悪態を晒して立ち去る、マスタークラウン。
「・・・見ない顔だな、何者だ?」
「最近、辺境から出稼ぎに来た冒険者らしい」
「あまり良い噂は聞かないけれど、過去の依頼を見る限り、実力は本物」
「馬鹿なことはしないと思うけど…気をつけなよ」
「問題ない」
「あんた一人なら、私も忠告なんかしないよ」
ヘルの頭を撫でて、近くの棚に資料を運ぶ。
「ふふっ確かに。弟に手を出せば…無事では済まないだろう」
マスタークラウンの末路を想像して、思わず、笑いが零れる。
「弟?・・・まさか!この子が例の”悪魔の子”かい⁈」
持っていた資料を放り捨て、ヘルに近寄る。
「え⁈うわ‼」
ヘルの体格を確かめようと、高い高いをする要領で、上空へと放り投げる。
「重量は…普通の幼子だね?」
「師匠。ヘルは、剣術に秀でている訳ではございません」
「師匠?」
「長居するつもりは、無かったのだが…」
「このババ…」
「あぁ?」
鋭い眼光で、トールを睨む。
「…この方の名は、グルダ・フィーヴィル」
「王から騎士の称号を受けた・・・私の”剣の師匠”だ」




