31話 悪魔は笑う
冒険者が集まる冒険者ギルドの入り口に立つ、二人と影一つ。
「ヘル様、気をつけて下さい!冒険者は、礼儀も知らない無法者の集まりで…ヘル様!!」
クラストの忠告に耳を傾けること無く、扉を開けて建物へ入る、ヘル。
「うわぁ~」
「発泡酒を飲む髭を生やした冒険者!」
「掲示板で簡単な依頼を探す魔法使い!」
「買取物の計算が早い年老いた受付嬢?」
「また、勝手に…ヘル様!お止めください!」
影の中から発せられたクラストの小声は、暴走するヘルの耳には届かない…
「おい!」
派手な鎧を身につけた集団が、ヘルの目の前に立ち塞がる。
「ここは、ガキが来るような所じゃねぇ。さっさと帰んな!」
「凄~い!本物だ~」
悪態をついてくる悪役の目を、目を輝かせたヘルが見詰める。
「な、なんだお前?ひょっとして…俺のファンか⁉」
「ううん。知らな~い」
「うっ。そ、そうか…」
子供の無邪気な一言に、ショックを受けた団長は、一歩下がり、進路を譲る。
「団長…貴族の子供が、俺らの名前を知っているわけ無いでしょ…」
「そうですよ!俺らはまだ、新米のAランクパーティーなんですから!」
「まずは、礼儀としてこちらから名前を名乗らないと…」
「貴族に気に入られるためには、”ゴマすり”ですぜ!団長!」
「そ、そうだな!」
独り芝居から勝手に立ち直り、再び、ヘル達の進路を塞ぐ、団長。
「俺は、百鯨団、団長のボロスだ」
「そして…」
「百鯨団の…その他、大勢だ」
「誰が!その他、大勢なんですか!」
「あ~あ…百鯨団の印象がますます悪く…」
「団長…ちゃんと紹介してください」
「ひどいです!ひどいですぜ!」
ボロスの後ろで騒ぎ立てる、団員達。
「…というような団だ。どうだ?俺たちを雇ってくれる気になったか⁉」
一歩身を引いたヘルの手を握り、息を荒げて迫る、ボロス。
「え、え~と…」
冒険者を探しに来た貴族じゃないんだけどな~
【スタンピード】
魔獣の生息数が増加し、生息域から漏れた個体が、人間の住処へ侵攻する行為。
その為、貴族には毎年、魔獣討伐のノルマを課されている
しかし、貴族全員が剣を揮えるわけじゃない
惰眠を貪り、私腹を肥やす貴族の方が多いだろう…
だが、討伐を行わなければ、王の命に逆らったとして死罪になる
そこで王は、冒険者の雇用を許可した。
非力な貴族に代わり、雇われた冒険者が魔獣を討伐する
安全な方法だが、冒険者が討伐に失敗すれば、貴族の名誉に傷がつく
その為、実績のある優秀な冒険者を、高額な報酬を支払ってでも雇いたがる
彼らが必死なのは、肩書きに捉われない、無知な雇主を見つけたと思ったからなのだろう…
惰眠を貪る貴族の私腹が、冒険者を通じて、庶民に流れる。
王が考えたとは思えないが…中々考えられた政策だ!
「貴様!汚らわしい手でヘル様を…切り落としてやる⁈」
ヘルの影に潜むクラストの怒り声に、困惑する百鯨団。
「下がれ!今日は、お抱えの冒険者を探しに来たわけでは無い」
辺りを見回して声の出所を探すボロスの肩に、そっと手を置く、トール。
「おい!誰に向かって命令・・・ト、ト、ト、トール様‼」
トールを睨みつけていた目が、一瞬で動揺の眼差しに変わる。
「と、言うことは…」
百鯨団の視線に対して、大衆に向けの笑顔を見せた、ヘル。
「あ、あ、あ、悪魔の王子!!」
「し、し、失礼いたしました~お許しくださーい!」
足をもつれさせながら、全力疾走で背走して行く、百鯨団。
「・・・悪魔?」
疑問を抱き、トールの顔をちらりと見る、ヘル。
開いた口を閉ざし、ヘルから目線を逸らした、トール。
「…行くぞ…受付はあっちだ」
「・・・え⁈聞き流された⁇」
悪魔の王子って・・・何⁈




