30話 悪意を含んだ笑顔は、本当に怖い
どしどしと歩き、部屋に近づいて来る、トール。
「ヘル!聞かれてしまったか・・・」
「え~と・・・」
何となく気まずい二人・・・
「・・・ふー入れ!何か用事があって、訪ねたのだろ?」
「・・・はい」
部屋のソファーに腰かけたヘルに、水を淹れたジョッキを差し出す。
「ミノタウロス・・・難しいな・・・」
「どうして?」
「ミノタウロス…別名、森の番人」
「魔獣が巣くう森の最奥で、集落を造り住み、森を汚す侵入者を排除する」
「人間が一歩でも森に足を踏み入れたならば、容赦なく集団で狩り殺しに来る」
「ミノタウロス集落の殲滅には、国家規模の兵力を要すると言われている…」
ミノタウロス…怖!
狩り殺すなんて言葉、初めて聞いた!
国家規模の兵力って…魔獣ってそんなに強いんだ…
「・・・ありがとうございます、トール兄様…諦めます」
「お待ちください、ヘル様!私に一つ、心当たりが!」
ヘルの影に忍び、二人の会話を盗み聞きしていたクラストが現れる。
「・・・何時から居たの?」
「私は常に、ヘル様を見守っております!」
毅然とした態度でお辞儀をする、クラスト。
怖いな~ミノタウロスより怖いかも~
「…で、心当たりって何?」
「ミノタウロス狩りに特化した冒険者が居ると、聞いたことがあります」
「じゃあ…ミルクの採取も、その冒険者に頼めば!」
「いえ。おそらく、彼らが受ける目的は、ミノタウロスの角です」
「ミノタウロスの角は、万能薬の材料として、高値で取引されています」
「ミルクは、保存も運搬も難しく、簡単には引き受けてもらえないかと…」
「でも…トール兄様の頼みなら、どんな冒険者でも聞いてくれますよね?」
「う、う~ん…知り合いの冒険者では無いからな~」
歯切れの悪い返答を続ける、トール。
トール兄様は、魔獣王ドラゴンを単独で討伐した。
魔獣の大規模討伐にも参加しているから、大抵の冒険者とは、顔見知りのはず…
何か隠している匂いがする・・・
「では、参りましょう。トールお兄様!」
「え?どこへ?」
「勿論・・・冒険者が集まる所ですよ?」
日頃の鬱憤のせいか、ミルクを追い求める衝動のせいか、ヘルの笑顔は悪意に満ちていた。




