33話 人の心は目に見えない
「私の…師匠だ」
「トール兄様の師匠!あれ?どこかで…」
グルダの顔をじっと見つめて、直近の記憶を辿る、ヘル。
「師匠は…」
師匠という言葉に不快感を感じたトールは、話を止め、一度、口を閉ざす。
「師匠は、ミネルマイカの街を救った、国民の誰もが知る”雷撃の英雄”だ」
「あ…ああ‼」
雷の魔法について調べていた時に見た、本に載ってた挿絵だ!
でも、挿絵の姿とは全然違う気が…
あの本、英雄の話だったのか~
本の内容は、雷の魔法とは無関係だったから、結局、読まなかったんだよな~
「”英雄だ”なんて、心にもない世辞を言われても嬉しくないよ!」
「私は、客観的な事実を申しただけですよ、師匠?」
トールとグルダは、同時に睨み合い、同時に目を逸らす。
ギルド内に険悪な空気が流れる~
「…ギルドの受付嬢は忙しいんだよ。用が無いなら、さっさと帰んな!」
手でトールを追い払うと、トールに聞こえないようにぼそっと呟く。
「こんな所に来るんじゃないよ、バカ弟子…」
「え?」
「…何でもないよ。ほら!」
照れ隠しか、口止め料か、グルダは袋から取り出した飴玉を、ヘルの手に握らせる。
飴玉を握らされた手の隙間から、ミントの香りが漂う。
「・・・いらない」
「な・・・」
ヘルから発せられた、噓偽りの無いこどもの正直な拒絶に絶句する。
「これだから王族は嫌いなんだよ…誰か!」
グルダが机を叩くと、ギルドの奥から、鎧を着た二人の大男が現れた。
「連れて行きな!」
「同じ顔・・・え?うわぁぁぁ~」
ヘルとトールは、大男に担がれ、ギルドの入口まで運び出されてしまった。
「トール兄様・・・」
ミノタウロス討伐の望みがついえたヘルは、現状の打開策を兄に願う、幼気な弟の目で、トールを見つめていた。
「気は進まないが…弟の為なら致し方ない…」
────────────────────────────────────
トールに手を引かれて歩くヘルは、怪しい雰囲気が漂う酒場の前で、足を止めた。
「ここって…」
トール兄様が揉め事を起こして、出入り禁止を王に言い渡された酒場じゃ…
まさか…ここに入るの⁈
どうみても、子どもが入って良いような場所じゃないけど…
「・・・入るぞ」
お店の入口に、メニュー表を持ったホールスタッフが出てくる。
「へい。いらっ…げっトール!と…子ども?」
「ローギルは、来て居るか?」
「ローギルなら…いや、いや、おまえら喧嘩中なんだろ?だったら、合わせらんねぇ~よ!ていうか、おまえ、この店を出禁にされたんじゃ…」
腰に携えた剣を抜き、花瓶に活けてあった花の花弁を、斬りを落として見せる。
「席に案内しろ…」
「わ、わかぁったよ。合わせりゃいいんだろっ・・・はぁ~今月も赤字か~」
石製のローテーブルと、派手な色のソファーが列を成す店内を、奥に進む。
「ねぇ~え~あの件、まだ駄目なの?」
酒に酔った客に、言い寄る女性店員。
「うるせえな…俺は今、大事な時期なんだよ!」
ふ、不倫現場だ!
やっぱり…子どもが来ていいようなお店じゃないと思う…
「トール兄様。ここに、牙鮫団は、居ないんじゃ…」
「…居たぞ」
お店で、最も派手で、最も大きなソファーに、両腕に女の子を配置して深々と座る男の席の前で立ち止まる。
「よぉぉ~トール!」
酒に酔って陽気な男は、横に座る女の子に、トールの酒を注がせる。
「最後に会ったのは、二週間?一ヶ月前か?アハハ!」
「ちょうど、二ヶ月前のこの時間だ」
「な~んだ。しっかり覚えてるんだ…じゃあさ?」
男は、トールに近づき、グラスを持った腕で、トールの肩を抱き寄せる。
「店は”死”にに来たって解釈で良いんだよな?」
トールの肩に乗った腕の血管が浮き上がらせ、ぐしゃりという鈍い音を立てて、手に持っていたグラスを握り割った。




